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#5仮初めの日常

※理解できない相手と、離れられない話です。


ハルモンの体調は、想像よりもずっと良くなかった。


発熱していて、少量の水を時間をかけてようやく飲める程度で、食事は固形物を受け付けない。


体を支えないと起き上がることすらできず、生活の全てに手伝いが必要な状態だった。


それなのに奴は、「材料があれば自分で薬を作れるのに」なんて言い出す始末。


病人は病人らしく寝ていろ、と言ってやった。










ハルモンや他の怪我人の世話と、焼け焦げた街の片付けなどをして過ごし、二日が過ぎた。


最寄りの騎士団から応援の物資が到着し、少しは環境が整ってきた。


それと同時に、守るべき街が失われてたことで、現在の騎士団を解散し、他と合併させるという話も出てきた。


また、家族を失ったことで精神的に耐えられず、退団を考える者も少なくなかった。


そして俺も、例外ではなかった。










三日目、昨日届いた応援の物資のおかげで、病人の体調に合わせた食事を作ることができるようになっていた。


病人とは、当然ハルモンのことである。


水を飲ませ、汗を拭き、体を支える。


この三日間、ハルモンの世話はほとんど俺がしていた。


ずっと水くらいしか口にできず、すっかりやつれてしまっていた。


本当に、"女神様"が、見る影もない。










四日目の朝、食事を持ってハルモンのいる天幕に向かう。


出入り口にかかった布をめくって中を伺うと、ハルモンは自分で体を起こして座っていた。


「ハルモン、起きて大丈夫なのか」


「うん……。今日は久しぶりにちょっとマシ。毎日ありがとう、カライス君」


「……別に。病人の面倒を見るのは、普通のことだろう」


俺の言葉に、ハルモンはほんの少し笑う。

だが、その目は暗いままだった。


「……助けに来たつもりだったのに、逆に助けてもらうことになるなんて。……ほんと、自分が情けないよ」


「ハルモン、それは違う。……お前を情けないなんて思う奴、いるはずがない」


「…………」


「………今日は、そのまま自分で食べられそうか?」


ハルモンが小さく頷いたのを見て、俺は食事の乗ったお盆を、ハルモンの近くに置いた。


「……すぐそこで待っている。何かあれば言ってくれ」


そう声をかけ、俺は天幕の外に出た。










天幕の外で立っていると、街の子供達がこちらに走ってくるのが見えた。


「あの、騎士さま!お願いがあるんですけど」


「なんだ?」


子供達は、それぞれが手に持っていた色とりどりの花々を、差し出した。


「これ、女神さまへお見舞いのお花です!」


「早く元気になれるように、あっちの山で摘んできたんだよ」


「……ありがとう。俺が責任持って、女神様に渡しておくよ」


花を受け取ると、子供たちは嬉しそうにまた駆けて行った。




子供たちは走りながら、口々に歌い始めた。




「女神さま 女神さま


山から来たよ」




「騎士さま 騎士さま


剣で守るよ」




「魔王なんて こわくない


女神さまがいるからね」






天幕の中からわずかに聞こえる嗚咽には、気付いていないことにした。
















天幕に入ると、ハルモンはもう落ち着いていた。


俺は、持っていた花を差し出す。


「子供たちが持ってきた」


「……そっか」


ハルモンは受け取った花を見ると、少し笑った。


「……僕、女神様らしいよ」


「そうか」


二人は黙った。




不意に、ハルモンは肩に垂れた自分の髪を一房、摘んで持ち上げた。


「これ、切っちゃおうかな」


肩を超えた長さの、柔らかな質感を持ったそれは、まるで月の光のよう。


俺が何も言えずにいると、ハルモンはまた少し笑ってこう言った。


「やっぱりいいや。……寝ぐせ直すの面倒だし」


俺はその言葉に、内心少しだけほっとした。








ここまで読んでいただきありがとうございます。

この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。

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