#2隣にいる理由
※理解できない相手と、離れられない話です。
ハルモンは荷物から紙束を取り出して机に向かうと、紙をめくりペンを走らせる。
もう、こちらを見ていなかった。
俺は窓の外を見てから、部屋を見回し、机に積まれた紙の山に目を向けた。
そして、
「……手伝うことはあるか」
机に向かうハルモンに声をかけた。
ハルモンは一瞬こちらを向くと、
「ん? ないよ?」
そう言って、すぐに視線を手元へ戻した。
俺は、小さく息を吐いた。
床に散らばった紙を拾い集め、きれいにそろえてテーブルに置いた。
崩れそうな本を積み直し、横を見る。
本棚の本が倒れていたので、上下を揃える。
するとスペースができたので、積まれていた本を適当に差し込んだ。
次は、薬瓶がぎっしりと詰め込まれた棚に目をやる。
こちらも、倒れたまま横向きに押し込まれていたので、ひとつずつ立てて並べ直していく。
……少しは、ましになったか。
すると、ハルモンがふと顔を上げた。
「……あれ?」
机の横が整っていることに気づいたらしい。
「なんか探しにくくない?」
「……人が住む部屋だ」
「僕、住んでるよ?」
ハルモンはそう言って、少し笑った。
扉が控えめに叩かれる。
「失礼いたします。お水をお持ちしました」
アグネスがそう言って部屋に入り、机の端に水差しとコップを置いた。
一瞬、ちらりと俺の方を見る。
だが何も言わず、そのまま部屋を出て行った。
その後、ハルモンが机に向かっている間、俺は旅の荷物を解いて片付けたり、剣の手入れをして時間をつぶしていた。
すると、ハルモンが机から離れて、
「……ちょっと休憩」
そう言って、椅子の背に寄りかかる。
俺はテーブルから水差しを取ると、コップに注ぎ無言で差し出す。
「ありがとう」
俺はハルモンから飲み終わったコップを受け取ると、テーブルに置いた。
しばらくして、俺はハルモンに声をかけた。
「……昼はどうする」
「ん? ああ、食堂で用意されてると思うよ」
ハルモンは、手元の紙から目も離さずに答えた。
「……そうか」
「行こっか」
ハルモンはそう言うと、ようやく椅子から立ち上がった。
ハルモンに続いて階段を降りて、一階へ。
「ここが食堂ね」
扉を開けると、すでに食事の支度が整えられていた。
「お帰りなさいませ、ハルモン様」
アグネスと、もう一人の女中が一礼する。
(……用意されているのか)
ハルモンが奥の席につく。
(……席も、決まっている)
俺は何も言わず、ハルモンの向かいに座ろうとしたが――
「そこ、寒いよ」
ハルモンがさらりと言う。
「こっちの方があったかい」
そう言って、自分の隣の椅子を軽く叩いた。
俺は少しだけ躊躇して、それから、無言で隣に座った。
(……距離が近い)
二人の女中が、ほんの一瞬だけ目を見合わせた。
目の前に並べられた料理に、一瞬だけ視線を落とす。
……手をつける。
「どう?」
ハルモンが軽く聞いてくる。
「……問題ない」
「そっか」
それだけで、会話は終わった。
無言で食べきり、水を飲んだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
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