第13話 持ち出し禁止の司書鳥
金属の鳥は、俺の掌を足で二度踏んだ。
『保持台の安定を確認』
「俺の手を台って呼ぶな」
『呼称変更。レイの手』
リシェが吹き出す。
俺は鳥を作業机へ下ろした。
銀色の羽には傷が多い。胸に刻まれた文字は、磨り減って半分ほど読めなかった。
「お前の名前は?」
『保守端末、第六号』
「短いのは」
『登録呼称、ノル』
今度は答えが早かった。
誰かが昔、同じことを聞いたのかもしれない。
「ノル。さっきの壁に触ったら、言葉が分かった。あれは何だ?」
『作業指示の共有。接続者の語彙へ変換』
読めない文字を何でも読めるようになったわけではない。
壁の装置が、こちらに分かる形で意味を渡してきたのだ。
今はノルが、その役を引き継いでいるらしい。
セラが鳥の前へ屈んだ。
「私はこの場所の現在の管理を任されています。あなたと、保管品の状態を調べたい」
『所有移転の証明を要求』
「それは……残っていません」
セラはごまかさなかった。
組合が国から調査権を得ていても、古代の持ち主から譲られた証明はない。
ノルの目が細く光る。
『所有は確定不能。保守作業のみ、臨時権限を維持』
「十分だ。売る前に、壊れてるところを直す」
俺が言うと、ノルは首を回した。
『正当な作業目的と認定。破損三十八。過熱六。照合不能二百六十八』
リシェの筆が止まる。
「合わせて、三百十二」
『保管番号は連続。所在は別途照合を要する』
鳥は翼を開いた。
飛べるかと思ったが、片方が途中で引っかかる。
軸の隙間へ、金属片が噛んでいた。
「それ、取っていいか」
『保守を許可』
工具で摘み、そっと抜く。
小指の爪ほどの薄片だった。
ノルが両翼を広げる。
羽の先から、埃が落ちた。
『開閉正常』
鳥は少しだけ翼を広げたままでいた。
俺も、何も言わなかった。
◇
その日、俺たちは奥へ進まなかった。
ノルの記録と、七回分の報告を照らし合わせた。
同じ壺が、違う番号で二度描かれている。
逆に、壁の陰の小物が記録から抜けていた。
棚の区画ごとに色をつける。
触ってもよい物。まだ触らない物。近づかない物。
紙が埋まるほど、危険な場所が狭くなっていった。
「明日は、ここの十八点を調べたい」
リシェが、入口寄りの一角を囲った。
小さな杯、留め具、車輪の軸、畳まれた脚立。
どれも見た目は地味だ。
「王冠もあるぞ」
俺が奥の棚を指すと、ノルが嘴を鳴らした。
『隔離対象。保守優先度、最低』
「一番高そうなのに」
『用途に対し、危険が過大』
リシェが満足そうにうなずいた。
「いい鑑定をするわね、この子」
俺は十八点の番号を、もう一度見た。
店の棚へ並んだとき、誰が使うか想像できる。
王冠より、車軸の方にエダの顔が浮かんだ。
「分かった。まずは、使う人がいる物から」
帰り際、ノルが俺の肩へ跳び乗った。
入口の境まで来たところで、姿が消える。
振り返ると、鳥は奥の作業机にいた。
『庫外行動、未許可』
その声だけが、妙に小さく聞こえた。
俺は入口へ戻り、屈んだ。
「明日も来る。直す物、選んでおいてくれ」
ノルは片翼を上げた。
『保守予定を登録』
帰る場所があるのと、帰る場所から出られないのは、違う。
いつか、こいつにも外の道を見せてやりたかった。
次話は、最初の十八点の査定へ。使う人が見えると、遺物の値段も変わります。




