#1帰ってきた場所
※理解できない相手と、離れられない話です。
城壁をくぐった瞬間、足音が変わった。
石造りの建物が並び、空が少し狭くなる。
石畳に、都の人々の足音が響いている。
周囲の視線が増え、俺は無意識にハルモンに寄った。
「やっぱり帰ってきたって感じするなぁ」
ハルモンは軽く言う。
「……騒がしいな」
とだけ言った。
騎士団の詰め所の前を通り過ぎ、石畳の上を歩いていく。
「こっちだよ」
ハルモンについてしばらく歩くと、石造りの洋館が立ち並ぶ区画に入った。
上品で、塀のある二、三階建ての洋館がいくつも並んでいる。
ハルモンは、すれ違う人に会釈をしながら進んでいく。
俺はその様子を見ながら、後ろをついて歩いた。
「着いたよ」
ハルモンがそう言うので見ると、二階建ての石造の洋館があった。
左右対称の作りで、小さな鉄柵付きの前庭がある。
二階の窓辺には乾燥した薬草が吊るされ、裏には温室のような建物の一部が見えた。
「……思ったより、普通だな」
門には『ノエシス』と書かれていた。
(……貴族、か)
門をくぐりそのまま敷地に入って行くと、濃い色の木製の扉が開き、中から女中が出てきた。
「ただいまー」
ハルモンが女中に声をかける。
女中は、俺の方を見て一瞬驚いた顔をしたが、ハルモンに向き直る。
「ハルモン様、お帰りなさいませ。……お客様ですか? 客間をご用意いたしますね」
女中は、扉を開けてハルモンと俺を通してくれた。
「アグネス、父さんは?」
ハルモンは荷物を下ろしながら、女中――アグネスにそう尋ねる。
「旦那様は、王宮に詰めておられます。しばらく戻られないかと」
「そう。……じゃあこれ、後で手が空いた時に届けてもらえる?」
そう言うと、鞄から小さな瓶を取り出し、アグネスに手渡す。
小瓶には何か固いものが入っているらしい。
カラン、と中のものが瓶に当たって音を立てた。
「かしこまりました」
アグネスはそう言うと、瓶を手に一礼をして立ち去った。
「客間は寒いんだよね」
ハルモンは、脱いだ外套を衣装掛けに掛けながらそう言うと、こちらを向いた。
「荷物重いでしょ? こっち」
そう言って荷物を持ち直すと、迷いなく階段の方へ向かっていく。
俺は無言でついて行き、客間の前を通り過ぎた。
そのまま二階へ上がると、ハルモンは廊下の奥の扉を開けて、中へ入って行った。
俺も後に続く。
一歩踏み入れた瞬間、視界に入るものの量に、わずかに足が止まる。
本棚。
天井まで積み上がった本。
崩れかけたまま、押し込まれている。
(……これほど、か)
視線を動かす。
机の上も、同じだった。
書類と本が重なり、形だけ整っている。
奥には作業台。
棚には薬瓶が詰め込まれていた。
隙間なく、無理やり押し込まれている。
床にも、いくつか落ちている。
だが、埃はない。
……最低限は、手が入っているらしい。
ベッドだけが、妙に整っていた。
俺は何も言わず、荷物を部屋の隅に置いた。
……問題はない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
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