#11必要
その日、仕事に行くつもりで食事や支度をしていたのだが、出かけようとしたところで部屋の扉が叩かれた。
「はーい」
扉が開き、ミアが部屋に入ってきた。
「ハルモン様。以前にも来られていた聖騎士の方がお見えです。客間にお通ししたんですけど……」
「テオか。ずいぶん急だね。……ライ君、行ける?」
俺は頷き、壁に立てかけてある剣を手に取った。
「急に申し訳ありません」
テオはソファーから立ち上がると、ハルモンに頭を下げた。
「まだ家にいて良かったよ。それで、今日は何?」
ハルモンがソファーに腰掛け、足を組みながら言う。
俺は、ハルモンの斜め後ろに立った。
テオは一度俺の方にも顔を向け、軽く頭を下げる。
ソファーに座り直すと、口を開いた。
「……本日は、我々教会の内部事情について説明させていただきたく、参上いたしました」
テオの言葉に、ハルモンは首を傾げる。
「内部事情?」
「ええ。貴方様の星読の結果を受け、王が血統の授与についての発言してから、実は教会内で王権派と保守派の対立が激しさを増しておりまして……」
ハルモンは、少し考える。
「……繋ぎ手と僕とを接続させようとする人たちと、それを防ごうとする人たちがいるってことか。……あなたは、防ごうと考えて動いてるってことだよね。どうして?」
テオは、膝の間で組み合わせた拳を固く握る。
「……繋ぎ手様と、繋ぎ手様のような姿を持つ男性とを接続させることは、非常に危険なのです。教会では、古くから禁忌とされています」
「へぇ……。初めて聞く話だ」
「……この話自体、広く世に出すべきではないと、教会内で保持していたものになりますから」
テオの発言に、ハルモンはほんの少し笑った。足を組み直し、姿勢を崩す。
「……いいの? 僕にそんな話をして」
テオは頷く。
「ええ。全てお話しした上で、貴方様にはこちらに付いてもらいたい。……そのためにここへ来ました」
「……ふぅん。とりあえず、話してみてよ」
テオの話した内容は、こうだ。
現在の繋ぎ手様は、人並外れた美しい見た目を持ち、癒しの力を振るい、繋ぎ手様同士で対話が出来る程度。
そして、時々生まれる繋ぎ手様に似た姿の男性は、強い魔力を持つが、環境要因で潰れやすく、短命の場合が多い。
だが、昔は全く異なっていたという。
彼らは人心を掌握する、強烈なカリスマを持っていた。
人々の精神に干渉し、神託を下す。
特に男性の方は、人間の魔導士の血を引くがゆえに魔力が非常に高く、その力で本来の統治者から置き換わるような存在であったと。
そのため、「男が生まれたら殺す」ような期間も、過去にはあったという。
現在ではそれほどの影響はなくなったため、「経過観察」と称してそのままにするようになった。
そんな、嫌な話だった。
ハルモンも、しばらく黙っていた。
少しして、深く息を吐く。
「……繋ぎ手って、人間とは別種なんだ。僕も、その系統だってことか」
「……繋ぎ手様は、我々人間にとって必要な存在です。ですが、その力は制御可能な範囲で留めておかなければならない」
テオは、ハルモンに頭を下げる。
「……ハルモン様。どうか、こちらについてくださりませんか。それが、人々の……我々の社会のために必要なのです」
ハルモンは、テオの頭をしばらくの間無言で見ていたが、ふと、口を開いた。
「……じゃあ、君が僕についてよ」
その言葉にテオは面食らい、表情を崩す。
ハルモンはその様子を見て、ふっと笑った。
「冗談だよ」
テオは、深く息を吐く。
だが、ハルモンの次の発言にまた青ざめることになる。
「……王権派の指示に従って。その方が、僕には都合が良い」
テオは唖然として、その場で固まった。
「安心して。繋ぎ手が生まれることはもうないから。……いや、安心はできないか。まあ、そこは僕がなんとかするからさ。たぶん」
「……なんとか、とは」
「最近、色々考えててさー。たぶんいけると思うんだよね。繋ぎ手がいなくても、この世界が成立するようにする」
「……繋ぎ手様が、消える……? 本当に、そうなのですか」
「うん。僕の星読は必ず当たるって評判だよ。……根拠はないけどね」
テオが帰ったあと、俺とハルモンは部屋に戻り、二人揃ってベッドに腰掛けた。
……テオの話のあまりの内容に、頭が働かなくなっていた。
ハルモンの方をちらりと見る。
癖のない淡い金髪に、淡い青色の瞳。いつもと変わらない横顔。
(……昔だったら、とっくに殺されていた)
自分たちの秩序のために管理して、邪魔になれば殺す。
こんな社会、おかしいんじゃないか。
そんな気持ちが、ふつふつと湧いてきた。
「……さっきの話。どう思う」
少し、間が空いた。しばらくして、隣から小さく息を吐く音が聞こえる。
「……気持ちのいい話ではなかったね。でも、教会の言うことも理解はできるよ」
「…………」
「教会は繋ぎ手を保護してるって言ってるけど、たぶん実態はそうじゃない。人間社会に必要だから囲っているんだ」
「……囲っている?」
「うん。だって、『女神の涙』は繋ぎ手からしかとれない。だから、繋ぎ手は必要でしょ? だけど、男の方は力が強くて制御が難しい。しかも、『女神の涙』はとれない。……だったら、昔の人がどう考えたかわかるよね?」
「……女だけを囲って、男は殺す」
「そういうことだね」
ハルモンはベッドに手をついて、ゆっくりと仰向けに寝転がった。
「そして、それを繰り返すうちに繋ぎ手たちの力は弱まっていった……。結果、強い個体は生まれなくなり、殺す必要もなくなった。だから『経過観察』って名目で放置するようになった。……短命だってことなら、死ぬまでの間、自由に過ごす猶予をくれてたってことなのかな」
ハルモンは、ころりと寝返りを打ってこちらを向いた。
「……なんか疲れたね。今日はもう、仕事はいいや。このまま家でゆっくりしよ」
そう言って、ハルモンは足だけで器用に靴を脱ぎ、ベッドに寝直した。
「……ハルモン」
「ん?」
「お前は……何をする気なんだ」
ハルモンは一瞬だけこちらに視線を向けたが、すぐに天井へ向き直った。
「まだ考えてる途中」
その言葉を聞いても、不安な気持ちは収まらなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『繋がる前』。
明日11時に更新予定です。
よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。




