第11話 銅貨二枚の盾で、金貨の道を開ける
盾を握ると、親指の下へ文字が浮いた。
〈迎撃:防ぐべき力を受けた場合、使用者をその方向へ二歩分押し出す〉
俺は文字を読み上げた。
ゼンが盾を見つめ、短く息を吐く。
「盾を構えて、矢の方へ走らされるのか」
「前の調査で肩を打った人、それだと思う」
試す場所には、床の青い線が通っていない隅を選んだ。
命綱を短くする。
足元には、縄で縛った重い木箱を置いた。
リシェは遠くから見守り、エダが俺の腰綱を持つ。
「石を投げる。痛そうなら言え」
ゼンが小石を放った。
俺が盾を向けると、表面の前に薄い光が生まれる。
石は弾かれた。
同時に、身体が前へ持っていかれた。
綱が張る。
胸が詰まり、俺は膝をついた。
「痛い!」
「言うのが遅い」
ゼンが俺を起こす。
今の一回で、二つ分かった。
盾の防御は働く。
飛ばす呪いは、それを台無しにしている。
古い籠手の足止めは、使わないことにした。
飛ぶ力と止まる力を、自分の膝で受け比べる必要はない。
最初から綱で確かめればよかったのだ。
「見た目より、真面目に反省するんだな」
「見た目は余計だ」
俺は盾の縁を左手で押さえ、右手で空の鉄筒を握った。
黒い糸を引く。
細い。鎧のときほど重くない。
それでも、ゆっくり移した。
傷の治った指を、また裂く気はなかった。
筒へ糸が落ちた後、盾を格納台へ戻す。
帰庫の糸は残したままだ。
青い線に、乱れはない。
「もう一度」
今度の石も弾かれた。
俺の足は動かなかった。
リシェが、握っていた筆を置く。
「防御範囲は盾より少し広い。強い力を続けて受けると、縁の魔石が熱を持つ。使用間隔が必要ね」
「売れる?」
「試験が終われば。まず、ここで使いましょう」
彼女の視線の先には、奥へ続く細い通路があった。
そこだけ、埃が積もっていない。
壁の穴から、一定の間隔で風が吹いていた。
◇
義眼で見ると、青い線は壁の穴へ集中していた。
人が通ると、光が強くなる。
道を掃除する仕掛けか、侵入者を押し戻す仕掛けか。
分からない以上、身体で確かめたくはない。
ゼンが槍の柄に布袋を結び、通路へ出した。
布袋は横へ吹き飛んだ。
槍を握っていた腕まで引かれる。
「これを越えられず、前回は反対側から回った」
「その先で床が動いた?」
「ああ」
俺は盾を持ち上げた。
リシェが、エダの結んだ腰綱を確かめる。
「一回目は、通りきろうとしないで。風を一度受けたら戻ること」
うなずいて、通路へ入る。
音が変わった。
風が盾へぶつかり、光の板が白く震える。
足は動かない。
縁の魔石へ、熱が溜まる。
俺は数を三つ数え、後ろへ下がった。
エダが盾へ濡れ布を当てた。
しゅ、と小さな音がした。
「冷ます間があれば、行ける」
次はゼンが盾を持った。
槍を置き、盾を両手で握る。
俺たちは風の切れ目に合わせ、短い距離を進んだ。
一人では、熱を逃がす布も、背中の綱も持てない。
四人で動くと、二銅貨の盾が道を開いた。
奥の扉へ着く。
ゼンが盾を下ろし、俺を振り返った。
「これ、前の七組にも欲しかったな」
「前の七組が、風の間隔を調べてくれたから使えた」
彼は少しだけ黙った。
それから、扉の取っ手へ手を伸ばす。
「じゃあ、次へ渡せる記録も残そう」
扉が開いた。
中では、小さな金属の鳥が、逆さになって吊られていた。
次話、奥の部屋で見つけた金属の鳥。助ける前に、足元を確かめる必要がありそうです。




