表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/75

#14確定している未来

次の日。


研究所に行くと、ルーカスから紙を渡される。


「ご指名だ」


「……また?」


「報酬は弾むと言っていた。……連中もお前の使い方を理解してきたようだな」


報酬はありがたいけど、嫌なものには違いない。


深いため息が出た。


「……ほんと、いい加減にしてほしい」


僕はいつものように水晶玉を借りて、鞄の中に放り込む。


ライ君を連れて外に出た。












貴族の家に行き、仕事をこなす。


今日は、商人との商談についての相談だった。


相手の商人の情報をもらい、少し先のことを見ていく。


そしたらその弾みで、自分の姿も見えてしまった。


少し未来の僕は、紙でできた箱を落とす。


中を確認すると、潰れて形の崩れたタルトが入っている。


……こんなもの、見るつもりなかったのに。


小さく息を吐いた。


水晶玉にかざした手を離す。


「……そのまま進めて問題ないよ」


「そうですか……! 貴方からのお墨付きがあれば安心ですね」


「……そう」


「助かりました。本当にありがとう」


依頼人は何度も頭を下げながら、金の入った皮袋と、紙でできた小さな箱を差し出した。


「今回の代金と、あとよろしければこちらも。お礼ということで」


「……」


僕は、それを見る。


(タルト)


ほんの一瞬。


(……落とす)


「どうかしましたか?」


「いや」


少しだけ考えてから、箱を受け取る。


「ありがとう」


箱は軽い。


丁寧に包まれている。


(落とさなければいいだけだ)




そのまま、屋敷を後にする。


僕は、隣を歩くライ君に目を向けた。


「ライ君」


「なんだ」


「これ、持ってて」


「構わんが、これは?」


「僕が持つと落とすから」


「……? どういうことだ?」


「いいから」


ライ君は、怪訝な顔をしながらも箱を受け取ってくれた。


「……割れ物か?」


「そんなかんじ」


ライ君は、少し息を吐いた。


「なら最初からそう言え」


(これで落とさない)


僕は、少しだけ満足した。


その時。


前方で、ガタン、と大きな音がした。


「……?」


荷馬車の車輪が、道の脇の溝にはまっている。


御者が困ったように声を上げる。


「くそ、動かねえ……!」


周囲の人々が足を止める。


「……ちょっと見てくる」


「うん」


ライ君は荷馬車の方へ向かい、状況を確認する。


「押せばいける。……手を貸せ」


御者が頷く。


ライ君はこちらを振り返った。


「ハルモン」


「なに?」


ライ君が戻ってきて、


「これ、持ってろ」


箱が差し出される。


「……今?」


「荷車を押す間だけだ」


「……」


ほんの一瞬、躊躇した。


(……ここでか?)


頭の奥で、わずかに引っかかる。


でも、拒む理由もない。


僕は、箱を受け取った。


「すぐ終わる」


ライ君はそう言って、荷馬車の方へ戻っていく。




僕は手に持った箱を見下ろした。


(持っている)


(落としていない)


少しだけ、息を吐く。


その瞬間。


横から、人がぶつかった。


「っ、すみません!」


体が揺れる。


手がわずかに滑る。


箱が傾く。


ほんの一瞬、止まる。


落ちる。


「……あ」


地面に落ちた箱が、鈍い音を立てる。


沈黙。


ゆっくりと、それを見下ろす。


「……」


しゃがみ込んで箱を拾い、蓋を開ける。


中で、タルトが崩れていた。


「……落ちた」


数秒。


何も言わない。


やがて、小さく息を吐く。


(……これは、予見なのか?)


少し間。


(……いや)


視線を落としたまま、考える。


(……直感?)


さらに間。


ゆっくりと首を振る。


(……違うな)


指先で、崩れたタルトの縁に触れる。


(……“確定している”のか)


「おい、ハルモン。大丈夫か?」


見上げると、ライ君が側に戻ってきていた。


僕の手にある箱を覗き込み、眉を顰める。


「……落としたのか」


「うん。……分かってたのにね」


ライ君は少し黙った後、口を開く。


「……食うか」


「……潰れてるけど」


「……食えるだろ。気にするな」


僕は少しだけ、息を吐いた。


「……うん」


小さく、それだけ返した。








研究所に戻り、食堂で昼食を食べた後、デザートにタルトを食べた。


潰れていたけど、味は甘くて美味しかった。














今日はミアさんと街で買い物をした。


仕立て屋に行ったのは、初めての経験だった。


「今日は服買えてよかったね」


「はい。あちこちほつれてかなり傷んできていたから、ありがたかったです」


そう口にしてから、ふと考え込んでしまった。


「……ナギちゃん、どうかした?」


「……王都って、静かですよね」


「え? いや、賑やかでしょ。人も多いし」


「あ、いえ、そうではなく。……魔物、出ないんだなぁと思って」


ミアさんはきょとんとする。


「え? 魔物?」


少し考えてから、首をかしげた。


「見たことないよ?」


その言葉に、思わず顔を上げる。


「……そうなんですか?」


「うん。たまーに討伐の話は聞くけど、ここらへんじゃまず出ないし」


ミアさんは笑う。


「怖い思いしたこともないなぁ」


(……そうなんだ)


少しだけ、視線を落とした。














家に帰ると、ナギとミアが出迎えてくれた。


いつものように食事をして、風呂を済ませ、しばらく部屋で過ごした後、二人でベッドへ。




今日、星読してからのハルモンは、とても静かだった。


目を閉じて動かないので、もう寝たのかと思い、自分も目を閉じる。


少しして、布団の中で動く気配。


視線を感じる。


俺は動かない。


「……ライ君って、優しいよね」


ぽつりと、暗い部屋に言葉が落ちる。


目を開けて見ると、こちらを見ている二つの瞳。


暗い中で月の光を反射して、そこだけ光っているみたいに見えた。


俺はそこから視線を背けて、目を閉じた。


「……別に」


「荷車押してあげたり、さっきも」


「……たまたまだ」


少し間。


「でも、助かった」


目を開けると、にっこり笑うハルモン。


何も言えずにいると、そのまま、隣で目を閉じた。


少しの間。


「……おい」


返事はない。


……小さく息を吐いた。












数日が、静かに過ぎる。


ある日帰ると、出迎えてくれたナギが見慣れない服装をしていた。


俺が何も言えずにいると、横でハルモンが口を開く。


「それ、ミアと一緒に選んできた服?」


「はい。これの他にもいくつか。今日受け取ってきたんです」


「見違えましたよねー!」


「うん、よく似合ってるよ。ね、ライ君?」


急に話を振られる。


でも、よく分からない。


何も言えなかった。


「…….ライ君、そういうところだよ」


ハルモンは少し呆れたようにそう言った。











ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『届かない声』。


金曜日の夜8時に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ