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#17放っておけない

出立まで残り三日。


今日は、今回一緒に向かう騎士との顔合わせだ。


ハルモンを研究所に送り届けた後、家に戻る。


その後ナギを連れて、騎士の詰め所を訪れた。




部屋に入ると、騎士たちの中に懐かしい顔があった。


「……アルヴィン?」


向こうもこちらを見て、目を見開く。


「……まさか、カライスか!?」


その名前に、わずかに足が止まる。


アルヴィンは立ち上がると、こちらへ歩いてきた。


「腕のいい傭兵がいると聞いていたが、まさかお前だったとは。いやぁ、何年ぶりだろう。元気だったか?」


「……それなりに。お前も、無事だったようで何よりだ」


「ああ。前線は敵は多いが、お前はいないからな。……その分、やりやすかったよ」


そう言って、アルヴィンは笑顔を見せた。


「今は、アルヴィン・レイフォードと名乗らせてもらっている」


「……そうか」


俺は、短く返した。


「……今は、ライで通している」


「ライ、か。またよろしくな」


「ああ」




ふと、アルヴィンの視線が俺の後ろに向いた。


「その子は?」


「ナギだ。任務中に偶然出会って、そのまま同行している。……弓の腕はかなりのものだ」


「そうかなのか。お前がそう言うのなら期待できるな。ナギ、よろしく頼むよ」


「は、はい……! 精一杯頑張ります!」




アルヴィンが戻った後、ナギが小声で話しかけてきた。


「……師匠。あの人は、師匠のお知り合いなんですか?」


「ああ。昔、騎士の見習いだった頃からのな」


一瞬だけ言葉を切る。


「……あいつは腕が立つし、戦いながら、周りもよく見ている」


昔、並んで戦った時の感覚を思い出しながら。


「俺が前へ出たら、あいつの側にいるようにしろ」


「は、はい……!」


ナギは小さく頷いた。








時間になり、顔合わせ兼打ち合わせが始まった。


部屋にいる騎士たちは、いずれも前線で名を上げている者ばかりだった。


人数は、騎士が十名ほどと、俺とナギ。


ちょっとした小隊だ。


「今回の任務の隊長を任されている、アルヴィン・レイフォードだ。よろしく頼む」


アルヴィンの言葉に、皆、軽く頷いた。


「今回の任務は、国の魔物対策部からの依頼によるものだ。近年、地方で魔物の出没が増加傾向にあることは、皆知っていると思う。その原因を探るため、白霧の谷を調査してほしいとのことだ」


「白霧の谷か。いつも通り、魔物の討伐をすればいいのか?」


騎士の一人が言う。


アルヴィンは首を横に振った。


「いや。今回はそれだけじゃない。討伐と合わせて、近隣住民への聞き取りを行って欲しい、とのことだ」


「……聞き取りか。理由は?」


「谷の最寄りの町に伝わる魔王伝説の内容を確認してほしいと」


「魔王伝説、ね……」


小さく呟く声があった。


(民間伝承の魔王伝説……。ハルモンが話していたものだな……)


アルヴィンは一瞬だけ言葉を選ぶように間を置いた。


「……話によれば、谷の付近は強力な魔物が出現し、数も多いらしい」


顔を上げ、騎士たちとナギ、そして俺の顔を見る。


「皆、気を引き締めてくれ。町に着いたら、まずは聞き取りで情報収集。谷の魔物についても、もし知っている者がいればしっかり確認してくれ。その後、谷の調査に向かおう」








話が終わり、騎士たちが席を立つ。


俺とナギも席を立ったが、そこへアルヴィンがやってきた。


「ライ。この後少し外へ出ないか? お前と、少し話をしたい。よければ、食事でもしながら」


「問題ない。……ナギ、悪いが」


「分かりました。私は、家に戻ってミアさんたちを手伝いますね」








ナギを見送り、アルヴィンと二人、街へ出る。


横に並んで歩きながら、アルヴィンは話し出す。


「……谷のことなんだが、近隣住民から危険視されており、今まで騎士団もほとんど踏み込んだことはないらしい」


「……そうなのか」


「ああ。……どんな危険があるかもわからない。今回の編成はそのためだな。お前も含めて」


アルヴィンは一度言葉を区切る。


ちらりと、こちらを見た。


「でもお前は……俺がいたら、やっぱりやりにくいか?」


その言葉に、俺は小さく息を吐く。


「……そういう意味ではない」


アルヴィンは少しだけ笑った。


「分かってるさ」








通りから少し外れた、落ち着いた食堂に入った。


昼時だが騒がしさはなく、奥の席は人もまばらだった。


木造の落ち着いた内装で、昼でも少し暗い。


奥には仕切られた席があり、客は騎士や商人がちらほら見えた。


俺とアルヴィンは奥の席に腰を下ろす。


軽食と、酒を注文した。




すぐに酒が届けられる。


二人とも、無言でそれを口にした。


「……あちらの国は、どうだった」


アルヴィンは視線を落とした。


少ししてから話し出す。


「……ひどい状態だった。寒くて、土地もひび割れていた」


言葉を区切る。


酒を一口飲んで、テーブルに置いた。


「敵兵達も、どこかおかしかったな。「……『女神を騙る女どもを囲う国は滅べ』……なんて言っていた」


「…………」


頼んでいた軽食が届けられる。


しばらく、無言でそれを口にした。


「……マレディアの大火の時」


ぽつりと、アルヴィンが口を開く。


「お前は……その場にいたのか」


「……ああ。だが、敵の陽動に遭って……。戻った時には、もう――遅かった」


「……そう、だったんだな」


アルヴィンはそれ以上、何も言わなかった。




無言で、軽食を口に運び、酒を飲む。


しばらくして、アルヴィンが口を開いた。


「……今は、王都に住んでいるのか?」


「ああ。普段は、ノエシス家の護衛をしている」


「なるほど。ノエシス家、か。名前は聞いたことがあるな。古くから続く魔導士の家。……確か、《連結子》の開発に関わった家じゃなかったか?」


「……そうなのか?」


「ああ。現当主は王宮勤めだろう。……あ、ちなみに《連結子》ってのは遠距離で会話できる魔道具だ。離れていても統率が取れるのは大きい。世界が変わったよ」


「……《連結子》なら知っている。普段から持たされてるしな」


「そうなのか。……さすがだな」


「……それにしても、詳しいな」


「今後、貴族同士でどんな付き合いがあるか分からんからな。名前だけは頭に叩き込んだんだ」


アルヴィンはそう言って軽く笑う。


相変わらず、そういうところは変わらない。


「当主は、どんな方なんだ?」


「いや。俺が護衛しているのは当主ではないんだ。会ったことはあるが……よくは知らない」


「そうなのか。じゃあ、当主の子供か?」


「ああ。……ハルモン・フォン・ノエシス、という」


「ハルモン、か。覚えておこう」


アルヴィンは、少しだけ考えて。


「まだ、小さいのか?」


「いや。俺たちと同じくらいだ。……少し、下かもしれん」


俺の言葉に、アルヴィンは少し笑う。


「かもしれんって……。お前は相変わらずだな」


……何も言えない。


「で。ハルモン・フォン・ノエシス様はどんなお方なんだ?」


「……変わったやつだ」


少しだけ、息が漏れる。


「……何を考えているか、いまだに分からん」


「……分からない相手に、そこまで付くのか?」


「……自分でも分からん」


少し間を置いて。


「でも、放っておけない」


「……なるほどな」








その頃、家ではミア達とナギが夕食の準備をしていた。


夕方に、ハルモンが帰ってくる。


「ハルモン様、お帰りなさいませ!」


「ただいま。ライ君は?」


「顔合わせの後、騎士の方と出かけました。まだ戻ってないです」


「……そう」


その後、食堂で席に着き、いつも通りの食事が始まった。








アルヴィンと話し込んでしまい、気づけばすっかり日が暮れていた。


店の前でアルヴィンと別れて、帰路につく。




家に着くと、女中はもう帰った後だった。


真っ直ぐ二階に上がり、ハルモンの部屋の扉を開ける。


ハルモンは、ベッドの上に座って本を読んでいた。


ゆるい部屋着を着ている。


「遅かったね」


「……昔の知り合いに会って、話をしていた」


装備を外しながら、返事をする。


ハルモンは本をベッドの横の小さいテーブルに置くと、俺の方を向いて座り直した。


「……マレディアの人?」


「ああ。見習いの頃からの同僚だ。……戦争で武勲を立てて、貴族になっていた」


「へぇ」


少し間。


「……どんな話、してたの?」


「あちらの国が荒れていたとか、敵兵の様子がおかしかったとか。……あと、お前のことも聞かれたな」


「え、僕?」


「どんな主かと」


「へぇ。で、ライ君はなんて答えたの?」


黙る。


しばらくして。


「……別に」


「……別に?」


「気にするな」


ハルモンは、少しだけ首を傾げる。


「……別に、って言い方じゃないんだけど」


「大した話じゃない」


少し、間が空いた。


「……気にするな」


「いや無理あるって。……そこだけ隠す理由あるでしょ」


「ない」


「いやあるね。……あ、分かった」


ハルモンは、少しだけむすっとした。


「女みたいな顔だって?」


「違う」


即答した。そんな話は一言だってしていない。

だが、ハルモンは納得いかない様子で眉を寄せる。


「でも言ってたよね」


「言ってない」


「言ってたよ」


言ってから、ハルモンは小さく息を吐いた。


「……ちょっと気にしてるんだけどなー」


そう言ってから、「でも」と、こちらを見る。


「この顔のおかげで君と会えたし?」


軽く、そう言うと微笑んだ。


一瞬、言葉を失う。


少しだけ、視線を逸らした。


「……そうか」




俺は着替えると、ハルモンの横に腰を下ろした。


「……酒の匂いがするね」


「……ああ。少し、飲んできた」


「そう」


無言。

暗い部屋の中に沈黙が落ちる。


「……そういえば」


ふと、日中にアルヴィンと話したことを思い出す。


「お前は、いくつなんだ」


「え? ……確か、二十四か五くらいだったと思うけど」


「……そうか」


「なんで?」


「……別に」


「……ふーん」







ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『出立』。


金曜日の夜8時に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

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