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#22血を補う薬

目を開けると、見慣れた天井が視界に入ってきた。


一瞬、状況が分からない。


体を起こそうとするが、重い。


「……っ」


そこで、気づく。


床に、ライ君がいる。


壁に背を預けて、座っていた。


「……起きたか」


「……うん」


少し間。


「……ライ君が、ここまで運んでくれたの?」


「……ああ」


その言葉に、思わず息が漏れた。


「ごめん……。怪我人に介抱させるなんて……。ほんと、自分が情けないよ」


「情けなくない」


ライ君はきっぱりとそう言った。


僕は、何も言えない。


「……だが」


ライ君は言葉を選ぶように続ける。


「目の前で倒れられるのは、心臓に悪い」


「……それを言うなら、知らないところで大怪我されるのも心臓に悪い」


無言。


……僕は、帰ってきたライ君とこんなを話したかったわけではない。


心を鎮めて、頭の中を静かに切り替える。


「……これは非常用だね」


「……そうだな」


ベッドに横たわりながら、改めてライ君の姿を観察する。


顔色が悪い。


服は怪我をした時に着ていたそのままで、血まみれだった。


「……着替えて、横になったら? ……僕も、まだ動けそうにないし、一緒に寝ようよ」


「……ここでいい」


「なんで? 顔色悪いよ」


「……お前が起きたら寝る」


その言葉に、僕は小さく息を吐いた。








ハルモンは、その日の夜には動けるようになった。


ほっとした。


「ベッドで休みなよ」


そう言われて、ゆっくり体を起こそうとする。


「……っ」


視界が白けて、頭がぐらりと揺れる。


耳の奥で、きん、と音が鳴った。


「……無理しないで」


何も言わず、また壁に背を預ける。


ハルモンに手伝ってもらい、血まみれの服を脱いで、布で体についた血と汚れを拭く。


ハルモンは、傷口のあった場所を確認して頷いた。


「きれいに治ってよかったよ」


「……ああ」


服を着替えて、ハルモンに支えてもらいながらベッドに移動した。


体が重く、頭がふらつく。


「かなり血が出ていたから、少し補った方がいいね」


ハルモンは棚から薬瓶を取り、小さな容器に、粉状の薬を入れた。


ベッド横の小さいテーブルに、薬と水差しを置く。


「『血を補う薬』だよ。これを飲んだら、しっかり食べて寝ること」


そのまま素直に受け取ろうとして、手が止まる。


「……何か、他に変な効果があるんじゃないか」


「失礼な。変な効果なんてないよ」


「……本当か」


「うん。……強いて言えば、飲んだ後、すごくお腹が空くくらいかな」


「……なぜ」


「だって、血が足りないんだよ。食べ物もたくさん食べられた方がいいでしょ」


「…………」


「安心して! ちゃんと消化剤も入れてるから、お腹壊したりはしないよ。……たぶんね」


(……最後のが余計だ)




信用しきれなかったものの、俺は結局、薬を飲むことを受け入れた。


いつまでもふらついていては、護衛の役目も果たせない。


飲むと本当に食欲が増して、普段の三倍くらい食べられた。


女中たちやナギが驚いていたが、一番驚いたのは俺だ。


食べたら、その日はすぐに寝た。


そして朝起きると、もう腹が空いていた。


朝食を食べているところを眺めていたハルモンが、にこにこしながら言う。


「ライ君は胃腸が丈夫だよねー。栄養効率が素晴らしい。惚れ惚れするよ」


俺は返す言葉が見つからず、無言で、ただ食べ続けた。







ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『眠る白獣』。


明日11時に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

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