ゾーイの大冒険
ジョンとソルが海兵隊基地で奮闘して居る頃。
キャサリン探検隊の隊員ゾーイは食糧倉庫を探索し終わり、戦利品に満足し、さらなる好奇心の対象を探っていた。
チャートテーブルまで来ると、壁の配電パネルを見つけた。
「これ、なんだろ?」
カチッ。
試しに端から順番にスイッチを入れていく。
カチ、カチ、カチ、カチ……
綺麗に一列揃ってONになった。
「ふふっ」
それだけで妙な達成感があった。
――その時だった。
どこからともなく、小さな電子音が聞こえた。
「ピッ」
コックピットのほうから、
「ウィィィン……」
と何かが動く音。
「えっ?」
開いたままだった薄いノートパソコンの画面が突然明るくなった。
「えぇっ!?」
ゾーイは青ざめた。
「こ、壊した……」
「触らなければ良かった……」
「ママーーっ! 大変!」
「触ってたら壊れちゃったぁ~!」
ゾーイはすでに半泣きだ。
「あらあら、まあまあ」
ふたりでPCの前まで行って画面を見てみた。
そこには、都会の交差点?すごい人混みの中。
若者の男女が知らない言葉で話していた。
「え、ここって、日本の……たしか渋谷のスクランブル交差点よね?」
「以前、テレビの日本特集で見たことあるわね」
「ママ、なんで日本のテレビが映ってるの?」
「あぁ、録画してあったビデオなんじゃない?」
「ほら、ソルも日本が恋しくなったときに観てたんじゃない?」
「そっかぁ、こんな遠くで独りぼっちだもんね」
「帰ってきたら、一緒にビデオ観てあげよっかな……、ふたりで観た方がぜったい寂しくないよね!」
「そうね」
ゾーイのリュックからは戦利品の日本のお菓子が零れそうだった。
その頃、前進基地では部隊に一日の休養が与えられていた。
食糧庫の最奥にしまってあった取っておきのお菓子がゾーイの手に落ちていたとはつゆ知らず、ソルは一度戻って、ハードケースからマガジンローダーと、追加のアモカンを持って最前線に帰って来た。
「これなら楽勝だな!」
黙々と空のマガジンに装填し続けた。
「おまえ、またやってんのか?」
「こういう地味な作業、好きなんですよね」
「昨日の話な」
(ジョンのスルーはもはや神業のごとくだ)
「あ~はい、ゾンビが踊る話でしたっけ?」
「……滑走路の先の海岸から機銃掃射って話だ」
「そうでしたね、昨日は夢の中でMJも踊ってましたよ。ハイ」
「まあいい、それを少佐と話したんだ」
「詳しく聞きたいとさ」
「俺も実行可能な作戦に出来れば行けると思うぞ」
「それで、ここは他の連中に任せて、俺たちは司令部に呼ばれた」
前進基地の小さな桟橋にも何艘かRHIBはあった。
どうやらここで整備していたようだ。
それに乗って、避難先の司令部まで戻り、作戦の詰めの場に立ち会った。
話し合いが始まった。
どう説明したものか考えていた時、ウォーキングデッドで、ダリルたちがバイクでゾンビの群れを誘導していたシーンが頭をよぎった。
その発想だけを簡単に説明した。
「ええとですね、誰かがバイクで住宅地やそこかしこを大きな音を立てて走り回って滑走路まで引っ張って来て、北の端の海岸まで上手く引き連れてこれたらバイクを捨ててRHIBに飛び乗ってミニガンをぶっ放すんです!」
「簡単なお仕事ですよね?」
「あ、ちなみに俺はバイクの免許は持ってないんで無理です。はい」
「なんで滑走路の上で機銃掃射しないんだ?ハンビーに設置できるぞ」
「それは、結局辿り着かれたらジ・エンドでしょ?」
「岸から離れてたらゾンビは永遠に辿り着けないわけだし……」
「ギリ近づいて撃ち続ければ、延々と殺到しつづけますよ」
「目の前に人参をぶら下げられた競走馬みたいなもんですかね」
「……」
俺の簡単な説明に全員声が出せなかった。
『ムフッ、俺ほどゾンビ映画を観てきた人間はこの世界にはいないのだよ、諸君。ムフフッ』
(鼻の穴が盛大に広がっていた)
結局俺の"簡単な提案"がそのまま通った。マジか……。
その後の作戦の詰めは偉い人達に任せ、ひと先ず俺とジョンは準備が出来るまで休暇?だ。
キャサリンさんとゾーイを俺の船まで迎えにいった。
「ただいま戻りました~」
「おぉ、迎えに来たぞ~」
「……」
が、なんかふたりの様子がおかしい……
「ど、どうしたの?」
「ちゃんと自分で謝るんでしょ!」
「あ、あのね、ソルの船で探検してたの……」
「それでね、いろいろ触ってて……」
「うんうん、危ない物は鍵かけてあるから大丈夫だよ」
「それでね、いろんなスイッチ触ってたら……突然テレビがついて……」
「私ソルのテレビ壊しちゃったかもしれない……」
ゾーイはシュンとしながら謝った。
「え、テレビ?そんなものあった?どれのことかな?」
「だって、録画した日本のビデオだってママが言ってたし……」
「ソルが寂しいから日本の事思い出してるって」
「そうなのよ、ごめんなさいね、ソル」
「ゾーイもすぐ調子に乗っちゃうから……ごめんなさい、許してあげてね」
そう言ってゾーイが指さしたのはノートパソコンだった。
しかも、Youtubeの画面だったのだ!
「え、えぇ!なななんで?なんでこれが映ってる!」
その叫び声にふたりは震えあがった!
「ゴメンナサイ!」
ふたりはことの重大さに恐れおののいていた。
「いやいやいや、ふたりは大丈夫ですよ。はい」
「これが見つからなくて困ってたんですよ」
「見つけてくれてありがとう、ゾーイ!」
「とっても大事な物なんだ……」
「やっぱりママの言ったとおりだった」
「こんな遠くまで来て、独りぼっちは寂しいよね」
「日本の思い出のビデオは大切だもんね!」
「ビデオ…そう、ビデオ!とても大切な思い出なんだ」
「ありがとうゾーイ!お礼に何でも好きなお菓子持ってって良いからね!」
「……」
ゾーイはリュックをどうしようか考えた。
準備は着々と進んでいった。
バイクはカワサキ製だった。自衛隊と同じだな。
乗り手は……みんな志願したが、少佐が指名した。
休日も乗り回してるとこを見掛けていたそうだ。
現在確保しているところはそのまま警戒監視を維持。
6艘のRHIBが用意できたので、司令部から弾薬の積み出しに総動員された。
燃料桟橋なら大量に保管できるし、今なら守りも固い!
司令部は基地の弾薬庫と直結しているが現状海路しかないので大変だ。
すべての準備が整ったのは1週間後だった。
作戦名は、オペレーション・ハーメルンに決まった。




