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#27堕ちてない

騎士に連れられて、僕は王城の中の小さな部屋に放り込まれた。


小さい窓がひとつと、簡素なベットがひとつだけ置かれた、何もない部屋。


扉が閉まる。


そのまま、動けなかった。



「……ライ君、ごめん」



誰に言うわけでもなく、そう口にしていた。




なんであんなことに。


僕が断らなければ。


僕が、言い方を変えていれば。




……僕が捕まらなければ、ライ君は動かなかった。




僕のせいで、巻き込んでしまった。




……あの場での最適解は何だったんだろう?


別のやり方はあった?


回避はできたんだろうか?




考えても、答えは出てこない。




でも。


ライ君を止めたのは、自分だ。




ライ君は、最後までやる気だった。


騎士を全員倒して、僕を守ろうとしていた。


たぶん、止めなければ本当にやっていたと思う。


でも、それを自分が止めた。




その結果、ライ君は捕まった。




僕が、自分でライ君を差し出したんだ。






気づけば、その場に座り込んでいた。


ライ君、ごめん。


それだけが、残った。








何もない部屋で、ベッドに座ったまま過ごした。


三日ほど経ったと思う。


扉が開けられた。



「出ろ」



そう声を掛けられ、ゆっくりと立ち上がる。


部屋を出ると、鎧に身を包んだ騎士が立っていた。



「帰宅してよいと許しが出た。先日の”話し合い”の件は、追って連絡するとのことだ」



「……そう」



少し、間が空いた。



「……ライ君はどこ。……僕の護衛は?」



「ああ……あの男なら、当分は出られないだろうな。王直属の騎士を、二人も切ったんだ。罪人として、地下牢で繋がれているだろうよ」



その言葉に、一瞬、止まる。



「……分かった」







僕は、そのまま王宮を後にした。


外に出て、まっすぐ家に帰る。


家に入ると、アグネスが出迎えてくれた。



「ハルモン様、急に家を空けられて、何かあったんですか?」



「ごめん。王様の機嫌を損ねて捕まってた。……それより、今すぐ金を用意してくれる?」



「金、ですか」



「うん。金貨を袋いっぱい用意しておいて。……僕はまた少し出るよ」



僕は再び外へ出る。


向かう先は、もう決まっていた。







僕は馬車を手配し、アグネスに用意させた金を持って王城へ向かった。


王城に入り、地下牢へ向かう。


看守に、金貨の入った袋を見せた。



「……これでいい?」



袋を置く。


重い音がする。



看守が袋に手を伸ばす前に、



「足りるでしょ」



「足りないなら、言って」



冷たく、そう言い放った。


視線は外さない。







看守に案内され、地下牢に入る。


石壁と鉄格子で仕切られた空間。


ひんやりと冷たい空気。




鉄格子をいくつか通り過ぎたところで、前を歩いていた看守が立ち止まる。


鉄格子の向こうに、ライ君がいた。


動けないように手を縛られ、鎖でつながれていた。


顔も、体も、あざだらけでボロボロだ。




近づくと、こちらの気配に反応して、視線が跳ね上がる。


鋭く、噛みつくような目。


——次の瞬間。


それが、すっと解けた。




胸が詰まる。


視界が、わずかに滲んだ。



「……っ」



ほんの一瞬、言葉が出ない。



「……遅くなって、ごめん」



看守は、牢の鍵を開けて、中に入っていった。


ライ君の側にしゃがみ込むと、拘束を解いた。



「……元騎士が堕ちたものだな」



その言葉に、わずかに呼吸が止まる。



「……訂正して。堕ちてない」



低い声だった。


看守は黙る。


僕は、視線を一瞬だけライ君へ向け、すぐに戻した。




ライ君は、拘束を解かれても、動かない。


……立てないのか。



「……運んで」



短く言う。


看守が、ライ君を支えてなんとか立たせる。


僕は、そのすぐ横に立つ。


血で汚れた手を、そっと掴む。


一度だけ、指が動く。


それに気づいて、息が止まった。


そのまま石の階段を登り、外へ出た。







看守に支えられながら体を引きずるようになんとか歩き、ようやく外へ出られた。



「……もういい」



隣でハルモンが短く言う。


そのまま、用意されていた馬車に乗せられる。


ハルモンも後ろから乗り込み、すぐ横に座った。




馬車が動き出す。


揺れの中で、



「……横になりなよ」



ハルモンは、少しだけ視線を逸らしたまま、そう言った。


わずかに迷ってから、従う。


そのまま頭を支えられ、気づけば膝の上だった。


髪を優しく撫でられる。




視界が、全部ハルモンだった。




嗅ぎ慣れた薬の匂い。




先ほど、自分の姿を見て泣いていた。


——それでも今は、


ぐっと堪えて、何事もないように振る舞っている。


腕が、わずかに動く。


届かない。


そのまま、力が抜けた。




それで、十分だった。











ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『誓い』。


明日11時に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

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