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#11王都

※理解できない相手と、離れられない話です。


家を出た後、石造りの住宅が並ぶ区画を抜け、大通りへ出る。


朝から多くの人が行き交い、荷を運ぶ音と呼び声が混ざっていた。


俺は周囲を見ながら、ハルモンの半歩後ろを歩く。


店が立ち並ぶ通りを抜けると、同じ方向へ向かう人の流れが目についた。


その中に、妙に若い連中が混じっている。


揃った服装。

色違いの襟。

少し騒がしい。


俺は視線だけを動かす。


「……あれは何だ」


ハルモンは歩きながら、ちらりとだけ見る。


「あー、学生」


「学生?」


「うん。ここ、学校もあるから」


軽い。


俺はもう一度見る。


同じ服。

同じ年頃。

だが、色が違う。


「……あの色は」


「専攻だね。あれは薬学。あっちは理論」


興味なさそうに言う。


「……なるほどな」


「ライ君も通ってみたかった?」


「いや、別に」


ハルモンが、少しだけ笑う。


「……あれ、ハルモン先生じゃない?」


「え、うそ」


「隣の人誰……?」


「……見られてるぞ」


「いつものこと」








前方に、石造りの大きな建物が見えてきた。


学生たちが、「王立魔導院」と刻まれた門をくぐっていく。


ハルモンは迷いなくその門を潜り、敷地内へ入る。


石の階段を上がる。


俺も後に続いた。


学生たちが向かった本館とは別に、奥へ続く道があった。


ハルモンはそちらへ進み、別棟の建物へ入る。


入口の上に、文字が刻まれていた。


「王立魔導院附属魔導研究所」


(……ここが、あの研究所か)








中に入ると、空気が変わる。


ひんやりとした静けさ。


足音だけが、やけに響く。


途中、「魔物対策部」と書かれた扉の前を通り過ぎる。


ハルモンはそのまま進み、「魔法薬学室」と書かれた部屋の前で足を止めた。


何の躊躇もなく扉を開ける。


俺も続いた。


入った瞬間、匂いが変わる。


薬草と、焦げたような煙の匂い。


部屋の中には机と椅子が並び、壁際の棚には、乾燥させた薬草の束や大きな乳鉢、ガラス瓶、そして金属器具が、隙間なく詰め込まれていた。


――雑然としているのに、崩れてはいない。


「おはようございます」


ハルモンが軽く声をかける。


奥の机から、細身の男が顔を上げた。


銀縁の眼鏡の奥の目が、静かにこちらを見る。


「……戻ったか、ハルモン。こんな朝早くに、珍しいな」


落ち着いた声。


「うん、ルーカス。長く空けちゃってごめんね」


細身の男ーールーカスはフンと息を吐いた。


それから、視線がこちらに移る。


一瞬で測る目。


値踏みされているようだ。


「こちらは?」


「ライ君。僕の護衛だよ」


「……剣士か」


俺は何も答えない。


ルーカスは眼鏡を指で押し上げる。


「研究所に護衛を連れ込む必要があるほど、王都は荒れていない」


「僕が連れてきたいだけだよ」


さらりと返すハルモン。


ルーカスの視線が細くなる。


「私的な理由で、研究施設に外部者を入れるな」


「外部者じゃないよ」


少しだけ、考えるように間を置いて、


「家族みたいなものだし」


そう続けた。


そしてこちらを向いて軽く首を傾げると、ニコッと笑った。


空気が、止まる。


俺も固まった。


(……何を言っている)


ルーカスの眼鏡がわずかに光った。


「……そういう言い方は誤解を招く」


「誤解?」


ハルモンは本気で分かっていない顔をしている。


ルーカスは深く息を吐いた。


そして、俺の方へ視線を向けると、


「——強いのか」


唐突に、そう尋ねる。


「……それなりに」


短く答える。


ルーカスの視線が、俺の肩幅と剣を順に測る。


そして、その視線がわずかに止まる。


ほんの一瞬。


「……どこで雇った」


「雇ってないよ。一緒に来ただけ」


「……マレディアか」


ハルモンは軽く頷く。


「………戦力としては有用か」


それだけ言うと、書類へ視線を戻した。


「ハルモン、出先で新しい回復薬を開発したと言っていただろう。配合の内訳を寄越せ」


「後で出すよー」


「今だ」


「ちょっと休憩させてよ〜。……あ、そうそう! この新しく作った軟膏なんだけど、塗ったら手汗が増えて面白かったよ。かなりぬるぬるするけど」


「お前はまたくだらん物を……! 仕事の方に頭を使え」


俺は一歩下がって壁際に立ち、二人の話を黙って聞いていた。


(……あいつは、ああいう話には付き合わないのか)




















ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『視線』。

薬作りを担う魔導士ばかりが集まる魔法薬学室。

ライは作業の邪魔にならないよう壁際に立ちますが、突如現れた大柄の剣士に、皆の視線が集まります。

女性たちに取り囲まれ、戸惑うライ。

そしてライが取り囲まれても、特に関心を示さないハルモン。

ライは、無事にこの日を乗り切り、新しい環境に馴染むことができるのでしょうか。


明日の午前中に更新予定です。


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