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#8選択の確定

※理解できない相手と、離れられない話です。

その日の夜。


夕食を手にハルモンの天幕を訪れた。


散らかった天幕の中で、ハルモンは『女神の涙』を持って眺めている。


「……ハルモン。それは、どういう物なんだ?」


つい、そう尋ねてしまった。


ハルモンは石に向けていた視線を、こちらに向ける。


「そうだな……。簡単に言えば、『離れた距離で意思疎通を可能にするための媒介』なんだ。繋ぎ手は、繋ぎ手同士で、離れていても意思疎通ができるのは有名だろう?」


「ああ。……女神様が残したと言われている」


「そうそう。人が争わずに繋がって、仲良く暮らせるようにってやつだね。……で、この石を使えば、僕たち普通の人間も似たようなことができるようになる。……まあ、そのままでは使えないんだけど」


「……そうなのか?」


「うん。詳細は省くけど、女神の力を持つ者が力を込めて固定することで、他者との対話が可能になる。君も知っているように、女神の力がなくても、誰でもね。便利でしょ?」


「……たしかに、すごいな」


「うん。……この石は本当にすごいんだ。持っていると、まるで女神に語りかけられてるみたい。……不思議だよ」


「そうなのか……。食事、置いておくぞ。後でまた片付けに来る」


「うん!ありがとう」




ハルモンの天幕を後にする。

先ほど聞いた話を思い出しながら、張られた天幕の間を歩く。


(対話ができる石……。まるで、生き物みたいだな)


そう思ったら、そのことがしばらく頭から離れなかった。














九日目の朝、俺は今日も食事を持ってハルモンの天幕を訪れた。


「……今日は散らかってないな。調子悪いのか?」


ハルモンは、ほんの少しだけムッとした。


「ちょっと、それどういう意味?……実は、昨日見つけた『女神の涙』を、父さんに持って帰って来いって言われてるんだ。だから、そろそろ家に帰ろうと思って」



家に、帰る。


急な話に、呆然としてしまった。



「帰るって……まだ病み上がりだろう。王都まで歩くの、平気なのか?」


「うん。たぶん体力落ちてそうだし、時間かけてゆっくり帰ることにするよ」


「…………」


「……カライス君?どうしたの?」


「いや……なんでもない。……これ、置いておく」


「うん。……ありがとう」




天幕を後にした後、そのまま荷運びや片付けなどの作業を始めるが、途中でふと立ち止まっては、作業の手が止まっていることに気がつく。


ハルモンが家に帰ると聞いてから、なんとなく悪い予感がして、心が落ち着かない。



(帰りの途中でハルモンの身に何かあったら)


(また倒れでもしたら、どうするんだ)



……もし、また間に合わなかったら?

そう思ったら、もう止まらなかった。
















僕は食事を終えた後荷物をまとめて、そのまま寝床に座って待っていた。


(カライス君、来ないな……。今日は忙しいのかな)


立ち上がる。


食べ終えた食器が乗ったお盆を持ち、天幕を出た。


近くにいた騎士に声をかける。


「おはようございます。……これはどこに片付けたらいいですか?」


「おはようございます!あちらにお願いできますか?」


「分かりました」


指し示された場所へ行くと、使用済みの食器が重ねられていたので、自分のものもそこに置いた。


「これでよし。……帰ること、伝えないと」


僕は、手の空いていそうな騎士を探して、天幕の間を歩いていった。








僕は、マレディア港湾騎士団の団長の元を訪れ、仕事のために王都へ帰ることを伝えた。


団長からは、改めて人命救助に当たってくれた感謝を伝えられた。


こちらからも、世話になったことに対しお礼を言い、その場を後にする。


(カライス君にもちゃんとお礼をしないと)


あちこち探したが、作業をしている騎士たちの中には見当たらない。


結局、自分の寝泊まりしていた場所まで戻ってきてしまったのだが。


そこに、大柄な男--カライス君の姿があった。


「カライス君、探したよ。……ねぇ、その格好……」


カライス君は、もう騎士団の鎧を身につけていなかった。


代わりに、背中に少しの荷物と剣を持っている。


「ハルモン。俺は、今日で騎士を辞めた。……王都まで、お前に付き添う」


「カライス君……」


一瞬だけ、言葉に詰まる。


だけど、これはカライス君が自分で決めたこと。


それを止める権利も、理由もない。そう思った。


「……うん、わかったよ。……ありがとう」








こうして、二人は街の人々と騎士団員たちに見送られ、マレディア港を後にした。


今日もこの場所には、昔から全く変わらない風が吹いている。


それは、潮の香りのする海風だった。












ここまで読んでいただきありがとうございます。

この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。

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