第14話 最初の十八点に、ちゃんと値段をつける
十八点の遺物を買いたい、と言ってきた男は、まだ一つも現物を見ていなかった。
「全部で金貨二枚。運び出せるなら、の話ですが」
野営地の机へ、丸い金貨を二枚置く。
男の名はエルン。
以前の調査費を出した商人の一人で、組合の許可を得て検分に来たらしい。
セラが許可証と男の顔を見比べる。
「立会いであって、売買を決める許可ではありません」
「失敗した費用を取り戻す手伝いですよ。古道具十八点に、これだけ払う者は少ない」
男の視線が、俺へ向いた。
「君なら、金貨二枚の重みが分かるでしょう」
「分かる。収納袋一つ買ったらなくなる」
エルンは笑った。
リシェは笑わなかった。
「十八点は、査定する順番です。売る品も売値も、まだ決まっていません」
彼女は帳面を開いた。
最初の杯から、昨日の盾まで、試したことが全部書かれている。
「これは保温用。これは風よけ。こっちの車軸は、荷を軽くする可能性がある。全部まとめて、使えない古道具と呼ばないでください」
「可能性では、金は払えない」
「だから、まだ売らないんです」
机の二枚が、やけに薄く見えた。
俺なら買いたい額だ。
売る側になってみると、その安さがよく分かった。
エルンは金貨をしまった。
「では、検分が済んでからにしましょう」
引き際は、きれいだった。
だから、俺もそれ以上は何も言わなかった。
◇
庫内の車軸は、持ち上げると軽かった。
木の台へ載せ、左右に小さな車輪をつける。
エダが用意した実験用の台車だ。
石を載せる。
普通の軸と引き比べる。
エダは二本の綱を交互に引き、眉を上げた。
「こっちは、半分も力がいらない」
喜びかけたところで、台車が勝手に動いた。
坂のない床を、ずるずる進む。
エダが綱を柱へ回し、一瞬で止めた。
「そっちが呪い?」
「たぶん」
軸の端へ触れる。
〈逸走:停止後、最後に進んだ方向への回転を再開する〉
止めた荷車が、また走る。
荷役の道具としては、ひどい欠陥だった。
俺は呪いを鉄筒へ移した。
帰庫の糸は残す。
もう一度、石を載せる。
軽く動き、手を離すと止まった。
エダは台車を一往復させてから、車軸の前へしゃがみ込んだ。
「これ、坂で止める試験もして。引くとき楽でも、下りで止まらなかったら危ない」
リシェが新しい試験欄を書き足す。
俺はエダを見た。
「欲しいか?」
「欲しい。でも、使えるって分かってからね」
まっとうな返事だった。
まっとうな道具を売るには、こういう時間が要るのだ。
保温杯は、帰庫を残したまま温度を測る。
脚立は、開いた角度と耐えられる重さを記録する。
盾は何度も冷ましながら、強さの違う風を受けた。
十八点を一日では終えられなかった。
だが、夕方の帳面には、十八という数字より多くのものが残った。
誰が、どこで、何のために使うか。
そういう値段の根拠だ。
出口へ向かうと、エルンが奥の棚を見上げていた。
視線の先に、王冠がある。
装飾の銀はくすんでいるが、中央の石だけが透き通っていた。
「あれなら、一つで百枚だ」
男は、独り言のように言った。
ノルが俺の肩で羽を閉じる。
『隔離品への接近を制限』
エルンは笑って両手を上げた。
ただ、その指先が、机に置かれた予備の登録板を一度だけ撫でた。
次話、保管庫の王冠に起きる異変。高そうな物ほど、先に手を出してはいけません。




