#4並ぶ距離
※理解できない相手と、離れられない話です。
翌朝、目を覚ました俺は、寝ているハルモンの肩を軽く揺らした。
「……朝だ。行くぞ」
ハルモンは呻きつつも、ゆっくりと体を起こす。
まだ眠そうで、ぼんやりしている。
「……大丈夫か」
「うん……。いま支度する……」
ハルモンはベッドから降りて、鞄から薬道具を取り出すと、鼻に眼鏡をかけた。
それだけだったので、何も言わなかった。
昨日のこともあり、早めに街を出た。
歩きながら、買っておいた黒パンを食べることにした。
「……硬いな」
パンを半分に割り、ハルモンに手渡した。
ハルモンはパンを受け取ると、鞄から小さな瓶を取り出す。
「……それは?」
「はちみつ。硬いからね」
瓶を開けようとする手を、俺はとっさに止めた。
「……それ、本当に食えるやつか?」
「え、食用だよ? 薬にも使うけど」
「“にも”が信用できん」
日が高くなる前に次の街に着いた。
休憩がてら、早めの昼食のために店に入ったときのこと。
「ライ君、大変だ」
「どうした?」
「持ってきたお金が尽きかけてる。今日の宿はなんとかなりそうだけど。……困ったな」
いつもの倍の時間をかけてゆっくり移動し、宿代と飯代が嵩んだ結果だった。
俺の方も、ハルモンの分まで賄えるほどの手持ちは無い。
少し考えていると、ハルモンが「あ!」と声を上げた。
「いいこと思いついた。僕の薬を売ろう」
こうして、即席・路上薬屋のオープンが急遽決定したのだった。
街の出入り口に近い一角に突如現れた路上薬屋。
魔導士の作る薬は、通常の薬より効きが早く、保存も利く。
だが、魔導士の多くは王都や研究機関に所属しており、庶民が直接それを手にできる機会は少ない。
そのため、薬屋は予想を上回る賑わいを見せていた。
「傷薬と熱冷ましはありますか?」
「はーい!こっちは塗薬、こっちは飲み薬ね」
「ありがとうございます!」
楽しそうに客と話をして薬を売るハルモンの後ろで、剣を片手に周囲を警戒する。
すると、薬を買いに来た客が俺に話しかけてきた。
「……奥さま、きれいな方ですね。ご夫婦で旅をしながら商売を?」
「夫婦じゃない。護衛だ。あと、あいつは男だ」
多くの客は、傷薬や熱冷まし、疲労回復薬などを買い求めた。
だが、中にはハルモンに個別の相談を持ちかける者もいた。
「いま旅をしているんだけど、よく眠れない日があって…」
「なるほど。じゃあ、『よく眠れる薬』を出しておくね」
「自分、気弱で臆病な性格なんです。なんとかできませんか?」
「それなら、『勇気が出る薬』がいいかな」
そうしているうちに日が傾いてきたので、店仕舞いをすることにしたのだが、客からは明日も開いてほしいという声も多く聞かれた。
軽くなった鞄を嬉しそうに背負うハルモンを連れ、宿探しをすることにした。
無事に宿を確保し、部屋に入るとハルモンはベッドに仰向けに寝転んだ。
「今日は働いたねー! こんなに売れるとは思わなかった。これで王都までの路銀も安心だ」
「そうだな。話を聞いた時はどうなるかと思ったが。……あと、お前が普通に売れる薬を持っていたのが意外だった」
「むっ、失礼な。ちゃんと普通の薬も持ち歩いてるよ。天幕生活の時暇だったから、採集した薬草で量産してた」
「それであんなに散らかしてたのか……」
ハルモンはころりと寝返りを打つと、こちらを向いた。
「明日もって言われたけど、どうしようね?」
「……昨日のこともあるからな。長居はしない方がいいだろう」
「やっぱりそうだよね……。楽しかったけど、仕方ないか」
装備を外しながら、ちらりとハルモンを見る。
「……疲れてるだろ。今日はもう休め」
「んー……そうする」
そう言って、ハルモンはそのまま動かなくなった。
次の日の朝、今日も俺とハルモンは早めに起きて、次の街へ向かおうとしていた。
道中に食べるものを調達していると、後ろから声をかけられる。
「おい、あんたたち、昨日の薬屋だよな?」
振り返ると、昨日薬を買いに来た男性だった。
「あんたたちから買った疲労回復薬だがな……。効き目はあった! あったが! “効いてる間、やたら隣にいたくなる”のは聞いてない!」
その言葉で、俺は何があったのかを即座に理解した。
「……あ。それ、まだ失敗だったかも」
「次は説明してから売れ」
その男性に謝罪し、代金の三割を返金することで話をまとめていると、また後ろに別の客が現れた。
「聞いてください……昨日『勇気が出る薬』を飲んで……告白して振られました!」
「それも経験値だよ」
このままここに留まると、客の対応に追われて街から出られなくなるかもしれない。
俺とハルモンは急いで支度を済ませると、早々に街を出発した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。
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