#4再会の温度
※理解できない相手と、離れられない話です。
目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。
黄色っぽい布越しに、日の光が滲んでいる。
外から、かすかな話し声。
顔を少し横に向けると、垂れた布が少し風で揺れて、細く外の景色が見える。
ぼんやりした頭で考える。
(確か、怪我人の治療をしていて、休憩しろと言われたんだ。その後――)
そこで、意識が途切れる寸前に考えていたことを思い出した。
「あ……!カライス君は……!?」
慌てて体を起こすが、バランスを崩して横に倒れ込んでしまう。
同時に、胸から込み上げる嫌な感覚がして、堪えきれずその場で嘔吐した。
「大丈夫ですか!?」
外にいた騎士が、咳き込む音で異変に気づき駆けつけてくれた。
僕の様子を見て、「誰か!急いで水桶と拭くものを持ってきて!」と叫ぶ。
すぐに数人が駆けつけ、汚してしまったところをテキパキ片付けてくれた。
「……魔導士様、まだ安静にしていてください。昨日はそうとう無理をされたと聞きましたよ」
「す……すみません……」
「まずはお休みになって、落ち着いたら少しずつ水分を摂りましょう。……いま飲み水をお持ちします」
「あ、あの……!」
天幕を出ていこうとした騎士を呼び止める。
「はい、他にも何か必要でしたか?」
「カライス君は……無事ですか……?生きてますか……」
「ああ、彼なら大丈夫です!今回の戦闘でも、あれだけ戦果を上げても傷一つ負わず。お知り合いだったんですね。……水は彼に持って来させましょう」
そう言って、騎士は天幕を後にした。
手当用の物資の運搬を手伝っていると、女性騎士から「ちょっといい?」と声をかけられた。
「……?どうした」
「"女神様"の意識が今さっき戻ったの。でもかなり調子が悪いみたいで、吐いてしまわれたわ。……落ち着いたら水分をとってもらいたいんだけど、今の作業が終わったら持っていってもらえる?……あなたのこと、気にかけてたわよ」
「……了解した」
俺はすぐに荷物運びを終わらせると、水差しを持ってハルモンのいる天幕に急いだ。
ハルモンは客人扱いで、一人用の天幕で休んでもらっていた。
天幕の入り口に垂れた布を捲り上げ、中の様子を伺うと、ハルモンが力なく横たわっていた。
ハルモンは目を閉じ、ゆっくりと呼吸をしている。
いつも束ねられていた髪が解かれ、枕の上に広がっていた。
(寝ている……?)
音を立てないよう天幕に入る。
気配に気づいたのか、ハルモンの目がゆるく開いた。
俺を見る。
しばらくして、少しだけ微笑む。
潤んだ瞳から、涙がこぼれた。
その姿だけは、確かに――
女神様のように見えた。
俺はしばらくその姿を見つめていた。
「……水を持ってきた。落ち着いたら飲んでくれ」
そう言って、ハルモンのそばに水差しを置くと、俺はすぐに天幕を出た。
ハルモンの天幕を出た後、俺は張られた天幕の間をしばらく歩いていたが、はたと思いついて立ち止まる。
(あいつ、自分で飲めるのか……?)
さっき吐いたと聞いたし、かなり弱った様子だったことを思い出す。
俺は踵を返し、来た道を戻る。
天幕を覗くと、ハルモンはさっきと同じ姿勢で横になっていた。
目は半分閉じている。
「……起きてるか」
小さく声をかける。
返事はない。
だが、呼吸が少し揺れた。
俺は水差しを手に取り、ハルモンの肩をそっと支える。
体は思ったより軽かった。
そして、体が熱い。
「……飲め」
唇に水差しを当てる。
ハルモンの喉が、かすかに動いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
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