#26止まって
それから、何事もなく数日が過ぎた。
禁止されていたすべての活動にも許可が下りた。
薬は辞め、食事の量も通常に戻した。
鈍った体を叩き直すため、鍛錬の量を増やしたら筋肉痛になり、また別の薬を飲まされそうになり断って。
そんな、いつも通りの日常だ。
静かな食卓にも慣れてきた、その頃。
夜。俺とハルモンは、風呂を終えて部屋で休んでいた。
ふと、ハルモンの作業台の上に置いてある《連結子》が明滅しはじめる。
ハルモンは、《連結子》を手に乗せた。
『ハルモン、今どこにいる?』
(父か……)
「家にいるけど」
『そうか。……念のため聞くが、周りに人は?』
ハルモンは、ちらりとこちらを見た。
俺は、軽く頷く。
声を出さないし、他言しない。
「……一人だよ。何?」
『実は、教会とのやりとりの中で少々不審な点があってな。少し調べていた。それで分かったんだが、教会には、繋ぎ手がもう数人しか存在しないらしい』
「……数人? でも、各地で治療とか、行事とかやってるよね」
『ああ。どうやら数人の繋ぎ手をあちこちに運び、いくつもの礼拝堂で兼任させているらしい。……魔物の被害を受けた人々が治癒を受けられず、不満が広がっている。しかも、その話が王の耳にも入ってな。今、王宮ではちょっとした騒ぎになっているんだ』
「……なるほどね。で、どうしてそれをわざわざ僕に?」
『……お前は怒ると思うんだが、少し落ち着いて聞いてくれ。お前の星読の評判を、王に伝えた者がいたらしい。……それで王は、お前の星読でこの状況を解決しようと考えているようなのだ』
「……は? それ、どういうこと?」
『これまで教会が握ってきた“血の継承”に、口を出すつもりなのだろう。……要は縁組だな』
「はぁ……。よくそんなこと考えるよね……」
『あとは、王はお前自身にも興味があるのかもしれんな。“星読を完全的中させる絶世の美人”なんて言っていたらしいから』
「もう……勘弁してよ……」
『近々、呼び出しがあるかもしれん。……お前は嫌だろうが、この状況に問題があるのも事実。……どうにか収めてやってくれ』
「……そう言われても」
『……とにかく、要件はこれだけだ。この件は、他言無用で頼む』
「……わかったよ」
《連結子》を机に置くと、ハルモンは深くため息をついた。
「最悪。……だから嫌だったのに」
「でも、王の依頼を断ったらさすがにまずいか……」
「……やるしかない、か」
「……こんな気持ちで寝たら悪夢見そう。よく眠れる薬飲んどこ。……朝、寝過ぎてたら起こして」
俺は、ハルモンに何も言ってやれなかった。
だが、起こすのはやろう。
俺が頷くと、ハルモンは棚から取り出した瓶を、一気に煽った。
数日後、家に使者がやってきて、封書を渡された。
王から、星読の件で呼び出しだ。
僕とライ君は、綺麗な衣装を身につけ、王宮へ出向いた。
王宮に足を踏み入れる。
ライ君は、警戒するように周りを見回している。
「……ライ君はここ、初めて?」
「ああ……」
「そっか。……ここ、この辺入るだけなら誰でもいけるんだよ。……用事はないけどね」
奥へ進み、大きな扉の前に控える騎士に封書を見せると、奥に通される。
小部屋で少し待たされた後、王の間に通された。
上方にある玉座に座る王。
僕は前に進み出ると、跪いて頭を垂れる。
僕の後ろで、ライ君も同じように動いた気配がした。
「ハルモン・フォン・ノエシス。頭を上げよ」
その言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
見つめられる。
しばらくして、王が口を開いた。
「噂以上だな」
王が静かに言った。
「星読の精度もだが――」
僕の顔に、目を止めたまま。
「……なるほど」
(……気分が悪い)
「……話は聞いているな? 繋ぎ手の不足で、民の不満が溜まっている。今後、いかに増やしていくか。お主に見てもらいたい」
「……仰せのままに」
目の前に、小さなテーブルが運ばれてくる。
僕は鞄から水晶玉を取り出すと、静かに置いた。
僕は、長らく自分の水晶玉を持っていなかった。
これは昨日、研究所の帰りに王都の市場で買った安物だ。
別に、使えさえすれば何でも良い。
手をかざす。
手の平から溢れた光で、水晶玉の周りが紫色の光につつまれる。
水晶玉をじっと見つめる。
(……見えない)
机に置かれた、魔導士の家系が記された書類。
ひとつひとつ手に取り、未来を見ていく。
書類の中には、自分の家もあった。
そこも含めて、繋ぎ手が生まれる未来はどこにもなかった。
すべて見終わり、僕は小さく息を吐く。
この結果、王は納得するだろうか。
「終わったか?」
「……はい」
「結果はどうであったか」
隠しても、仕方がない。
僕は覚悟を決めた。
「……すべての家の未来を見ました。今後、この国で繋ぎ手が生まれることはありません。それが、僕が見た未来です」
僕の言葉に、周りがざわつく。
「……真か? それでは、この国の未来はどうなる。どこかの狂信国と同じではないか」
「……仮にそうであっても、僕が見たものは変わりません。今後繋ぎ手が生まれることはなく、次第に消えることになるでしょう」
「そうか……」
王は、少し考える素振りの後、何か思いついたような顔をした。
「良い考えがある。お主は繋ぎ手の子であろう? 繋ぎ手の子と繋ぎ手であれば、繋ぎ手が生まれやすいのではないか?」
「……は……?」
「名案であるな! 教会ももっと早くそうすれば良いものを。お主もそう思わんか」
「……ですから、もう生まれないと、お伝えしましたが」
「ああ、先ほど聞いたな。だが、あくまで予見であろう? 根拠はない」
「……確かに、根拠はありません。理由もわかりません。ですが、その行為に意味がないことはわかります。……僕はしません」
「……なんだと?」
「やりたくありません、そんな無意味なこと」
「ふん……優秀らしいが、少し調子に乗っておるな。……お前たち、そやつを捕えろ」
「なっ……」
「自分の立場をわきまえ、少し頭を冷やしなさい」
二人の騎士に両腕を掴まれ、その場に膝をつかせられる。
首に剣を当てられる。
冷たい刃が、皮膚に触れる。
わずかに押し込まれ、薄く血が滲んだ。
そのとき。
——何かが、弾けたような音がした。
右にいた騎士が血を流して倒れた。
続いて、左にいた騎士も。
顔を上げると、ライ君だった。
見たことない顔。
——まずい。
周りの騎士たちが剣を掲げて集まってくる。
ライ君は全く引かない。
そのまま全員倒すつもりだと分かる。
僕はライ君の背中にしがみついた。
「ダメだよ……! 止まって……!」
ライ君の動きが、止まった。
王が息を吐く。
「とんだ狂犬だな」
「……捕らえろ」
ライ君は、剣を床に落とした。
部屋に響き渡る金属音。
そのまま無抵抗に捕らえられる。
僕も騎士に腕を掴まれ、そのままライ君と引き離された。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『堕ちてない』。
明日11時に更新予定です。
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