#5守ってくれる?
俺は、王都の武器屋に来ていた。以前、ハルモンと二人で訪れたことのある店だ。
あの時は何も買わなかったのに、店主は俺の顔を覚えていた。
そして、大剣を熱心に勧めてきた。
「兄ちゃんの腕なら、この大剣でも振れるだろうに。……試すだけ試してみないか?」
「……普通のでいい」
俺は前のもとの同じくらいの長さで、同じくらいの重さのものを購入し、外へ出た。
ポケットから、ハルモンに渡されたメモ紙を取り出す。
(……聞けば分かるか)
次に、ハルモンがよく訪れていた香草屋へ向かう。
店主は、俺の顔を覚えていた。
「お二人は目立ちますからねぇ」
そう言って笑う。
(……目立つ、か)
ハルモンに渡されたメモ紙を見せる。
「……これを頼まれたんだが」
店主がメモ紙を覗き込む。
「……この二つはお渡しできますが、こっちはうちには置いてませんね」
「……そうか」
俺は材料を二種類購入し、その店を出た。
再びメモ紙に視線を落としながら、ハルモンがよく訪れていた店の記憶を辿る。
だが、どこで買えるものなのか見当がつかなかった。
俺は息を吐き、胸元から《連結子》を取り出す。
人通りの少ない路地裏に入ると、いつものように光らせた。
だが。
(……繋がらない……)
目を凝らし、確認する。
目盛は間違いなく、ハルモンの持つ《連結子》を指し示していた。試しにもう一度光らせてみる。結果は、同じだった。
「…………」
家を出る時、ハルモンはすごく集中している様子だった。
なら、集中しすぎて気づいていない?
……ありえなくはない。
でも。
(……嫌な予感がする)
俺は踵を返すと、そのまま家へ走った。
家に戻り、二階に駆け上がって部屋の扉を開ける。
ハルモンは、机に突っ伏していた。
(寝ている……?)
俺はハルモンに近づき、肩を揺らした。
「……おい、寝るならベッドで――」
その瞬間、ぐらり、とハルモンの体が傾く。
椅子から落ちそうになった体を、反射的に抱き止める。
カラン、と音を立てて、ハルモンの手から『女神の涙』と《連結子》が床に落ちた。
完全に脱力した体。心臓が嫌な音を立てた。
「ハルモン」
呼びかけて、上を向かせて顔を見る。
その目は閉じられており、呼びかけても全く反応がない。
俺は、ハルモンの首筋に手を添えた。
暖かいし、脈もある。
口元に耳を近づける。
息も、している。
だが、明らかに様子がおかしい。
――寝ているのではない。意識を失っている。
そのことに気づいて、首筋がぞわっとした。
……何も、考えられない。
俺はハルモンを抱き上げると、そのままベッドに運んだ。
体をベッドの上に横たえて、靴を脱がせる。
そのまま、ベッドのすぐ横の床に座り込んだ。
ハルモンの方へ無意識に手が伸びる。
目的もなく彷徨った後、そのままハルモンの顔の横に落ちた。
どのくらいの間、そうしていただろう。
ハルモンの睫毛が震え、その目がゆっくりと開いた。
そのまま、天井を見つめる。
よかった、と思う。
同時に視界が歪んで、沸々と胸の奥から嫌なものが込み上げてくる。
少しして、ハルモンの顔がゆっくりとこちらを向いた。
「……どれくらい寝てた?」
なんてことないように、そう言った。
「…………っ」
歯を食いしばる。
でも、抑えきれない。
「……今のは何だ」
「……え?」
ハルモンのきょとんとした顔に、俺は思わず、足元の床を握りしめた拳で打った。
「何なんだ! 戻ってきたら意識がなくて……! 俺は……!」
涙が溢れて出て、頬を伝って膝に落ちる。勝手に溢れて止められないそれを、ぐっと服の袖で拭う。
ハルモンは、しばらくの間俺の様子を何も言わずに見つめていた。少ししてから、ゆっくりと体を起こし、涙を拭う俺の腕に手を添える。
その顔には、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「……心配しないで。ちょっと消耗するだけだよ」
「…………」
俯いて、何も返せずにいると、「ライ君」と名を呼ばれる。
顔を上げると、いつも通り青く澄んだ瞳がそこにあった。
「……これからもまたやるし、たぶん、何回か倒れると思う」
その言葉に、また心臓が嫌な音を立てて、握りしめた拳の中が、汗でじっとりと濡れるのを感じる。
『嫌だ』と、体が拒否している。
「大丈夫。死にはしないよ」
ハルモンは、俺を安心させるかのように優しく言った。
「だから、ライ君。……その時、僕を守ってくれる?」
言葉が出ない。
……本当は、嫌だと言いたかった。倒れるのを分かっていて、ただ見ていろだなんて。俺は、お前を守るためにここにいるのに。
でも、それをハルモンが望むのなら――。
「……最初から、そのつもりだ」
絞り出すように、そう返事をした。
俺の返事に、ハルモンは満足げに微笑んだ。
「ありがとう」
いつだったか、この微笑みを見て女神のようだと思ったことがあった。だが、今の俺の目にはそうは映っていない。
――むしろ、悪魔のようかもしれない。そんな気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後も、この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『僕の自慢の護衛』。
来週月曜日の11時に更新予定です。
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