第18話 ここは宝庫じゃない、修理待ちの棚だ
修理を待つ棚だった。
俺たちが廃棄庫と呼んでいた場所の、本当の名前は第十三保守庫。
壊れた道具を集め、危険を封じ、直せる人間を待つための施設だった。
「誰も、戻ってこなかったのか」
ノルはすぐには答えなかった。
古い日誌へ嘴を当て、擦り切れた文字を一つずつ示した。
『最終保守記録から、更新なし』
帰ってこなかった理由までは、残っていない。
俺は勝手な物語をつけ足さず、日誌を閉じた。
「じゃあ、俺たちが途中からやる」
鳥が俺を見た。
『継続作業には、内容の引継ぎを要求』
「分かってる。最初から教えてくれ」
◇
ノルの説明は、長かった。
だが、全部覚える必要はなかった。
リシェが大事なところを三つに絞った。
「帰庫は、品を持ち出させないため。格納台は、余分な魔力を逃がすため。管理台は、どこへ流すかを決めるため」
俺は、最初の杯を手に取った。
帰庫を外すだけで、格納台の働きまで止まる物がある。
なら、先に別の逃がし先を用意する。
それが、正しい修理の順番だった。
奥の棚には、格納台を載せる運搬用の枠があった。
規格が同じで、番号を登録できる。
だが、十八枚しか残っていない。
「最初の十八点、ちょうどよかったな」
「偶然に頼らないで。載せられる重さも調べるわよ」
リシェは容赦がない。
俺も、今はその方がありがたい。
小さな杯を、枠へ移す。
ノルが管理台で番号を照合する。
俺は義眼で、青い線が枠の小さな魔石へつながるのを確かめた。
冷めるまで待つ。
温度を測る。
そして初めて、帰庫の黒い糸を、空の保管札へ移す。
杯は戻らない。
だが、熱くもならなかった。
俺は杯を入口へ運んだ。
一歩、外へ。
掌の重みは、消えない。
「出た」
小さな声が、自分の口から漏れた。
セラが杯へ触れ、指で縁の温度を確かめた。
「七回、できなかったことが」
「七回分の記録を、使ったからだ」
俺は杯を彼女へ渡した。
セラは割れ物を持つ以上に、慎重に受け取った。
保管札は、庫内の施錠箱へ入れる。
帰庫の呪い自体は残っているから、むやみに外へ持ち出さない。
札は安全な場所で管理し、回収品とは分ける。
全部を一度に運べるわけではない。
十八点を終えたら、枠を追加で作るか、使い回すか検討が必要だ。
それでも、道はできた。
エダは野営地の机へ杯を置き、少し冷めた茶を注いだ。
俺たちは交代で、温度の変化を確かめた。
宝を手に入れるというのは、こうして茶を冷まさず飲めることでもある。
だが、その話を聞いたエルンは、杯を見なかった。
王冠のある奥の方を見た。
「その枠を使えば、王冠も運べますね」
「まだ無理だ。つながってる設備が多すぎる」
「帰庫の呪いを外して、元の電源を切ればいいのでは?」
俺は顔を上げた。
「切ったとき、余った魔力がどこへ行くか分かってない」
男の笑みが消える。
リシェが机の上の杯を、俺たちの間へ置いた。
「一つずつです。今日、最初の一つができたところなんです」
エルンは杯の湯気を見つめた。
その目が、嬉しそうではなかった。
次話、鍵が回り、保管庫の隔離運転が始まります。




