縁の下の英雄
翌朝。
「今日は、滑走路西側を掃討していく」
「建物が少ない。数も多くはないはずだ」
「一班五名とソルでここを守れ。ここが落ちたら俺たち全員スリーアウトで試合終了だ。頼んだぞ」
「二班五名はヘリ駐機場を監視」
「残り二十名で西側施設を掃討する」
「それが済んだら、一日休みだぞ」
「今日も楽しいピクニックだ。準備でき次第出るぞ!」
一班は一名がショップの屋上。
二名がリサイクル工場の屋上。
残る二名がハンガー01の屋上。
二班は二名がハンガー03の屋上。
残る三名はハンガー05の屋上から、滑走路を見渡せる位置で監視に就く。
それぞれが所定の配置へ向かって動き出した。
西側掃討チームは、回収してあったピックアップに分乗し、滑走路の先へ消えていった。
近くの屋上からは、ときおりサプレッサー付きの銃声が聞こえてくる。
だが、発射音というより、ボルトが前後するような機械音の方が耳に残る。
「ガシャキーン……ガシャキーン……」
そんな音だった。
映画みたいな
「パスッ、パスッ、パスッ」
じゃないんだな……。
そんな事を思いながらテープを巻いた"マサムネ"を壁に立てかけた。
(ソルの武装はアルミの棒だから屋上に居ても役立たない)
それでも何か役に立ちたいと、船から降ろしたハードケースを開けて自分でも出来そうな物はないかと探してて大量にある空のマガジンに気が付いた。
「そうだ、女の子がハンビーの中でマガジンに弾を込める係りになってたアニメがあったな」
ソルは補給品のアモカンから、紙箱に入った5.56mm弾を、空のマガジンに装填しだした。
無線の遣り取りを聞きながらすべてのマガジンはフル装填された!手で!
「うっ、もう無理~」
座りっぱなしで腰が……アルミ製の魔剣は老人の杖代わりになっていた。
それでも状況の把握だけはこまめにしていた。
冷やした缶コーラを飲みながらだが。
午後二時ごろ、南西部突き出したヘリパッドの外側の、小規模なマリーナと宿泊施設周辺を確保できたところで、弾薬の残りが心細くなってきた。
今日はここまでにして、補給の為に無線のマイクを取った。
その時、周辺監視していた隊員が慌てて報告に来た。
「滑走路中央から北部にかけてゾンビの集団が膨れ上がりつつあります」
「こちら掃討チームだ。弾の数より多いゾンビに囲まれつつある」
「大至急弾薬の補給を頼む!」
ソルは流し聞きしていた無線に慌てた。
地上に居るのは俺だけだ!
先ほど装填し終えたマガジンは、アモカンへ収めてハードケースに戻してある。
急いでまたハードケースから出して、回収してあったピックアップの荷台に積めるだけ積んで走り出そうとした時!
「俺も行くぜ!」
ショップの屋上で警戒してた隊員が飛び出してきた。
「俺以外は遠くて間に合わん!」
そのまま荷台に飛び乗り、屋根を叩いた。
「いいぞ、出せ!」
リサイクル、01、そのまま警戒。バリケード付近にも集まりだしたら報告!
「03,05のハンガー屋上はその位置から滑走路上の数を減らせ!」
「南側へ寄せ付けるな」
「了解」
出来るだけ海岸寄りを走った。付近の滑走路上には見当たらない。
滑走路を突っ切り、そのまま海岸沿いを走り、宿泊施設まで突っ走った。
桟橋の格納庫と、管理棟に分かれて対処していたが、弾薬は間もなく切れそう!
荷台の隊員はM16A2でピックアップに近づくゾンビを排除していた。
俺はアモカンをひとつずつ放り投げた。
「中のマガジンは装填済みだ!」
管理棟に移動中も近づくゾンビを寄せ付けず、駐車スペースに走り込んだ。
俺は両手にアモカンを提げて援護射撃の中、夢中で棟内に駆け込んだ。
「間に合いましたか!」
「おう、ギリ間に合ったぞ!」
即座に交換したマガジンには残り三発しか入っていなかった。
それを拾ったソルは、真っ赤になった親指を見てため息をつきながらまた装填し始めた。
装填済みマガジンを受け取りに来た隊員が、その手元を見て立ち止まった。
「おまえ、それ手で詰めたのか?」
「はい……」
『足じゃ詰められないでしょ~よ!』
「マガジンローダー使わなかったのか?」
「ろ~だ~?」
「え、ローダーあったんですか?」
「ハードケースに入ってなかったか?」
「え~~~」
ソルはその場に崩れ落ちた。
(まさにオーティーエルだった)
午後六時頃、ようやく落ち着きを見せてきた。
交代で小休止にはいったところで、そっとジョンに呼び出された。
裏手はすぐにビーチになっており夕暮れ前のカネオヘ湾とコオラウ山脈は息を呑むような美しさだった。
『平和な時にのんびりこの景色を見たかったなぁ・・・…』
「ソル、今日はマジ助けられた。感謝する」
「あやぁ、慌てましたよ~、あはは。でも、間に合って良かったです」
「そうじゃねぇ…いや、それもそうなんだが……」
「お前、持ってきてた空のマガジン全部装填したんだって?それもローダー使わずにだ」
「誰に頼まれたわけでもなく……」
「それで救われたんだ」
「弾だけ渡されても装填に手間取ったら間に合わん」
「お前が救ってくれたんだ。ここにいる全員を」
「俺は、ただ暇だったから……」
「違う」
「暇だったからじゃない」
「お前は、自分に出来ることを探した」
「だから全員、生き残れた」
「ジョンは大袈裟だなぁ……」
「……でも、そう言ってくれてありがとう」
「ジョン、俺からもいいかな」
「銃を使わずひとりで三十匹のゾンビを血祭りにあげた戦闘の素人意見なんですが、聞きたいですか?」
(七人って話だった記憶が……)
「聞きた~いって言ってくださいよ~」
「まぁ……聞かせてくれ。いや、聞きたい!」
「どうしようかなぁ…そんなに聞きたいですか?しょうがないなぁ……」
(めちゃ聞いて欲しそう)
「ヒロの港、覚えてませんか?」
「全力で逃げて、へたり込んだやつか?」
「そうです!その時、追いかけて来て、そのまま港に落ちてったでしょ?」
「それで、それっきり?だった……」
「だから、あいつら水が苦手なんですよ、泳げないし……」
「そういえばそんな感じだったな」
「それで逃げられたんだもんな……」
「この基地って、今は封鎖されてて。言わば絶海の孤島なんですよね!」
「増えないから減る一方ですし」
「この滑走路の北の端、その先の海岸沖からRHIBにミニガン取り付けて、滑走路に向かって機銃掃射すれば簡単じゃないかと……」
「やつら泳げないから船は安全だし」
「それに、シールズがジャングルをRHIBで遡って人質を救出する時にミニガンで敵の車両を薙ぎ払ったりして。カッコイイじゃないですか!フォースリーコンでもそういうのやるんですよね!」
「……」
「その時に、大音量でボンジョビなんか流したら、喜んで集まって来ませんかねぇ」
「なんだったら、MJのスリラーでも良いですけど……あとで本人に怒られたりして……」
(ジョンの頭の中でゾンビが並んで一糸乱れず踊っていた)




