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#15予見

※理解できない相手と、離れられない話です。


実習が終わり、何事もなく数日が過ぎた。


俺は、毎日ハルモンと一緒に研究所に通っている。




今日もいつも通り、魔法薬学室の扉を開けた。


「おはようございまーす」


ハルモンが席に向かうより早く、ルーカスが歩み寄ってくる。


「ハルモン、ご指名だ」


紙を差し出す。


ハルモンは受け取ろうとして、手を止めた。


「……誰」


まだ見ていない。


ルーカスは短く答える。


「星読の件だ」


一拍置いて。


「……は?」


明らかに嫌そうな顔だった。


「……まさかとは思うけど」


ようやく紙を受け取り、目を落とし、数秒。


「……げ」


露骨に顔を歪めた。


そのまま、紙をルーカスに押し返す。


「ルーカス行ってよ」


「指名はお前だ」


「……最悪。だから断ってって前にも言ったよ」


「ああ。だが今回は報酬が違う。通常の三倍だそうだ」


少し間があってから、ハルモンは額に手をやり、大きなため息をついた。


「……仕方ないな。やってくるよ」


ぶつぶつと文句を言いながら、ハルモンは準備を始めた。


(……あんな顔、初めて見たな)








「……ライ君、こっち」


低い声で呼ばれ、部屋を出る。


廊下をしばらく進んだ突き当たりの、少しだけ空気の重い、暗い一角。


その扉の前で、ハルモンは足を止めた。


『予見術研究室』


そう書かれている。


軽くノックして、扉を開ける。


中はさらに暗い。


棚には見慣れない道具が並び、どこか静かすぎる。


中にいた数人の魔導士が、こちらを振り返った。


近くにいた女性が、目を細める。


「あら、珍しい」


ハルモンは視線も合わせず、


「……貸して」


棚に並ぶ水晶玉のひとつを、無造作に手に取った。


「まあ……星読されるの?」


「……仕事だから」


それだけ言って、踵を返す。


部屋を出て、後ろ手に扉を閉めた。


少し間があって、ハルモンは手に持っていた水晶玉を、鞄へ雑に放り込んだ。


鈍い音がする。


「行くか……」


小さく呟く。


来た道を、そのまま引き返し、魔法薬学室の前を通り過ぎると、外へ出た。




無言で歩くハルモンの、半歩後ろをついていく。


ハルモンはルーカスから受け取った紙を、ちらりと見る。


いつも通る道とは反対へ曲がった。
















やがて、豪華な屋敷が並ぶ区画に出た。


そのうちのひとつの前で足を止め、そのまま門をくぐる。


広い庭。


手入れが隅々まで行き届いており、足音だけが、やけに響いた。


(……妙に、静かだな)


屋敷の扉を叩くと、使用人が現れる。


「ようこそいらっしゃいました」


ハルモンは、小さく頷く。


「……で、どこ?」


「こちらです……」








使用人の案内で応接室に通された。


低いテーブルとソファが、向かい合わせに置かれている。


ハルモンは迷いなく座り、俺はその少し後ろに立った。


しばらくすると扉が開き、恰幅の良い男が入ってきた。


「わざわざお越しいただいてすみませんね」


「……仕事ですから。……それで、今日は何を?」


「実は、娘に縁談が来ておりまして。……おや、そちらは?」


「僕の護衛。気にしなくていいよ」


「左様でしたか。……それで、お相手はこちらなんですが」


紙が差し出される。


ハルモンは受け取り、目を通す。


それから、鞄に手を入れる。


取り出した水晶玉を、テーブルに置く。




——鈍い音。




水晶玉に手をかざすと、淡く、紫の光が浮かんだ。


水晶玉の中で、光がゆっくりと揺れる。


ハルモンは何も言わず、それを見つめている。


時間が、少し伸びたように感じた。




「……どう思われます?」


「……やめた方がいいと思う」


間を置かずに、答えた。


「なぜですか?」


「知らない。……分からない。条件としては問題ないのにね」


水晶玉から目を離さないまま、続ける。


「……多分、その人、長く持たないよ」


少しだけ考える仕草。


「病気とかあるかもね」


小さく、そう言った。


部屋に沈黙が落ちる。


それから、ふと顔を上げた。


「……あ、一年くらい待ったら他の良縁があるかもって」


「本当ですか?」


「さぁ?」


再び沈黙。


「……でも、他でもない貴方の言うことですからね……。信じてみます」








礼として渡された革袋は、ずしりと重かった。


俺がそれを受け取り、屋敷を出た。








「……僕、あれ嫌いなんだよね」


「……そうなのか」


「理由もなく当たるのが、意味わからなくて気持ち悪いんだ。……制御できないものが、一番嫌い」


本気で嫌そうな顔だった。


「……疲れた」


少し間。


「甘いのじゃないと回復しない」


顔を上げる。


「貰ったお金で、何か甘いもの買ってから戻ろうっと」


そう言って、来た道を引き返していった。








少し歩くと、大通りに出た。


途端に、人通りが増える。


「甘いもの」


「……この辺にあるのか?」


「たぶん、あっちの方かな」


「……探すか」
























ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『甘さ』。

ミアが知ったら、「デートだ!!」と言ってまた脳内で花火が上がりそうですね。


明日の午前中に更新予定です。


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