#4帰る場所
今日のハルモンは、自分の席で魔物の残留物を眺めていた。
魔物対策部から借りてきたらしい。
残留物とは、魔物の体の中心にある核だそうだ。
「ねぇルーカス」
「なんだ」
「魔物の残留物って、テラリウムと似てない?」
「……どういう意味だ?」
「前に、テラリウムを採集したことがあるんだ。父さんに頼まれて。焼け落ちた旧礼拝区域を、ライ君たちに手伝ってもらって掘り起こした。……どこから見つけたと思う?」
そんなこと、考えたこともなければ想像もつかない。
が、その言い方に少し嫌な予感がした。
無言でハルモンの言葉を待つ。
「焼け死んだ人間のお腹にあったんだ。たぶん、繋ぎ手様の。こんな話、父さんからも聞いたことなかった。教会はずっと隠してたんだな」
「おい……ハルモン……それは」
「で、この魔物の残留物も、魔物が死んだ時に出てくるんだろう?ほら、だからそっくりだ」
ハルモンは、手の上の残留物を眺めながら言う。
「……形が、似てるんだよね」
指で、なぞる。
「外殻と、中の核」
「役割も、構造も」
「……それ以上はやめろ」
低く、制す。
「その発想は、危険だ」
「危険?……そうかな」
ほんの少し首を傾げる。
「普通じゃない?」
ハルモンは、椅子の背にもたれ掛かった。
「どんなふうに採れるんだろ。魔物が死ぬところ見てみたい。……ライ君に着いて行ったら見られるかな」
ルーカスは、目を閉じた。
(……絶対に連れて行かせるな)
あの男なら止める。
止めてくれ。
心から、そう願った。
俺とナギは、指示のあった地点へ到着すると、周囲の気配を探った。
風は弱い。
だが、空気は重い。
「……いますね」
ナギが小さく言う。
「ああ。数も多い」
足跡が入り乱れている。
地面は荒れ、黒いあとが点々と残っていた。
「引きつける。位置をずらせ」
「はい!」
ナギが弓を構える。
放たれた矢が、木陰に潜んでいた魔物の肩を射抜いた。
低い唸り声。
一体が飛び出す。
続けて、もう一体。
「……来るぞ」
踏み込む。
距離が詰まる。
一閃。
何かがほどける感触。
同時に魔物の体が崩れ、黒い粒子となって散った。
「右、もう一体!」
「分かっている」
振り返りざまに剣を振るう。
ナギの矢が牽制し、動きが鈍ったところを切り捨てる。
短い攻防を繰り返す。
誘き出し、削り、仕留める。
数は多いが、動きは単調だった。
やがて最後の一体が崩れ、辺りに静寂が戻る。
風が、遅れて通り抜けた。
「……終わり、ですね」
ナギが息を吐く。
俺は周囲を一瞥し、気配が完全に消えたことを確認した。
「ああ。回収に入る」
「はい」
地面に散らばった残留物を拾い集める。
黒く、鈍く光る核。
形状、大きさ、数。
ナギが袋に入れ、俺が記録をする。
「……この辺り、密集してましたね」
俺は答えず、紙に書き込む。
位置。
出現数。
戦闘時間。
すべてを記録し終えると、《連結子》を取り出した。
淡く光る。
『……こちら本部。状況は』
「討伐完了。残留物回収済み。記録した」
『確認した。……被害は』
「なし」
『了解。帰還せよ』
光が消える。
俺は《連結子》をしまった。
少しの沈黙。
ナギが、ふっと肩の力を抜く。
「……やっと、ですね」
「ああ」
短く返す。
だが、同じことを思っていた。
長かった。
「帰るぞ」
そう言って歩き出す。
一歩遅れて、ナギも動く。
「はい――」
言いかけて、少しだけ言葉が止まる。
足音が、ほんのわずかに乱れた。
「……あの」
後ろから、小さな声。
「……どこに、帰るんですか?」
風が抜ける。
「……王都だ」
「……王都」
繰り返す声は、どこか遠い。
少しの沈黙。
「……私も、行っていいんですか」
足が、止まる。
その言葉で、ようやく振り返った。
ナギは立ち止まったまま、こちらを見ている。
不安と、期待が混じった顔。
言葉を選ぶように、少しだけ間を置いてから言う。
「……来るか」
それだけだった。
ナギは一瞬だけ目を見開いて、
それから、少しだけ笑った。
「……はい」
小さく頷く。
俺は視線を外し、再び歩き出す。
今度は、足音が揃っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『帰ってくるから』。
明後日水曜日の夜8時に更新予定です。
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