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消えた1行

記録閲覧区画は静かだった。


紙の匂いと、魔力で保存された情報の淡い残滓が漂っている。


整然と並ぶ棚は、まるでこの学園そのものが「記録でできている」かのようだった。


(ここにあるはずだ)


レン・バートルの記録。


消える直前の行動。


ベルが後ろで静かに警戒している気配を感じながら、奥へ進む。


学籍記録の棚。


出席、移動履歴、申請ログ。


全てが時系列で並んでいる。


「……ここか」


レン・バートルの名前が刻まれたファイルを引き抜く。


薄い魔力の光が走る。


閲覧許可は問題なく通る。


ページをめくる。


最初は普通だった。


授業出席、移動履歴、寮への帰還記録。


どれも異常はない。


だが。


ある一点で、手が止まる。


「……ここから先がない」


記録が、途中で途切れている。


「削除ではありません」


ベルの声が静かに響く。


「記録そのものが生成されていない状態です」


(生成されていない?)


普通はありえない。


学園の記録は魔法によって自動生成される。


抜けることはあっても、「空白」は残らない。


もう一度ページをめくる。


やはり同じだ。


その時間帯だけ、完全に“存在していない”。


「その前後のログは正常です」


「つまり、そこだけが異常です」


(そこだけ消えている)


記録の欠落ではない。


最初から“書かれていない”空白。


胸の奥がざわつく。


これは事故でも、単純な失踪でもない。


「その時間帯、学園内のどこかで何かが起きています」


ベルが淡々と告げる。


「ですが、記録が存在しない以上、通常手段では追えません」


(通常手段では)


なら逆だ。


通常じゃない方法ならいい。


私はファイルを閉じる。


静かに息を吐く。


「十分だ」


短く言う。


ベルがわずかに目を細める。


「何か分かったのですか」


「分かったんじゃない」


一拍置く。


「“消されてる”」


その瞬間、記録閲覧区画の静けさが一段深く感じられた。


まるで、この場所だけが外の世界から切り離されたように。



レン・バートル。


ただの行方不明のはずだった少女。


その存在は今、“記録にすら残らない空白”になっていた。


そしてそれは同時に意味する。


この学園の中に、まだ見えていない何かがあるということを。


「戻る」


そう言って歩き出す。


ベルが静かに後ろをついてくる。


その足音だけが、やけに現実的だった。


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