第17話 値下げ交渉の前に、命の話をしよう
翌朝、エルンは謝罪文を持ってきた。
紙は上等だった。
書かれていることは、上等ではなかった。
「装置の誤作動により、検分に支障を及ぼしたことを遺憾に――」
「あなたが王冠を着けたことは、どこに書いてあるんです?」
リシェが途中で止めた。
エルンは笑みを崩さない。
「不慣れな遺物です。そちらにも、事前説明の不足があったのでは」
セラが、昨日署名された立入条件を出した。
無断接触禁止。
隔離区画への立入禁止。
二つの下へ、男自身の署名がある。
「謝罪の受領と事実の確認は別です。記録は書き換えません」
エルンの笑みが、一瞬だけ止まった。
「私は出資者に報告する立場です。無価値な品のために費用だけ増えたとは、書けませんので」
「だったら、使える品の試験を見てくれ」
俺は、車軸の検分票を机へ置いた。
「危ない物を一つ持ち帰るより、働く物を十八点確かめた方がいい。金になるかどうかも、そこで見ればいい」
リシェが俺へ目を向ける。
俺は続けた。
「ただし、公開で。誰が試しても同じ条件にする。具合の悪いところも隠さない」
エルンはしばらく黙り、それから車軸の紙を取った。
「よろしい。買い手の候補も呼びましょう」
その言葉に、セラが一筆加えた。
来訪者は野営地まで。庫内には入れない。
今度は男も、文句を言わずに署名した。
◇
検分用の品は、まだ外へ出せない。
試験は入口に近い安全区画で行い、記録を野営地へ運ぶことにした。
写しだけでは、使ったときの手応えまでは伝わらない。
だからこそ、複数人が見て、同じ測り方をする。
エダが荷を積み、ゼンが重さを量る。
リシェが結果を書き、セラが写しを取る。
俺は呪いと魔力の流れを確認する。
保温杯は、湯を沸かせない。
ただ、冷めにくくするだけだ。
盾は、長く受ければ熱で割れる。
脚立は、重い鎧の人間を二人も支えられない。
「売りたいのに、弱いところばかり書くんですね」
エルンの従業員が、俺へ小声で言った。
昨日、壁際にいた若者だった。
「先に分かっていれば、壊さず使えるだろ」
「でも、値段が」
「壊して怪我をした客が、次も買いに来ると思うか?」
若者は、帳面へ目を落とした。
その後は黙って、石を運ぶのを手伝った。
昼過ぎ、ゼンが俺の袖を引いた。
机の端に、小さな鍵が置かれている。
エルンが過去の調査で預かった、管理区画の手動鍵だという。
昨日の予備登録板と一緒に、提出された物だった。
「これ、管理台の裏の鍵穴と同じ形だ」
「使ったことは?」
「過去の報告にはない。所持品の一覧には、ある」
ノルへ見せた。
『保守電源の切離し鍵。予備系統への接続完了前に使用してはならない』
リシェが、鍵の下へ赤い紙を敷いた。
使用禁止。検分待ち。
エルンはそれを見て、肩をすくめた。
「危ないなら、そちらで預かってください。鍵を使えたら、皆さんを呼ぶ必要はなかった」
セラが封をした。
俺は男の顔を見た。
何も言わなかった。
大事なのは、怪しい人間を睨み続けることではない。
誰がやっても事故にならないように、手順と物を分けておくことだ。
その夜、ノルが持ってきた日誌の最後に、古い見取図を見つけた。
『廃棄』の文字は、どこにもなかった。
代わりに、細い字で書かれていた。
第十三保守庫。戻すべき物を、戻せる日まで預かる。
次話、「帰庫」を外したら壊れる理由と、安全な持ち出し方がつながります。




