#12忘れられたもの
しばらく進むと、前方に何か見えてきた。目を細めて見ると、四角く切り揃えられた岩が並び、建造物のようになっていた。
足音も変わる。見ると、先ほどまでとは違って石畳が敷かれていた。
「これは……」
ハルモンはしゃがみ込み、石畳に触れる。そのまま、前方の建造物の方を見る。
「……ここ、遺跡だね。人が入れない場所に、こんな遺跡が残っているなんて」
ハルモンは立ち上がり、前方の建造物の方へ歩き出す。俺も、すぐ隣について歩いた。
切り揃えられた岩が柱のように並べられ、その中心に地面から少しだけ高さのある四角い岩が置かれている。ハルモンは、しばらく無言で建造物を見ていた。それから、そっと岩の柱に手を伸ばす。
「……これ、見たことない様式だ」
言いながら、そっと溝を指でなぞる。そう言われると、柱に刻まれた紋様は、たしかに見たことのないものだ。文字のようなものも見えるが、普段使っているものとは全く異なっている。谷の近くの街でよく見られた月と剣のモチーフは、ここでは見当たらなかった。
ハルモンは、建ち並ぶ柱を見上げながらぽつりと言う。
「たぶん、何かの儀式に使っていた」
「分かるのか」
「いや、分からない。……でも」
ハルモンはほんの少し目を細める。それから、軽く笑った。
「“使い方”は、なんとなく分かる気がするよ」
ハルモンは紙とペンを取り出すと、建造物を観察しながら何かを書き込んでいく。俺は、その様子をしばらくの間眺めていた。
ふと、後ろに気配を感じる。振り向くと、魔物が一体。犬くらいの大きさだった。四本の足は太く短く、鋭い爪も生えている。さらに、全身が鱗で覆われていた。口元からは小さな牙が覗く。背中には小さな突起が並び、長い尾を引きずっている。
トカゲにしては大きいし、ゴツゴツとした体躯。今まで見たことのない形状の魔物だった。
俺は即座に腰の剣を抜いた。
「……ハルモン、そこでじっとしてろ」
「え?」
返事を待たず、駆ける。一気に距離を詰めた。魔物は、動きが鈍かった。こちらに牙を剥くが、届かない。そのまま首を突いて振り抜くと、力を失って地面に倒れる。肉体が崩れて、辺りに黒いもやとなって霧散した。
すぐに周囲を確認する。だが、他に気配はないようだ。俺は剣を振って鞘に戻す。振り返ると、ハルモンが目を丸くしてこちらを見ていた。
「今の、魔物?」
「ああ。……見たことない形だったな」
腰を落とし、足元の残留物を拾い上げる。
周りを見ると、先ほどまでよりもほんの少し視界が悪い。
「……もやが出てきたな」
「うん。効果が切れてきたのかも」
ハルモンは岩の上から降りてこちらへ寄ってくる。
「戻るか」
「うん」
先ほど降りてきたロープの場所まで戻る。上の二人に手を挙げて合図を送る。上がるときは、ハルモンを先に登らせる。途中で止まれば、下から支えられる。
ハルモンがロープに手が届くまで、俺は後ろに立ってハルモンの腰のあたりに手を添えて、少しだけ持ち上げてやる。
「そこ。足を右にかけろ」
「……あ、届いた」
ロープに手が届いた後は、何かあったら助けられるように下から見守る。上からゼファーが「頑張れー」「もう少しだ」と応援していた。時間をかけてようやく上までたどり着いたハルモンは、アルヴィンとゼファーに引き上げられ、無事に地表に到達した。
俺はもう一度周囲の気配を探る。危険がないことを確認した後、岩に足をかけた。
三歩分でロープに手が届く。そこからは、ロープを頼りに岩に足をかけて登っていく。岩が突き出しているので足場が選びやすく、登りもそれほど大変ではなかった。
登り切って上に到達すると、ハルモンが地面に座り込んでいた。崖の端に手をかけて体を持ち上げて、地表に立つ。軽く膝を払った。
ハルモンが、恨めしそうにこちらを見てくる。
「ライ君は、なんでそんなに余裕なの……」
「……普段から鍛えてる」
俺の言葉にアルヴィンは吹き出し、ゼファーは腹を抱えて笑った。
「ハルモン、落ち込まなくていいぞ。今回の場合は、たぶんお前の方が普通だ」
「……だよね? 腕痛い」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『ギリギリの世界』。
明日11時に更新予定です。
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