記録の扉
夜の学園は静まり返っていた。
昼間の喧騒が嘘のように消え、石造りの廊下には自分の足音だけが響く。
(まだ分からない)
レン・バートルの失踪は、今日も原因不明のままだった。
事故か、単なる行き違いか、それとも別の何かか。
どれも確定していない。
だから、動きも止まったまま。
⸻
寮に戻ると、扉を閉める音がやけに大きく響いた。
鍵をかける。
その瞬間、部屋の空気がわずかに落ち着く。
「……動くつもりですか」
部屋の隅から声がした。
ベルが静かに立っている。
普段はメイドとして王宮に仕えるが、王族直属の護衛・監視役として同行している存在だ。
「当たり前だ」
短く答える。
「ですが、現時点では情報が不足しています」
「学園側の記録も、失踪前後の動きも揃っていません」
(だから何も進まないのか)
理屈としては正しい。
だが、それが逆に引っかかる。
私は立ち上がり、窓の外を見る。
夜の学園は静かで、遠くに記録棟の灯りだけが見えていた。
あそこには、この学園のあらゆる記録が集められている。
「記録を見に行く」
そう言うと、ベルが小さく頷いた。
「図書館の奥にある記録閲覧区画ですね」
⸻
学園には図書館がある。
そのさらに奥には、一般生徒の立ち入りが禁止された記録閲覧区画が存在する。
そこには生徒の出席記録、申請履歴、学園内で起きた出来事の正式な記録が保管されている。
(ここなら、何か残っているはずだ)
夜の廊下を進む。
足音は最小限に抑える。
(王女としてではなく)
(ただの生徒として)
図書館に入ると、空気が変わった。
人の気配が一気に薄くなる。
さらに奥へ進む。
木製の重い扉が現れる。
鍵はかかっている。
だが問題ない。
指先に魔力を流す。
静かに術式がほどけていく。
扉が開く。
中は暗い。
紙と魔力記録の匂いが混ざっていた。
整然と並ぶ棚が奥まで続いている。
⸻
「ここからだ」
小さく呟く。
レン・バートルの記録。
消える直前の行動。
それが残っているなら、ここしかない。
私は一歩踏み込んだ。




