#5帰ってくるから
ふと気がつくと、すでに日が高く登っていた。
また机で作業をしながら寝落ちていたらしい。
椅子に座ったまま腕を伸ばして伸びをする。
体があちこち痛いし、欠伸が出た。
僕は薬棚から薬瓶を一つ手に取ると、中身を一気に飲んだ。
疲労回復薬だ。
すこし甘めに作ってるので、飲んだらすぐに元気が出てくる。
でも同時に、ちょっと寂しい。
ライ君がいない状態でも、飲むと情動依存の副作用が出るのが興味深い。
それから、乱れた髪を結び直そうと一旦解いて、髪紐を手に取って見る。
ライ君がくれた濃紺の髪紐。
指先で軽く撫でる。
ちょっとだけ暖かい気持ちになった。
いつもより、ほんの少しだけ丁寧に髪をくくる。
机に広げてあった紙をまとめて鞄に詰め込むと、僕は扉を開けて部屋を出た。
王都の通りはすでに人で賑わっていた。
僕はその間を抜けるように歩き、研究所へ向かった。
その日、盛大に遅刻して研究所に現れたハルモンに、私は呆れていた。
「今何時だと思ってる。……最近、生活が乱れすぎだぞ。ちゃんと管理しろ」
「え?別にいつも通りだよ」
ハルモンは悪びれもなくそう言った。
そしてなんて事ないように続ける。
「テラリウムと魔物の残留物の構成要素を調べてみたよ。やっぱり、そっちもそっくりだった」
言葉を失う。
テラリウムーー女神の涙は、繋ぎ手が持つ女神の力の根源であり、繋ぎ手の死体から採集できる物資。
そして魔物もまた、女神由来の存在である可能性。
もし事実ならば、この世界の常識が根底から覆される。
……この話は危険だ。
そして、こんなことを発見してしまうこの男は、もっと危険だ。
「……その話、誰かに言ったか?」
恐る恐るそう尋ねる。
ハルモンは鞄からガサガサと紙を取り出しながら、
「まだ。これも研究報告しないとねー」
普通のことのようにそう言った。
そして突然、「あ!」と声を上げるとこちらを向いた。
「いいこと思いついたよ。眠気が予告される薬なんてどう?」
「…………は?」
「最近つい研究に夢中になって寝るの忘れるからさー。そのうち眠気が来るって予告されたら、忘れずに寝られるかと思って」
「……お前はいま、何の話をしている?」
「えっと、生活改善の話?」
思わず頭を抱えた。
(もう制御しきれん……。ライ、早く帰ってきてくれ……)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『「君、誰?」』。
明後日金曜日の夜8時に更新予定です。
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