#23眠る白獣
食事の後、ベッドに横になり休んでいた。
ハルモンの薬を飲むと、毎回食べすぎて動けなくなる。
椅子に座っていたハルモンが「そういえば」とこちらを向く。
「今回の遠征はどこに行っていたの?確か、王都からそんなに遠くないって言ってたよね」
「ああ……白霧の谷という場所だ。街の人への聞き取り調査と、魔物の討伐をしてきた」
「聞き取り?」
「前に、魔物対策部の奴らと魔王伝説の話をしていただろう。その件だった」
「あー、確かにそんなこと言ってた気も……」
「女神と英雄が光る剣で魔王を倒し、魔王が谷底に落ちていったと言っていた」
「へぇ……。で、魔王はいた?」
「……谷底までは見られなかったから、何とも言えんな。……だが、妙な魔物がいた」
「妙な魔物?」
「大きい鹿のような魔物だ。倒したと思ったら違う場所から現れて……隙を突かれた」
「ふーん……。核から肉体を再構成したのかな。……そういうことって、他の場所でもあった?」
「いや、見たことない。初めてだった」
「……なるほどね」
そこまで話して、ふと思い出す。
「……そう言えば、傷を負って倒れたとき、スイが治癒をしてくれたような……」
ハルモンの膝の上に乗っていた本が滑り落ちる。
音を立てて、床の上でページが開かれた。
「……は?」
「……ちょっと待って」
「スイが?」
「治癒を?」
ハルモンの視線が、ゆっくりとこちらに向いた。
「……どうやって?」
「……分からん」
ハルモンはしばらく無言だったが、次の瞬間、勢いよく椅子から立ち上がった。
本を跨いで、そのまま扉の方へ足早に向かっていく。
「……おい」
「ごめん。確認したらすぐ戻るから待ってて」
そう言い残すと、部屋を出て行った。
……何を、どうやって確認するつもりだ?
(……不安だ)
俺は、ナギとスイの身に何も起こらないことを祈った。
僕は一階へ降り、厨房へ急いだ。
扉に手をかけて、勢いよく扉を開ける。
中にいた女中たちとナギは驚いた顔をしていた。
「ナギちゃん。スイは?」
「えっ」
「どこにいる?」
「ええと……たぶん部屋で寝てると思います。あれから、少し元気がないんです」
ナギと一緒に客間を訪れると、スイはベッドの上で丸くなっていた。
「……師匠が大怪我したとき、何かしたんだと思うんです。師匠の出血が少しおさまった代わりに、動かなくなってしまって」
ナギはベッドに座ると、スイの背を撫でながら言う。
「……出会った時も、弱っていたんですよね。でも、その後はずっと元気だったから」
ナギは、ほんの少し笑った。
寂しそうな表情を浮かべながら。
「……いつも家の中とかお庭を歩き回って、探しても見つからないくらいだったのに。……こんなに触っても、全然起きないんですよ」
僕は、言葉を失った。
さっきまでの勢いは、すっかり萎んでいた。
こんな状態のスイに、治癒の再現をさせようなんて。……出来るはずもない。
「……スイが本当に治癒魔法を使ったんだとしたら」
ナギが顔を上げる。
「すごく、疲れたんだと思うよ。僕もそうなんだ。……薬ならいくらでも作れるのにね」
小さく息を吐く。
「治癒魔法は本来、繋ぎ手の力だ。だから、もしかしたら……」
この小さな身体の中にも、核が存在するのかもしれない。
そして、その核は『女神の涙』のようなものなのではないか?
僕はスイに手を伸ばしかけて。
……やめた。
「……ハルモンさん?」
「……ごめん。邪魔したね」
僕は立ち上がると、客間を出た。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『温度のない視線』。
来週月曜日の11時に更新予定です。
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