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#19それでも戻らない

昼食をとり、少し休憩することになった。


騎士の一人が、荷車の上のゼファーに話しかける。


「お前、火おこしできるんだっけ」


「火? 無理無理。これ使ってくれ」


そう言うと、ゼファーは荷物の中から手のひらサイズの道具を取り出した。


「借り物だから壊すなよ」


「魔道具か。……じゃあ水は?」


「水も無理。これ使って」


「隊長……何でこいつ連れてきたんだ?」


「まあまあ。水のやつ先に回しとけ。時間かかる」








魔道具を使うと、一瞬で焚き火に火がついた。


水は時間がかかるが、安全な飲み水を生成できるらしい。


戦場では当たり前に使われている技術だが、一般にはまだ出回っていない。


俺も見るのは初めてだった。


ナギは目を輝かせた。


「炊事が楽になりますね!」








騎士は、見習いの頃に一通りの炊事はやっている。


だから問題ないはずだった。




――はず、だったが。




火が安定しない。


見ると、薪の組み方が雑だ。




誰かが何か言っているが、まとまりがない。


判断が遅い。




今回の部隊は精鋭だ。


戦うことに特化している。


だからこそ、こういう場面は、後回しになる。




「……交代してください」


ナギの声。




少しして、火が落ち着く。


音が変わる。




手際がいい。


無駄がない。


必要なところだけ触っている。


……適任だな、と思う。




何か、周りが騒いでいる。


ナギの料理がどうとか、腕がどうとか。


そんな話だ。


「ライさんも隅におけないな」


――その辺りから、意識を切った。


興味がない。


「な……! 師匠とは、全然そういうのじゃないですから!」


少し強い声。


火が、上がりすぎている。


「……弱めろ。焦げる」


それだけ言って、薪を一つ引いた。


















昼食を取った後、歩き続けること数時間。


谷に最寄りの街へ到着した。


王都に近いこの街は、そこそこ大きく、人の往来も多い。


街の中心部には、立派な礼拝堂も建てられていた。


「今日はここで宿を取る。明日から動こう」


馬を休ませられる大きめの宿を確保し、その日は休むことになった。


ナギには、一人で休める部屋を確保してもらった。


「何かあったら呼んでくださいね」


「……ああ」


一人で部屋に入っていくナギを見て、騎士の一人が言う。


「同じ部屋じゃねぇのかよ」


「……違う」








夕方。


食堂で夕食をとって、部屋に戻る。


ベッドに腰掛けると、胸元の《連結子》を袋から取り出し、光らせる。


「……街に着いた。今日は宿に泊まって、明日から調査だ」


『そう。……礼拝堂あった?』


「……あったな。大きめだった」


『そっか』


「……あと、部隊に魔導士がいたな。名は確かゼファー、と言っていたか」


『あー、知ってる。ルクシードのとこの』


「知り合いか?」


『知り合いってほどじゃないけど。……まあ、戦闘では役に立つんじゃない? たぶん』


「……役に立つならいい」


無言。


前は、《連結子》でどんな会話をしていただろう。


少し前まで離れていたのに、もう思い出せない。


何も言えずにいると、小さく息を吐く音が聞こえた。


『……気をつけて』


「……ああ。……無理はするな」


『うん。……それじゃ』


















次の日。


騎士達と手分けして、街の人たちに聞き取りを行うことにした。

ゼファーだけは別行動らしく、朝から姿がなかった。


魔王伝説については、街の老人から話を聞くことができた。


「昔、女神様と英雄が、光る剣で魔王を倒してな。魔王は谷底に落ちていったそうだ」


「そのせいで、谷には今でも魔物が多い。決して近づいてはいけない」


「ありがとうございます。ですが、我々は国からの調査の命で来ております。くれぐれも、気をつけます」


軽く頭を下げると、老人は満足げに頷いた。








その後も、いくつか話を聞いて回る。




「街には魔物は出ない。家畜の被害もない」




「王都も近いしな。買い物にも困らん。住みやすいところだよ」




「谷にどんな魔物がいるのかは、よく知らん。昔から近づくなと言われているからな」




「……王都からは、定期的に荷車が来ている」




「おかげで、不自由はない」




どの話も、穏やかなものばかりだった。




――だが。


谷は、すぐそこにある。
















昼。


食堂の一角で、アルヴィンが騎士達の報告をまとめていた。


「しかし、こうして見ると不思議なものだな」


「ああ……。これまで、魔物被害を受けた町を多く見てきた。だが、ここは魔物の出現地が近いにもかかわらず出ていない」


ここにはいない人物の姿が、頭に浮かぶ。


(ハルモンなら、何と言うだろう……)


「何か理由があるのだろうか。……しかし、それよりも魔物の情報が得られないのには参ったな……。これでは対策のしようがない」


「お困りかい? 隊長」


顔を上げると、朝から姿のなかったゼファーが立っていた。


「ゼファー。何か分かったのか」


「分かったと言うべきかはちょっと迷うところなんだが……」


「報告を」


「承知した。……霧を払って、軽く谷の様子を見てきた。魔物はいた。ただ、少し妙だな」


数秒の沈黙。


「谷底から、湧くように現れては、すぐに消える。それを繰り返していた。他の地域とは、明らかに挙動が違う」


一泊おいて、言葉を続ける。


「……それと、数が多い。かなりの物量だ」


「種類は?」


「色々、だな。とにかく、盛りだくさんだ」


「湧くように現れるうえ、数も種類も多いか……。想像はしていたが、かなり危険な戦場になりそうだ」


「だな。……向かうのは明日にするか?」


「そうしよう。皆、体を休めて万全に」


アルヴィンは一度言葉を切り、周囲を見回した。


「……明日の天気を見て、良さそうな時間帯に突入する」








夕方。


食堂の席に座っていると、アルヴィンがやって来た。


「ライ。ここ、いいか?」


「ああ」


向かいに腰を下ろす。


席に着くと、食事が運ばれてくる。


しばらく無言でそれを口に運ぶ。


「……ライ、お前が騎士を辞めたのは、マルディアの一件が理由……だよな」


ぽつりと、そう言った。


俺は何も答えない。


「……守れなかったことに責任を感じるのは、分かる。でも、あれはお前のせいじゃない」


「…………」


「……敵兵の様子がおかしかったと、前に話しただろう。奴らは、女神を騙る女……繋ぎ手様を、執拗に狙っていた。それで魔導士の力を使ってまで、マレディアを落としたんだ」


「……魔導士の力?」


「ああ。……あの日は大雨だったと聞いた。それなのに、街全部が一夜で燃えてしまうほどの大火なんて、普通ありえないだろう?」


……そんなこと、考えたこともなかった。


「……大雨で視界を遮って工作し、火や風を操って被害を拡大させたのだろう、と。……戦場を共にした魔導士たちは、そう分析していたよ」


「……そう、だったか」


「そうだ。……あんな奇襲、誰にだってどうすることもできなかったんだ。……だから」


一度言葉を区切り、アルヴィンは顔を上げた。


「……ライ、お前は騎士に戻った方がいい。いや、戻っていいんだ。……自分を戒めるのは、もう、止めろ。それを伝えたかった」


あの時の光景が、頭をよぎる。


アルヴィンの言うことは、たぶん、間違っていないのだろう。


……俺は、それを選ばない。







今日の20時更新としていましたが、予定を変更して午前中に更新させていただきました。


本日より、更新ペースが変わります。

詳細につきましては、活動報告よりご覧ください。

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/3058555/blogkey/3689595/



ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『倒したはずだ』。


明日11時に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

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