#9安心する
客間が整うまで、ゼファーには応接室にいてもらうことにした。
三人で応接室に入る。
「ライ君、ここでゼファーと待っててくれる? すぐ戻るから」
そう言うと、ハルモンは部屋を出て行った。
ゼファーは一通り部屋の中を見回った後、ソファーに腰掛けた。
背もたれにもたれかかり、足を組む。
――寛いでいる。
俺は、ゼファーを視界に入れたままその場に立っていた。
ふと、ゼファーがこちらを見てくる。
「お前、座んないの?」
そう言って、机を挟んで反対側にあるソファーを指差す。
俺は、軽く息を吐いた。
「……ここでいい」
「へぇ」
少し、間が空いた。
「……ハルモンの護衛って、四六時中そんな感じ? 疲れね?」
「……問題ない」
ゼファーは笑う。
「お前ら二人とも、真面目だなぁ」
廊下から足音が聞こえ、扉が開いてハルモンが現れる。
ハルモンの手には、緑色の石が二つ握られていた。
「お待たせ。念のため買っておいてよかったよ」
「何だそれ?」
「宝石の原石」
ハルモンは持っていた二つの石を、ゼファーの前にある机の上に並べて置いた。
「……ゼファー、この石に治癒魔法を使ってみてくれる?」
「は?」
ゼファーは唖然とし、ハルモンの顔と机の上の石を交互に見た。
しばらくして、口を開く。
「……ハルモン。お前とうとう頭がおかしくなったんじゃないか?」
ハルモンはふっと笑う。
「ああ。やらないならそれでもいいよ。食事は無しにするけど」
「すいませんやります」
ゼファーが石に両手をかざすと、かすかな青い光が手のひらから溢れる。
しばらくすると、カチッと音が鳴り、二つの石が一つになった。
「……は?」
「おっ。いけるみたいだね」
ハルモンは満足げに微笑んでいる。
ゼファーは、戸惑った様子でハルモンを見上げた。
「……なぁ、なんだこれ。なんでくっつくんだ?」
「君は何も考えなくていいよ。作業さえしてくれれば、それでいいから」
そう言って、ハルモンはにこりと微笑んだ。
「ひど。……なぁライ。お前の主、ちょっと俺に対して当たり強くないか?」
俺は、何も答えなかった。
(……自業自得だ)
その後、客間の準備が整ったのでゼファーを放り込んだ。
ゼファーは、ほとんど荷物を持っていなかった。
戦後、この状態でずっとアルヴィンの元にいたんだろうか。
……少し、アルヴィンに同情した。
夕方、食事をするために食堂へ集合する。
俺とハルモンはいつも座る席に並んで座り、ゼファーはその向かいに座った。
ゼファーは、先ほどと比べて妙に大人しくなっていた。
一体どうしたのか。少しだけ気にかけつつ、食事に口をつける。
少しして、ゼファーが口を開いた。
「……なんか、石くっつけたらやたら疲れたんだが」
そう言って、がくりと肩を落とす。
「でしょ。だから誰かにやってもらいたくてさ。ちょうど良かったよ」
「ひどいやつだなお前」
ハルモンはほんの少し笑った。
「でも安心して。人の体を治すよりは負担が少ないから、倒れたりはしないよ、たぶん」
ゼファーはパンをちぎりながら鼻で笑った。
「俺はそもそも治せねーよ。二世のお前とは違う」
少し、間が空いた。
「……で? 俺はここで石をくっつければいいのか?」
ハルモンはこくりと頷いた。
「うん。一日一回、できれば二回、かな。さっきの石は練習用だから、後で部屋に持って行くね」
「分かりましたよ、主様」
食べていたら、ゼファーは少し復活してきたらしい。
ハルモンの一挙一動に「美しい」「かわいい」「そういうところが良い」とちょっかいをかけてくる。
最終的に、ハルモンは何も言わなくなった。
その横顔は、少しだけ疲れて見えた。
食事を終えて、部屋に戻る。
部屋に入った瞬間、二人同時にため息をついた。
少し休憩しようと、部屋の奥のベッドへ向かう。俺がベッドに座ると、ハルモンがすぐ横に座って、肩を寄せてきた。
……近い。
「……うるさい」
「……そうだな」
言いながら、ほんの少し口元が緩んでしまった。
伏せられた睫毛。
また口元に目が行きかけて、とっさに逸らした。
代わりに膝の上の手を持ち上げて、少し迷ってから、ハルモンの手を取る。
そのまま、ほんの少しだけ指を絡めた。
ハルモンは、指を絡めても何も言わない。
しばらく見ていて、それから、
「……ライ君の手、大きいね」
そう言って、もう片方の手の指で、俺の指先を摘んだ。
触れられて、小さな指が俺の指を包む。
俺の肩に、ハルモンの頭がもたれかかる。
「……安心する」
そう言って、ハルモンは目を閉じた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『気づかない』。
明日11時に更新予定です。
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