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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第16話 呪いを外せば、壊れる宝もある

 高く売れる王冠より、地味な脚立が役に立った。


 エダが脚立を広げ、低い石壁へ渡す。

 俺とゼンは、その上へ乗った。

 床がふさがっていても、上まで閉じてはいない。


 足場が軋む。

 エダが下から支える。


「道具の限界、さっき試しておいてよかったね」

「本当に」


 俺は返事をしながら、管理台へ手を伸ばした。

 五本の指が入る窪み。

 古い床の青い線が、ここへ集まっている。


『登録者、接続を確認』


 ノルの声とともに、台の表面へ図が浮いた。

 開いた蓋。

 通路をふさぐ床。

 その二つへ、細い線がつながっている。


「指示を消すのは、これか」

『取消し対象を選択』


 炉の蓋の図へ触れる。

 すぐには動かない。

 代わりに、危険という意味の赤い印が点った。


『動作経路に障害物』


 箱の縁へ、エルンの上着の裾が挟まっていた。

 俺が勢いよく蓋を閉じれば、男を引きずり込んでいたかもしれない。

 指示を出す前に止める仕組みが、ちゃんとあった。


「上着を脱げ。そこから引っ張る」


 男は震える手で留め具を外した。

 俺が布を引き抜く。

 もう一度、取消しの図へ触れた。


 蓋が閉じる。

 熱い風が止まった。

 次に、床の図へ触れる。

 石の段が一枚ずつ沈み、通路が戻る。


 ゼンが盾を下ろした。

 縁の魔石は、赤くなっていた。

 リシェが濡れ布を押し当てる。


「もう使わないで。割れる寸前よ」

「分かった」


 勝った顔で、もう一度使いたくなる。

 そういう自分の手を、俺は机の上へ置いて止めた。


 エルンの冠を、ゼンと二人で持ち上げる。

 外れた途端、男は大きく息を吸った。


「あの呪いを、早く――」

「外しません」


 セラが、男と冠の間へ入った。


「立入条件違反です。検分中の品へ無断接触した記録を残します。今日は戻ってください」

「私は調査費を払ったんですよ」

「過去の費用は、今回の作業を危険にさらす権利にはなりません」


 エルンは何か言いかけて、黙った。

 今度は、自分で。


     ◇


 帰る前に、俺は王冠を調べ直した。

 発声を止める呪いは、残す。

 道具として直すなら、命令の数を減らす方が先だ。


 リシェが、帳面の見出しを書き換えた。

 解呪対象ではなく、保守対象。


「全部、外せばいいわけじゃなかったのね」

「外した後のことまで、考えてなかった」


 俺には、呪いが見える。

 だから見えた物を抜くのが、一番早い仕事だと思いがちだった。

 だが、杯は過熱した。

 王冠は、使った男を止めた。

 同じ黒い糸でも、働きは違う。


『保守には、保存を含む』


 ノルが言った。

 俺は小さくうなずく。


「分かった。外す前に、何を止めてるか聞く」


 鳥は羽を一度たたんだ。

 机の隅には、古い保守日誌が何冊もあった。

 ノルだけでは読めず、俺だけでも分からない。

 リシェが最初の一冊を開く。


 保管区分、未修理。

 用途、再使用待機。


 俺は棚の奥まで見渡した。

 捨てられた物にしては、丁寧に並べられすぎていた。


「ここ、本当に廃棄庫なのか?」


 ノルの目が、一度だけ明るくなった。


『施設名称の訂正を要求』


次話、査定の条件を巡る交渉と、保管庫の本当の名前へ。

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