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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第17話 値下げ交渉の前に、命の話をしよう

 翌朝、エルンは謝罪文を持ってきた。

 紙は上等だった。

 書かれていることは、上等ではなかった。


「装置の誤作動により、検分に支障を及ぼしたことを遺憾に――」

「あなたが王冠を着けたことは、どこに書いてあるんです?」


 リシェが途中で止めた。

 エルンは笑みを崩さない。


「不慣れな遺物です。そちらにも、事前説明の不足があったのでは」


 セラが、昨日署名された立入条件を出した。

 無断接触禁止。

 隔離区画への立入禁止。

 二つの下へ、男自身の署名がある。


「謝罪の受領と事実の確認は別です。記録は書き換えません」


 エルンの笑みが、一瞬だけ止まった。


「私は出資者に報告する立場です。無価値な品のために費用だけ増えたとは、書けませんので」

「だったら、使える品の試験を見てくれ」


 俺は、車軸の検分票を机へ置いた。


「危ない物を一つ持ち帰るより、働く物を十八点確かめた方がいい。金になるかどうかも、そこで見ればいい」


 リシェが俺へ目を向ける。

 俺は続けた。


「ただし、公開で。誰が試しても同じ条件にする。具合の悪いところも隠さない」


 エルンはしばらく黙り、それから車軸の紙を取った。


「よろしい。買い手の候補も呼びましょう」


 その言葉に、セラが一筆加えた。

 来訪者は野営地まで。庫内には入れない。

 今度は男も、文句を言わずに署名した。


     ◇


 検分用の品は、まだ外へ出せない。

 試験は入口に近い安全区画で行い、記録を野営地へ運ぶことにした。

 写しだけでは、使ったときの手応えまでは伝わらない。

 だからこそ、複数人が見て、同じ測り方をする。


 エダが荷を積み、ゼンが重さを量る。

 リシェが結果を書き、セラが写しを取る。

 俺は呪いと魔力の流れを確認する。


 保温杯は、湯を沸かせない。

 ただ、冷めにくくするだけだ。

 盾は、長く受ければ熱で割れる。

 脚立は、重い鎧の人間を二人も支えられない。


「売りたいのに、弱いところばかり書くんですね」


 エルンの従業員が、俺へ小声で言った。

 昨日、壁際にいた若者だった。


「先に分かっていれば、壊さず使えるだろ」

「でも、値段が」

「壊して怪我をした客が、次も買いに来ると思うか?」


 若者は、帳面へ目を落とした。

 その後は黙って、石を運ぶのを手伝った。


 昼過ぎ、ゼンが俺の袖を引いた。

 机の端に、小さな鍵が置かれている。

 エルンが過去の調査で預かった、管理区画の手動鍵だという。

 昨日の予備登録板と一緒に、提出された物だった。


「これ、管理台の裏の鍵穴と同じ形だ」

「使ったことは?」

「過去の報告にはない。所持品の一覧には、ある」


 ノルへ見せた。


『保守電源の切離し鍵。予備系統への接続完了前に使用してはならない』


 リシェが、鍵の下へ赤い紙を敷いた。

 使用禁止。検分待ち。


 エルンはそれを見て、肩をすくめた。


「危ないなら、そちらで預かってください。鍵を使えたら、皆さんを呼ぶ必要はなかった」


 セラが封をした。

 俺は男の顔を見た。

 何も言わなかった。


 大事なのは、怪しい人間を睨み続けることではない。

 誰がやっても事故にならないように、手順と物を分けておくことだ。


 その夜、ノルが持ってきた日誌の最後に、古い見取図を見つけた。

 『廃棄』の文字は、どこにもなかった。

 代わりに、細い字で書かれていた。


 第十三保守庫。戻すべき物を、戻せる日まで預かる。


次話、「帰庫」を外したら壊れる理由と、安全な持ち出し方がつながります。

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