第12話 強い人ほど、持ち方を間違える
「触るな」
ゼンの声に、俺は伸ばしかけた手を止めた。
金属の鳥は、脚を細い輪へ挟まれている。
翼は片方だけ開き、もう片方は胸へ折り畳まれていた。
助けてくれ、と言っているように見えた。
そう見えるように作った罠かもしれない。
ゼンは床へ屈み、鳥の真下の石を槍の石突で叩いた。
低い音が返る。
その隣は、高い。
「下は空洞だ。吊ってる輪も、天井の滑車につながってる」
義眼をかける。
青い線が、鳥から床下へ流れていた。
黒い糸は、脚の輪にある。
両方が、同じ場所を通っている。
「救うだけなら、輪を斬れそうだけど」
「何が動くか、先に見よう」
俺は剣から手を離した。
今日、何度も止められている。
だが、止めるたびにゼンは理由を見せた。
それなら、腹を立てるより覚えた方が得だ。
エダが長い板を二枚持ってきた。
入口の丈夫な床と、壁際の石段に渡す。
俺たちは板の上を進み、鳥の横へ近づいた。
「足場を作るの、早いな」
「荷台にない道は、自分で作るから」
エダは板の端を靴で踏み、軋みを確かめた。
輪へ触れると、文字が浮く。
〈検分留置:管理権限のない者による端末の移動を禁ずる〉
鳥は、捕虜ではない。
持ち主が動かしてはいけない、と決めた道具だ。
その決め方が、今も生きている。
俺は近くの壁を調べた。
指の入る窪みが五つ。
同じ形の跡が、鳥の胸にもある。
「これ、どこかを押すんじゃなくて、権限を渡す場所じゃないか?」
リシェが以前の記録を広げる。
二回目の調査隊が、同じ部屋を描いていた。
窪みに手を置いたら、聞き取れない音がしたという。
「やってみる。何か動いたら、綱を引いてくれ」
壁へ掌を置いた。
低い音がする。
鳥が、片目を開いた。
『管理者、不在。管理者、不在』
古い言葉だったが、二度目には意味が分かった。
壁の文字へ触れている間だけ、言葉が頭へ形を持って入ってくる。
呪いを読んだときに似ている。
「所有者の代理が来てる。検分官セラだ」
セラが組合の登録板を掲げた。
鳥は見なかった。
金属の嘴が、同じ言葉を繰り返す。
今の組合の印を、昔の装置が知っているわけがない。
「じゃあ、所有者じゃなくて、修理をする奴なら?」
壁の文字を指でなぞる。
読めるのは、意味が残っている部分だけだ。
管理。検分。停止。
その下に、小さな四角があった。
保守。
「ここだ」
俺はそこへ指を置いた。
鳥の目が、両方開く。
『保守者。作業対象を申告せよ』
「まず、お前の脚」
鳥は一度黙った。
金属の翼が、わずかに震える。
『自己検査。留置機構の解除不良を確認』
俺の足元で、何かが大きく鳴った。
ゼンが綱を握る。
俺は動かなかった。
床の青い線が、一つずつ順番に消えている。
『作業足場を固定。臨時保守者を受け入れる』
鳥の脚から、輪が外れた。
落ちる寸前、俺が両手で受け止める。
思ったより重い。
鳥は俺の指の上で姿勢を直すと、はっきり言った。
『落下のおそれ。保持方法の改善を要求』
「お前、礼より注文が先かよ」
ゼンが、初めて声を上げて笑った。
次話、保守端末ノルの登録と、三百十二点の仕分けへ。




