#18出立
出立まで残り二日。
師匠は、あいかわらずハルモンさんの護衛についている。
戻ってきたあと、一緒に騎士の詰め所を訪れて、打ち合わせや訓練に参加させてもらった。
終われば、師匠はそのままハルモンさんの元へ向かう。
私は一度家に戻り、ミアさんの買い出しを手伝っていた。
その途中、石造りの壁に張り紙を見つけた。
昨日まではなかったものだ。
ミアさんに字を習ってはいるけれど、まだ自信はない。
「ミアさん。あれ、何でしょう?」
「お、張り紙だ。練習がてら読んでみる?」
人員募集
戦後、地方では賊の出没が相次ぎ、魔物の被害もあって生活苦が続いている。
領主や国による討伐は進んでいるが、住民の生活を守り支える体制は整っていない。
今回、地方の復興を支える人員を募集する。
性別・年齢不問。一定の戦闘経験あり。
出資:ヴァルディア家
「へえ、いいじゃん。戦争が終わって職を失った人も多いし、そういう人たちの受け皿にもなりそうだね」
(ヴァルディア家って、たしかエルフィーナさんの……)
すごいな、と思った。
本当に、そこまで考えてくれていたんだ。
二日後には、魔物討伐に向かう。
それはもう決まっている。
けれど——
それとは別の場所で、人の暮らしを守る仕事があるのだと、初めて知った。
そちらに、手を伸ばしてみたいと、思った。
出立の当日。
いつも通り起きて、裏庭で軽く体を動かした。
部屋に戻ると、ハルモンはもう起きていた。
装備をつけ、昨日まとめておいた荷物を背負う。
「行くの?」
「ああ」
「そう。……気をつけて」
「……ああ」
ナギを連れて、騎士の詰め所へ向かう。
ナギの肩の上にはスイが乗っていた。
「……そいつも連れて行くのか」
「ミアさんにお願いしようと思ってたんですけどね……」
ふと、ナギの手にある小さな包みが目に入る。
「……それは?」
「あ、これ朝ごはんです! 簡単なものですけど」
包みを受け取る。
「……そうか。悪いな」
「いえ。……私にできるのはこれくらいですから」
詰め所で騎士達と合流する。
行ってみると、一人増えていた。
武器を持たず、鎧もつけていない若い男。
「……アルヴィン、そいつは?」
「ああ。急遽、今回の任務の手伝いを頼んだんだ」
「おっ。あんたが噂のやり手の傭兵か。俺はゼファー・フォン・ルクシード。魔導士だ。よろしくな」
騎士達とゼファーとともに、目的地へと出発した。
騎士達は、皆徒歩だ。
その後ろに、馬に引かせた荷車がひとつ。
街は、ここから半日ほどの距離らしいのだが。
「……疲れた」
少し歩いたところでゼファーがそうぼやいた。
後ろに下がると、荷車にひょいと登る。
「おいおい……魔導士様はサボりか?」
「俺、騎士の皆さんと違って体力ないからさー」
「……ほんとかよ」
アルヴィンは何も言わなかった。
歩きながら、一人が口を開く。
「魔王伝説だとよ」
「討伐対象が魔王だったら笑えんな」
「まあ、その時は隊長に任せよう」
「冗談だよな……? まあ、その時はお前に任せるさ、ライ」
「……お前な」
俺は歩きながら、先ほどナギから受け取った包みを開く。
中には、肉やチーズ、野菜などを挟み込んだパンが入っていた。
手に取りやすい大きさに切ってある。
隣を歩いていたアルヴィンが覗き込んできた。
「……美味そうな物持ってるな」
「……朝飯だ」
「……よかったら、アルヴィンさんも食べますか? 多めに作ってあるので、皆さんもどうぞ」
「いいのか?」
一人が受け取り、口に放る。
軽く頷く。
「……うまいな」
「本当か? どれ」
「おい、勝手に取るな」
小さく笑いが起きる。
「行軍中だ。食い過ぎるなよ」
アルヴィンが食べながらそう言うので、小さく笑いが広がった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『それでも戻らない』。
来週月曜日の夜8時に更新予定です。
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