表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/40

#7境界の侵食

※理解できない相手と、離れられない話です。


七日目の朝。


俺は今日も朝食を届けに、ハルモンの天幕を訪れた。


「ハルモン、入るぞ」


「はーい」


中に入ると、天幕内に薬の匂いが充満していた。


見ると、床や寝床の上まで、薬草と薬道具が広げられており、足の踏み場も無いような状況だ。


ハルモンは鼻に眼鏡をかけており、真剣な表情で何かを混ぜている。


「……元気になったと思ったらこれか」


「つい楽しくなっちゃって……。なんか、朝は頭も冴えてて良いね。……これからは心を入れ替えて朝型になろうかな」


「できるといいな。……とりあえず一回片付けろ。朝飯を置く場所もないぞ」


「ごめんごめん!ちょっと待ってね」




散らかったものをひとまず端に寄せ、食事を置いた。


「……今日はどうする。また出かけるなら付き添うが」


「そうだなぁ。採集もいいけど……とりあえず今やってる調合を試し終わってからにするよ。今良いところなんだ。『朝日が眩しくなくなる目薬』」


「……なんて?」


「この間、朝日が眩しかったから。徹夜明け限定で、朝日が『まあまあ我慢できる』明るさになるよ!」


「徹夜するな。寝ろ」


















昼食を食べ終えた午後。

僕は昼寝をしようと天幕の寝床で横になっていた。

すると、枕元に置いてあった《連結子》が輝き出した。


手に取って起き上がり、寝床に座り直す。


『ハルモン、よかった。もう起きていたか』


「……もう。父さんは、僕がいつも昼まで寝てるみたいに」


『実際寝ているじゃないか……。それより、昨日の魔道院での会合で火災の話が出てな。マレディアの旧礼拝区画から『女神の涙』が取れるのではないかと』


「あー……。それを確認して来いってこと?」


『いや、教会側との話し合いはもう終わっている。もし見つけたら、王都へ持って返って来てくれ』


「……わかった。けど、ちょっと時間かかるかもよ?」


『もちろん、分かっている。……体調もまだ万全ではないだろう?話は通しておくから、ゆっくり戻って来い』


「はーい」


《連結子》が静かになると、僕は寝台に寝転んだ。


(『女神の涙』。自分で採集するのは初めてだな。……正直、一人で掘るのは体力的にキツそう。明日、カライス君に頼んでみるか……)


そう算段をつけ、僕は目を閉じた。














八日目の朝、カライス君が朝食を持ってきてくれたときに、僕は「手伝ってほしいことがある」と切り出した。


「なんだ?」


「昨日、父さんから仕事を頼まれたんだ。マレディアには礼拝堂があっただろう?その区画に、これの材料があるかもしれないから、あれば取ってきてくれって」


これだよ、と《連結子》を取り出して見せる。


カライス君は、怪訝そうな表情を浮かべた。


「確か、貴重な材料を使っていると言っていたな。……だが、なぜその場所に?」


「材料は『女神の涙』って呼ばれてるんだけど、祈りの力が結晶化したものなんだって。だから、女神由来の場所で見つかることが多いって聞いた」


「そうか……。だが、あそこも完全に焼け落ちてしまっているぞ」


「……燃えた建物を除けて、掘り起こすしかないね。……僕一人じゃ、とても無理なんだ。だから、手伝ってほしい」


そう伝えると、カライス君はしばらく黙った後、諦めたように息を吐いた。


「……仕方ないな。手の空いてる奴がいたら、作業を手伝ってもらえるよう、声をかけておく」


「本当!?助かるよ!ありがとう〜!……あ、そうだ!」


鞄に手を突っ込んで、ゴソゴソと探る。

中から薬瓶をひとつ取り出すと、カライス君に見せた。


「これ前に作った『筋肉痛が一瞬だけ消える塗り薬』なんだけど、お礼に配ろうかな」


「……一瞬……?意味、あるのか……?」


カライス君は薬瓶を手に取る。

少しだけ眺めた後、何も言わずに僕の鞄にそっと戻した。




















ハルモンの仕事を手伝うため、俺と騎士の同僚たちは旧礼拝区画を訪れていた。


俺が応援を呼びかけたところ、「女神様の力になりたい!」などと立候補者が続出し、枠を争うべく剣術の試合まで行われる始末。


全く、緊張感のかけらもない。


旧礼拝区画は、かなり焼け落ち方が激しく、焦げた柱や崩れた石材で埋まっていた。


皆で協力して瓦礫を取り除いていく。


ハルモンには危険なので、少し離れたところで作業を見学してもらっていた。


しばらく作業を進めていくと、ハルモンがこちらへ近づいてきた。


「あそこ……あるかもしれない」


ハルモンはそう口にして、区画に足を踏み入れようとする。


俺はとっさにその手を取った。


「足元が悪い、気をつけろ」


「過保護だなぁ、カライス君は」


「危ないからこのままでいい。……ちゃんと足元見ろ」


慎重に、崩れた建物の上を進んでいく。


そして、ハルモンの示す付近に辿り着き、瓦礫を除けると、そこからは焼け焦げた何かが出てきた。


(これは……遺体か?この場所にあるということは、繋ぎ手様の……?)


「あ!」


ハルモンは、人の遺体のようなものの、ちょうど下腹部にあたる場所へ、躊躇いなくスコップを差し込んだ。


「おい、待てハルモン……。それ人の遺体なんじゃ」


「うん。少し待ってて。……あ、見つけたよ」


そう言うとスコップを差し入れていた場所に手を入れ、"それ"を取り出す。


「すごい……!これが生まれたばかりの原石か。……なんだか、触ると不思議な感じがする。まるで、何かと繋がっているような……」


すると、少し離れたところで作業をしていた騎士たちも、こちらの様子に気がついたようだ。


作業を止めて、こちらへ集まってくる。


「見つかったのかー?」


「……そのようだ。手伝い感謝する」


「いいんだよこれくらい。……いずれは片付ける必要あったしな」


ハルモンもその場から立ち上がり、騎士たちに礼を伝えていた。


俺は、目の前の遺体のようなものにまた目を向ける。


その下腹部には、スコップで掘られてぽっかりと穴が開いていた。


(……これは、あまりいい気分じゃないな)


「カライス君も、ありがとう!」


視線を上げると、笑顔を浮かべたハルモンがこちらへ近づいてくる。


「あ、そこ危ないぞ。……用が済んだなら、もう戻ろう」


「うん」


ハルモンの体を支えつつ、崩れた建物の上から降りると、俺たちは旧礼拝区画を後にした。











ここまで読んでいただきありがとうございます。

この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。

よければブクマや評価も励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ