#21非常用
席を外していたルーカスが部屋に戻り、僕の側に来る。
「ハルモン」
「ルーカス。どうかした?」
「ライが重傷を負ったらしい。騎士達が連れ帰っている」
「……え……?」
「お前の家に直行するよう指示しておいた。……今日はもう帰れ」
「……わかった」
机に広げていた紙や道具をまとめて鞄に押し込み、研究所を出た。
足が、自然と速くなる。
(……どこをやられた)
(……血、どのくらい出ている)
家に戻り、ライ君が戻ったらすぐに知らせるようにアグネスに伝えると、二階の自室に入る。
外傷によく効く薬を、いくつか取り出して用意しておく。
準備しながら、ふと、手が止まる。
(傷の程度によっては、薬では間に合わないかも……)
首を振る。
(……間に合わせる)
来るときに半日かかった道が、信じられない速さで過ぎていく。
王都に着くと、まだ日は高かった。
風が止み、荷車の速度が戻る。
今までが速すぎて、止まっているように感じた。
「……ゼファー、大丈夫か」
「……流石に疲れたな。帰って寝たい」
「ああ、帰ったら存分に寝てくれ。……とにかく今は、ノエシスの屋敷に直行するぞ。ナギ、場所の案内を頼めるか」
「はい。……あちらの道へ入って、真っ直ぐです」
意識が朦朧とする中、気づけば王都に戻ってきていた。
見慣れた景色と空だが、いつもより少しぼやけていた。
「あそこの屋敷です!」
ナギの声が聞こえて、少しすると荷車が止まった。
アルヴィンが荷車を飛び降り、家の方へ駆けていく。
少しすると足音が二つ、近づいてきた。
「申し訳ありません。お借りした護衛に大怪我をさせてしまいました」
「いいから。それより、どこ?」
視界に、ハルモンの姿が入ってきた。
ぼやけていても、わかる。
いつもより余裕のない表情をしていた。
傷の状態を見られる。
ハルモンは何も言わない。
息を吐き、手をかざす。
青い光に包まれる。
その額に、じんわりと汗が浮かぶ。
フッと、光が途切れた。
「……どう? もう痛みはない……?」
「あ、ああ……」
「そう……。よかった」
ハルモンは体を起こし、その場に立とうとしたが、ふらついて立ち上がれない。
手も、震えている。
そのまま、こちらに倒れてきた。
反射的に、抱き止める。
「ハルモン……!?」
「……少し、横になりたい」
そのまま、目を閉じた。
先ほどまでとは違う意味で、血の気が引いた。
ハルモンを抱えながら体を起こすと、そのまま横抱きにして、荷車から降りる。
立つとひどい眩暈がするが、気にしない。
そのまま家へ向かい、扉を開けると、二階への階段を一気に上がった。
「……手伝います!」
後ろからナギの声が聞こえた。
その声は、少し上ずっていた。
家の前に、荷車とともに取り残される。
しばらく動けなかった。
騎士の一人が、静かに口を開く。
「……今の、見たか?」
「……ああ」
「連れていったぞ……?」
「いや、あれは……」
無言。
「……ライさんの主、あんな美人なのかよ」
「やばいだろ、あれ。貴族だよな?」
「そうだろ。……でもあの顔は反則だよな」
「仮に男でも関係なくないか」
「関係なくはないだろ」
「……隊長。ああいうの狙ってみたらどうだ」
「ぶっ!! ライに殺されるわ!」
「そこまでか?」
「そこまでだ」
ゼファーが息を吐く。
「ハルモン・フォン・ノエシス。……相変わらず、とんでもないな」
俺も、ゼファーのため息がうつった。
「……帰還するぞ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『血を補う薬』。
明日11時に更新予定です。
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