#14揺れる
※理解できない相手と、離れられない話です。
数日後——
実習の日が来た。
いつもより早く研究所に入り、昨日のうちに用意しておいた長机の上に、使用する道具を並べていく。
俺も、荷運びなどを少し手伝った。
時間になると、同じ制服を身につけた若い連中が、ぞろぞろと部屋に入ってくる。
ルーカスが全体を仕切り、他の魔導士たちが補助に回る。
ハルモンは——見ているだけだった。
それでも、学生たちの視線は自然と彼に集まる。
当人は、まったく気にする様子はなかった。
用意された材料を使い、回復薬を作る実習が始まった。
それぞれが材料を選び、刻み、すり潰し、かき混ぜる。
ハルモンが、いつもやっている作業だ。
だが、学生たちの手つきはどこかぎこちない。
その中で、一人。
赤毛の少女が、何度も注意を受けていた。
手が震えており、動きも硬い。
——妙に、目についた。
だが、理由は分からなかった。
部屋を歩きながら全体を見ていたハルモンが、ふと足を止める。
「……へぇ。それを選んだんだ」
声が落ちる。
空気が、わずかに揺れた。
赤毛の少女が戸惑った様子で顔を上げる。
「続けて」
「は、はい……」
ハルモンは、その手元をじっと見ていた。
しばらくして——
「……うん。そっちの方がいいよね」
ふっと、笑う。
ほんの一瞬。
見逃せば、それで終わる程度の。
「……っ」
少女の顔が、一気に赤くなる。
「……え?」
「今、笑った……?」
周囲がざわつく。
(……今の、なんだ)
たったそれだけで、空気が変わったように感じた。
(ああいう顔を、していたか)
ルーカスは、ちらりと赤毛の少女の方を見たあと、何も言わずに手元の紙へ何かを書きつけていた。
やがて実習は終わり、学生たちは礼をして部屋を出ていく。
だが、数人がその場に残った。
明らかに、ハルモンに話しかけたそうにしている。
「ハルモン先生! どうしたら、先生みたいになれますか?」
「僕みたいって、どういうこと?」
「ええと……今までにない発想とか、開発力とか……」
「うーん……そうだなぁ」
少し考えて。
「とりあえず、隣の人使って実験してみるとか?」
「おいハルモン、余計なことを言うな」
ルーカスがすぐに割って入る。
「えー、必要なことなのに」
「お前たち、時間だ。戻れ。……全く、お前のような人間がこれ以上増えたら収拾がつかん」
ルーカスは、深く息を吐いた。
「……厄介だな」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
次回、『予見』。
来週月曜日の午前中に更新予定です。
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