#16甘さ
※理解できない相手と、離れられない話です。
屋台が並ぶ通りを歩いていると、甘い匂いが漂ってきた。
ハルモンの足が止まる。
「……これ」
見ると、焼き菓子が並んでいる。
タルトもある。
「……どっちにする?」
「両方」
購入し、近くのベンチに座る。
まずはタルトから、一口食べる。
「……甘い」
もぐもぐ食べて、飲み込む。
「……うん。回復した」
少し間があって、ほんの少し、口元が緩んだ。
「ライ君も食べる?」
少し小腹が減っていたので焼き菓子をひとつもらい、口に放る。
「……甘いな」
ハルモンは、買った焼き菓子とタルトを全部食べ、小さく息をついた。
ほんの少し、肩の力が抜けているように見えた。
(……単純だな。……分かりやすい)
研究所に戻り、そのまま予見術研究室へ向かう
扉を開けると、中にいた魔導士がこちらを見た。
ハルモンは何も言わず、水晶玉を棚に戻す。
「……返却」
それだけ言って、すぐに踵を返す。
「お疲れさまでした」
背中にかけられた声にも、軽く手を上げるだけだった。
魔法薬学室の扉を開けると、いつもの匂いに包まれた。
「戻ったか」
ルーカスが書類から目を上げる。
「……うん。終わったよ」
「どうだった」
少し間。
「……当たったんじゃない?」
「……そうか」
それ以上は聞かなかった。
ほどなく昼になり、俺とハルモンは食堂へ向かった。
食堂には、それなりに人がいる。
食べるものをそれぞれ選び、二人で空いている席に着いた。
「……あれだけ食って、入るのか」
「無理だよねー。……でも食べとかないと後でお腹空くから、少しだけ」
短いやり取り。
午後は、それぞれの作業に戻る。
ハルモンのいる奥では、いつも通り静かに薬が作られている。
だが、手前側は違った。
俺はいつものように壁際に立っていた。
時折、声をかけられ、手伝うこともあった。
そのほとんどは、手前側で慌ただしく動いている連中のものだった。
時間が、静かに——慌ただしく過ぎていく。
その最中。
「ハルモン様!」
手前側から、切羽詰まった声が上がった。
数人が、紙と薬瓶を抱えてこちらへ駆けてくる。
「この前いただいたレシピなんですが——」
息を整える間もなく、
「再現できません!!」
部屋の空気が、一瞬だけ止まった。
ハルモンは、顔も上げずに答える。
「え? できるでしょ」
誰も、すぐには言葉を返せなかった。
「いえ、何度試しても同じ結果にならず……!」
「条件は?」
「すべて指示通りに——」
「じゃあできるよ。どこかズレてる」
それだけ言って、また手元に視線を落とす。
数秒の沈黙。
誰も、次の言葉を選べなかった。
「……今日はここまででいいか」
ハルモンが手を止める。
まだ日が高い。
「もういいのか」
「うん。なんか疲れた」
珍しく、理由をつけなかった。
(……あれでいいのか)
帰り道。
いつもの道を二人で歩く。
時間が早いから、まだ街は賑わっている。
まっすぐ、家に帰った。
いつもより、少しだけ静かだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『父』。
明日の午前中に更新予定です。
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