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#6訓練

朝の日課を終えて部屋に戻る。ハルモンは、まだ眠っていた。


今日は、研究所は休みだ。わざわざ起こすこともない。俺はハルモンが起きるまで、剣の手入れをして過ごすことにした。




しばらくして、布団の中でハルモンが身じろぎをする。目を覚ましたらしい。


ハルモンは少しの間ぼんやりとしていたが、むくりと起き上がった。



「……変な夢見た」



言いながら、ベッドから足を下ろす。



「……どんな?」



「わからない。起きた瞬間忘れちゃった。……気になるなぁ」




食事をするのに、食堂へ向かう。扉を開けるが、最近いつもそこにあった姿は、もうなかった。改めて、あいつは帰ったんだなと実感する。


いつもの席に並んで座る。ミアに挨拶されて、前に並べられた料理を黙々と口に運ぶ。


食器が触れ合う音だけが、しばらく続いた。




食事を終えて、部屋に戻る。戻る途中、「ゼファーがいないとこんなに静かだったんだね」とハルモンが言ったので、「そうだな」と返した。


部屋に戻ると、ハルモンはすぐに作業台に向かう。谷底から取ってきた青い水が入った瓶を、手に持っている。今日はあれの……成分分析、とやらをするつもりなのだろう。


俺は、軽く部屋の中を整えた後、剣を持って再び部屋の外に出た。階段を降りて、裏口から外に出る。普段女中たちが家事をするのに使う出入り口で、直接裏庭につながっている。




しばらく、無心で剣を振っていた。胸の鼓動が速まり、汗ばんでくるくらいには。


ふと、軽い足音が聞こえてくる。振り向くと、ハルモンがこちらに歩いてきていた。


ハルモンは、おそらく薬草の葉を取り除いた後の茎の部分……薬には使わずにいつも捨てている部分を、大量に腕に抱えていた。


乾燥した、茎の束。……大量。



「ライ君、ちょっとその場所、貸してもらってもいい?」



言われて、少し移動する。するとハルモンは、さっきまで俺が立っていた場所にその大量の茎の束をどさっと置いた。


俺の日々の訓練で芝が抉れて、土が剥き出しになった場所にだ。



「……何をする気だ」



「まあまあ、そのままそこで見ててよ」



ハルモンはポケットから小さな紙切れを取り出す。それを見ながら、何やらぼそぼそと喋り始めた。少しして、手のひらから紫色の光が溢れてくる。ハルモンが手を振り上げると、地面に置かれていた茎の束が一気に燃え上がった。


熱気が肌を打つ。



「なっ……!?」



「成功した! ……っ!?」



ハルモンが、まるで膝が抜けたように地面にしゃがみ込み、そのままうずくまる。心臓が嫌な音を立てる。すぐに側に駆け寄った。



「どうした……!? ハルモン……」



ハルモンは顔を上げない。うずくまったまま少しだけ首を振る。ハルモンは、ハアハアと肩で息をしていた。そっと、背中をさすってやる。少しすると息が整ってきて、ほっと息を吐いて顔を上げた。



「ごめん、もう大丈夫。……思ったより反動がすごかった」



「反動……?」



「魔法だよ。……僕の適性が薬作りなのは、知ってるよね。魔導士には二種類いる。戦闘に特化したゼファーみたいな人たちと、僕やルーカスみたいな人たち。……その枠を、超えられるのかなと思ってさ」



ハルモンはしゃがみ込んだまま、自分の手のひらを見つめる。



「何回か練習したら、体が慣れてくるのかな。それとも、余計に消耗するのか……」



そこまで言って、小さく息を吐く。



「まあ、今日はいいや。疲れたし。……おやつでも貰ってこようかなー」



そう言うと、立ち上がって家の方に歩き出す。足取りは、普通だ。まるで何事もなかったみたいに。


先ほどまで激しく燃えていた炎も、すでに火種が燃え尽きて燻るだけになっている。足で踏んで燻っていた火を消してから、俺はハルモンの背中を追いかけた。







部屋に戻って少しすると、ハルモンの希望通り、茶と焼き菓子が用意された。ハルモンは、椅子に座って焼き菓子を口に放り、頬を緩めている。俺は茶を口にしながら、ふと作業台の上の空き瓶が目についた。


カップを置いて立ち上がる。作業台の方に行き、空き瓶を手に取ってみる。


ラベルには丸い字で『魔力増幅薬Ⅱ・試作』と書かれていた。



「これ……」



「ああ、それ改良したやつだよ。さっきの実験で使ったんだ」



「……危険はないのか」



「だいぶ調整したんだけどねー。ちょっと胃にきやすい」



そう言いながら、ハルモンは普通に焼き菓子を食べている。食べながら、少し首を傾げた。



「食べないの? これ、美味しいよ」



言われて、俺はテーブルに戻って椅子に腰掛けた。


焼き菓子を一つ取って口に放る。……甘い。



(……何故、さっきは急にあんな魔法を……。それに、『魔力増幅薬』……? 胃にくるって、どういうことなんだ。本当に、危険はないのか……?)



違和感を覚えながらも、その時は何も言わなかった。そのことを、後になって悔やむことになるとは、まだ夢にも思っていなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


この関係がどう転ぶのか、見守っていただけると嬉しいです。


次回、『異変』。


明日11時に更新予定です。


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