あの人に似合う相手の話
王都でノエシス家に仕える女中・ミアは、日々うきうきと仕事をしている。
理由はただ一つ――主であるハルモン様が、とびきり美しいからだ。
優秀で整った容姿を持ちながら、なぜか恋人の気配がないハルモン様。
「この人に釣り合う相手って、どんな人だろう」
そんなことを考えるのが、ミアの日常だった。
ある日、ハルモン様が護衛を連れて帰宅する。
それをきっかけに、ミアの中で何かが静かに変わりはじめる。
言葉にするには少しだけ足りない違和感。
けれど、目を離せない何か。
これは、ある“関係”を最も近くで見つめてしまった女中の、小さな記録。
私はミア。
王都で女中として働いている。
お仕えしているのはノエシス家。
代々優秀な魔導士を輩出してきた、古い魔導士の家だ。
旦那様はほとんど留守にされているため、主な仕事は家の管理と家事、そして一人息子であるハルモン・フォン・ノエシス様のお世話だ。
――私は、毎日うきうきしながら仕事をしている。
なぜなら、ハルモン様がとても美しいからだ。
癖のない淡い金髪に、薄い青の瞳。
お顔も、驚くほど整っている。
初めてお会いした時は、あまりの美しさに顔が熱くなった。本当に。
……研究に没頭しがちで、生活は崩壊ぎみという欠点はあるけれど。
そこに目を瞑れば、非の打ち所がないと思う。
外では確実にモテるだろう。
いや、むしろモテないはずがない。
それなのに。
ハルモン様には、いつまで経っても恋人ができない。
周りの人は、一体何を見ているの?
見る目がないんじゃないか。
――そう思っていたら、私は自然と考えるようになっていた。
ハルモン様に釣り合う、理想の恋人の姿を。
(きっと、普通の人じゃだめだと思う)
ハルモン様は、とっても美人だ。
しかも、魔導士としてもめちゃくちゃ優秀らしい。
いわゆる天才肌のタイプ。
あと、ちょっと天然なのか、言動がときどき少しズレている。
でも、そこがまたチャームポイントだと思う。
(この人に釣り合う相手って、どんな人だろう)
まず、強さは外せない。
美しいハルモン様を、しっかり守ってくれる人でなくっちゃ。
あと、ハルモン様はよく喋るタイプだから、落ち着いている人の方が合うと思う。
強くて、寡黙で、ハルモン様の見た目に釣り合う――カッコいい人。
(……そんな人、いるのかな)
もし、こんな人がハルモン様の側にいたら。
私の頭の中では、きっと毎日、花火が上がる。
「ねえミア、聞いた? 今日ハルモン様がお帰りになったんだけど、護衛の方もご一緒だったのよ」
「え?」
「背が高くて、すごく強そうだったわよ! さっき、庭で鍛錬なさっててね……とても素敵だったわ〜」
その言葉に、ミアの手がぴたりと止まった。
(素敵な護衛……?)
(ハルモン様に……?)
胸の奥が、少しだけざわつく。
(……どんな人だろう)
自然と、頭の中に像が浮かぶ。
静かで、強くて。
無駄なことは言わなくて。
でもちゃんと、隣に立てる人。
(……いや、そんな都合よく――)
そこまで考えて、ミアは首を振った。
「……まあ、普通の人だよね」
そう呟いて、仕事に戻る。
(でも)
今、私の足はハルモン様の部屋の前にあった。
お食事ができたことをお知らせする。
それを口実に、つい足を運んでしまった。
(……客間にはいなかったってことは、こっちにいるよね)
(……ちょっとだけ、様子を見るくらいなら)
軽くノックして、声をかけると――
扉が開いた。
出てきたのは、大柄な男だった。
背が高い。
無駄のない立ち方で、そこにいるだけで空気が少し張り詰める。
黒に近い焦茶の髪は、少し癖があって無造作に流れている。
整ってはいるが、作り込まれた印象はない。
(……あ)
視線が合う。
茶色の瞳に、ほんのわずかに金が混じる。
光の加減か、それとも――
一瞬だけ、目が離せなくなる。
(かっこいい……)
そのすぐ後ろに、ハルモン様が立つ。
柔らかな金と、落ち着いた焦茶。
光を受けて淡く輝くものと、影の中で静かに存在するもの。
質は違うのに、不思議と並びが崩れない。
(……え)
(ちょっと待って)
(これ)
一瞬、呼吸を忘れる。
(え?)
(……ああ)
何かが、完全に繋がった。
(これだ)
ミアはゆっくりと息を吸い、
何事もなかったかのように、にこっと笑った。
「ハルモン様、お帰りなさいませ!」
こうして、ライ様が家にやってきてから、私の頭の中では毎日花火が連発だ。
お二人が並んでいるのを眺め、お話しされているのを横で聞き、そこから色々な妄想を膨らませている。
ライ様は私にとって理想的な人だった。本当に。
でもそれ以上に、ハルモン様と並べたい。
推しカプを最も近くから眺め、毎日供給があり、しかも直接お世話ができる。
こんな環境、他にあるだろうか?
いや、ない。
(私はこのままでいい)
――いや、むしろ最高だ。
だから私は、今日もうきうき仕事をこなす。
この幸せな世界が、いつまでも続くことを願って。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次の更新から第五章に入ります。
離れ離れになった二人の関係がどうなるのか。
今後も見守っていただけると嬉しいです。
【お知らせ】
いつも平日朝10時頃に更新しておりましたが、本日の番外編の更新をもって今週はお休みとさせていただきます。
来週からは、更新時間を平日夜20時に、更新頻度を週3回(月・水・金)に変更いたします。
詳しくは、昨日更新の活動報告に記載しております。
▼活動報告
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