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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第14話 最初の十八点に、ちゃんと値段をつける

 十八点の遺物を買いたい、と言ってきた男は、まだ一つも現物を見ていなかった。


「全部で金貨二枚。運び出せるなら、の話ですが」


 野営地の机へ、丸い金貨を二枚置く。

 男の名はエルン。

 以前の調査費を出した商人の一人で、組合の許可を得て検分に来たらしい。


 セラが許可証と男の顔を見比べる。


「立会いであって、売買を決める許可ではありません」

「失敗した費用を取り戻す手伝いですよ。古道具十八点に、これだけ払う者は少ない」


 男の視線が、俺へ向いた。


「君なら、金貨二枚の重みが分かるでしょう」

「分かる。収納袋一つ買ったらなくなる」


 エルンは笑った。

 リシェは笑わなかった。


「十八点は、査定する順番です。売る品も売値も、まだ決まっていません」


 彼女は帳面を開いた。

 最初の杯から、昨日の盾まで、試したことが全部書かれている。


「これは保温用。これは風よけ。こっちの車軸は、荷を軽くする可能性がある。全部まとめて、使えない古道具と呼ばないでください」

「可能性では、金は払えない」

「だから、まだ売らないんです」


 机の二枚が、やけに薄く見えた。

 俺なら買いたい額だ。

 売る側になってみると、その安さがよく分かった。


 エルンは金貨をしまった。


「では、検分が済んでからにしましょう」


 引き際は、きれいだった。

 だから、俺もそれ以上は何も言わなかった。


     ◇


 庫内の車軸は、持ち上げると軽かった。

 木の台へ載せ、左右に小さな車輪をつける。

 エダが用意した実験用の台車だ。


 石を載せる。

 普通の軸と引き比べる。

 エダは二本の綱を交互に引き、眉を上げた。


「こっちは、半分も力がいらない」


 喜びかけたところで、台車が勝手に動いた。

 坂のない床を、ずるずる進む。

 エダが綱を柱へ回し、一瞬で止めた。


「そっちが呪い?」

「たぶん」


 軸の端へ触れる。


〈逸走:停止後、最後に進んだ方向への回転を再開する〉


 止めた荷車が、また走る。

 荷役の道具としては、ひどい欠陥だった。

 俺は呪いを鉄筒へ移した。

 帰庫の糸は残す。


 もう一度、石を載せる。

 軽く動き、手を離すと止まった。

 エダは台車を一往復させてから、車軸の前へしゃがみ込んだ。


「これ、坂で止める試験もして。引くとき楽でも、下りで止まらなかったら危ない」


 リシェが新しい試験欄を書き足す。

 俺はエダを見た。


「欲しいか?」

「欲しい。でも、使えるって分かってからね」


 まっとうな返事だった。

 まっとうな道具を売るには、こういう時間が要るのだ。


 保温杯は、帰庫を残したまま温度を測る。

 脚立は、開いた角度と耐えられる重さを記録する。

 盾は何度も冷ましながら、強さの違う風を受けた。


 十八点を一日では終えられなかった。

 だが、夕方の帳面には、十八という数字より多くのものが残った。

 誰が、どこで、何のために使うか。

 そういう値段の根拠だ。


 出口へ向かうと、エルンが奥の棚を見上げていた。

 視線の先に、王冠がある。

 装飾の銀はくすんでいるが、中央の石だけが透き通っていた。


「あれなら、一つで百枚だ」


 男は、独り言のように言った。

 ノルが俺の肩で羽を閉じる。


『隔離品への接近を制限』


 エルンは笑って両手を上げた。

 ただ、その指先が、机に置かれた予備の登録板を一度だけ撫でた。


次話、保管庫の王冠に起きる異変。高そうな物ほど、先に手を出してはいけません。

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