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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第15話 王冠は、おしゃべりな人から黙らせる

 王冠は、しゃべる人間を黙らせる。

 そう気づいたときには、エルンの口からもう声が出なくなっていた。


 俺が奥の部屋へ駆け込むと、男は王冠を頭へ載せ、喉を押さえていた。

 指示を出そうとしている。

 唇だけが、忙しく動く。


「触るなって言っただろ!」


 俺が近づこうとすると、ゼンが腕を伸ばした。

 床の石が、俺たちの前へせり上がってくる。

 壁ではない。低い段が一枚ずつ積み重なり、通路をふさいでいく。


「さっき、『こっちへ来るな』って言った」


 エダが向こう側を指した。

 エルンの従業員が二人、壁際で身を縮めている。


「その前は?」

「金の箱を開けろって」


 奥で蓋の開いた金属箱が、赤い光を漏らしていた。

 ノルが短い警告音を鳴らす。


『保守炉の保護蓋、開放。接近禁止』


 金の箱ではなかった。

 錆びない金属の表面を、エルンは金と見間違えたのだ。


 俺は義眼をかけた。

 王冠から床へ、青い線が何本も伸びている。

 黒い糸は、冠の内側へ輪を作っていた。


「ノル。冠の仕事は?」

『作業指揮。音声指示を受領し、登録設備へ配分』

「止め方は?」

『着用解除。ただし、実行中の設備停止は別指示を要する』


 冠を脱がせるだけでは、床は戻らない。

 保護蓋も閉じない。

 先に、出してしまった命令を止める必要があった。


 エルンが俺たちを見て、何か叫ぼうとする。

 声は出ない。

 だが、唇が動くたび、床の青い線が脈打つ。


「しゃべろうとするな。口を閉じてろ!」


 俺は手で口をふさぐ仕草を見せた。

 エルンは最初、怒ったような顔をした。

 ノルの警告音が速くなって、ようやく唇を結ぶ。

 床の動きが、少し鈍った。


 盾を、ゼンへ渡す。


「炉の前を、風が通ってる。あれを受けてくれ。俺は横から行く」

「三息までだ。魔石を焼くぞ」

「二息で抜ける」


 俺はゼンの背中へぴったりついた。

 盾の光が震える。

 熱い風が頬へ触れる。

 足元の綱を跨ぎ、王冠の後ろへ回り込んだ。


 エルンは俺の手をつかもうとした。


「助ける。だから、動くな」


 今度はうなずいた。

 冠へ触れる。


〈飽和停止:指示量が受領限界を超えた場合、着用者の発声を停止する〉


 喉を潰す呪いではない。

 命令を止めるための、最後の栓だ。

 外したら、また命令が流れ込む。


「レイ、外せる?」


 向こう側から、リシェが呼んだ。

 俺は冠に触れたまま、首を振る。


「今は、外しちゃ駄目だ」


 解呪師を呼んだのに解呪しない。

 エルンの目が、大きく見開かれた。

 俺はその目を見返した。


「今あんたを黙らせてる物が、俺たちを守ってる」


 ノルが俺の肩から飛び、壁の窪みへ脚を差し込んだ。

 金属の羽が、白く光る。


『臨時保守者へ提案。命令の消去には、管理台への接続を推奨』


 管理台は、炉の向こう側にあった。


次話、王冠を止めるため、レイたちは管理台を目指します。

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