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#21選ぶ

※理解できない相手と、離れられない話です。


次は、今日の本来の目的だったハルモンの買い出しを済ませることにした。


街を歩いていくと、なんとなくいつもよりも周りの視線が多い。


……さっき着替えたばかりの服のせいかもしれない。


だが、ハルモンの方は、全く気にする様子がない。


……気づいていないのかも分からないが。


俺は、いつもより少しだけ警戒を強めた。




最初に立ち寄ったのは、香草屋だった。

薬の材料が並ぶ店内で、ハルモンは慣れた様子で店主と話し始める。


どうやら顔馴染みらしい。


「護衛の人?」


「うん。最近一緒にいるんだ」


軽く紹介される。


そのまま会話を続けながら、ハルモンは迷いなく商品を選んでいく。

俺にはどれも同じにしか見えないが、何か基準があるのだろう。


代金を払い、店を出た。








次に入ったのは、ガラス瓶を扱う店だった。


棚に並ぶ瓶を見ながら、思わず口に出る。


「……家に、あれだけあっただろう」


「うん」


「洗って使えばいいんじゃないのか」


「使えないのもあるからね」


「判断できないのか?」


「できない」


即答だった。


「だから、全部置いてる」


なるほど、と思うと同時に、だからあの部屋は片付かないのかと理解する。








次に書店を訪れた。


「ライ君、本は読まないの?」


「……あまり」


「ふーん」


それ以上は特に続かなかった。


ハルモンはすぐに本棚の間へと消えていく。


俺は入口近くの壁際に立ち、周囲に目を配りながら待つ。


しばらくして、ハルモンが数冊の本を抱えて戻ってきた。


店を出る。


荷物を受け取ろうと手を伸ばしたとき、ハルモンが一冊だけこちらに差し出してきた。


「これはライ君の分ね」


「……俺の?」


「待ってる間とか、読むと楽だよ」


受け取って、表紙を見る。簡単な読み物らしい。


ぱらぱらとめくってみるが、すぐに閉じた。


……断る理由は見つからなかった。


「……読むかは分からない」


そう言うと、ハルモンは少しだけ笑った。


俺はそのまま本を鞄にしまい、再び歩き出した。








武器屋の前を通りかかったとき、足が止まった。


店先に並ぶ剣に、自然と視線が向く。


隣にいたハルモンも気づいて足を止め、ほんの少し首を傾げた。


「見ていく?」


「……少しだけ」


店に入った瞬間、店主の視線がこちらに向いた。


一瞬で値踏みする目だ。


壁に立てかけられた大剣が目に入る。


何気なく手に取る。


重量を感じさせないまま、刃が持ち上がった。




「……兄ちゃん、それは飾りじゃないぞ」


「分かっている」



軽く振る。


刃が空気を切る音が、店の奥まで響いた。



「……おいおい」


「ライ君すごい……!」


「そいつを振れる奴は騎士団でもそういないぞ」


「……重さは悪くない」


店主が、わずかに言葉を失う。




だが、王都でこんな大剣を持っていても意味はない。


元の位置に戻し、店を後にした。


店主の視線が、しばらく背中に残っていた。








昼が近づくと、休日なのもあってかかなり人通りが増えてきた。


人の流れに紛れながら歩いていると、不意に袖を引かれる。


とっさに振り返ると、ハルモンだった。


こちらを見てもいない。

ただ、当たり前のように掴んでいる。


……気づいていないのか。




人混みを抜けても、その手は離れなかった。


……振りほどく理由も、なかった
















そのまま歩き、昨日話していた砂糖菓子の店に入る。


店内は甘い香りで満ちていた。


並んで座る。




「これおいしいよ」


差し出された皿から、一口取る。


「……甘いな」


「でしょ?」




同じ皿を、二人でつつく。


……距離が近い。





ハルモンは、何も気にする様子がなかった。


俺も、特に何も言わなかった。








その後店を出て、混雑を避けるために川辺へ向かう。


川辺は、少し風が強かった。


ふとした拍子に、ハルモンの髪がほどける。


結んでいた髪紐が、ひらりと宙を舞った。




「あ………」




水面に落ち、そのまま流れて見えなくなる。


「落ちちゃった。まあいっか」


なんでもないことのように言う。


だが、そのままにしておく気にはなれなかった。


「よくない」


思ったより強く、言葉が出た。


ハルモンは、きょとんとこちらを見ていた。








来た道を戻り、市場へ向かった。


小さな服飾店に入り、似たような髪紐を探す。


「別に適当でいいよ」


そう言われても、手は止まらなかった。


真剣に選んでいると、隣でハルモンが少し笑う。


「服のお礼?」


「……まあ」








淡い金髪に合いそうな、濃紺の紐を選ぶ。


見せると、ハルモンはすぐに笑顔になった。




「ライ君、ありがとう」




何か言おうとして、言葉が出てこない。


いつも世話になっているのは、こちらの方だ。




……だが、結局何も言えなかった。




「ねぇ。ライ君って髪結べる?」


「……ああ」


「じゃあ、お願い。せっかくだし」


人通りの少ない小道。


ハルモンが自然に背を向ける。


……触れていいのか、一瞬だけ迷う。


手を伸ばす。


さらりとした髪に触れた瞬間、わずかに息が詰まる。


久しぶりだな、と不意に思った。


指が迷わず動く。


……そうか。


昔、結んでいたんだった。


エルナの髪を。


さらりと指先を抜ける金髪に、わずかに目を伏せる。


髪をまとめ、紐を巻いて結ぶ。




「……できたぞ」


「ありがとう」




振り返ったハルモンは、いつも通りの顔で笑っていた。




濃紺は、よく似合っていた。
























ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『観察』。

デート回の続きです。


明日の午前中に更新予定です。


よければブクマや評価、コメントなどいただけると励みになります。

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