桟橋奪還作戦
翌朝は早めに司令部へ行き、事前準備に取りかかった。
打ち合わせが済み、午後から作戦実行に決まった。
俺たちの二隻はともに司令部近くまで移動し、キャサリンさんとゾーイには俺のヨットで待機しててもらう。
危険な物は鍵がかけてあるので、ゾーイに探検隊ごっこされても大丈夫だろう。
俺のテンダーで四往復し、ジョンのクルーザーへ掃討チーム十名を運んだ。
その後、カネオヘ湾奥の桟橋へ向かう。
サンゴ礁の浅瀬を縫うように水路を進み、燃料桟橋へたどり着いた。
が、乗り降りしやすい隣のマリーナの浮き桟橋に船を着けた。
「ソルはここで船を守っててくれ。ここなら無敵だろ?」
「あっちの広い桟橋はちょっと……ここなら俺は無敵だから任せて!」
「一班はヘリ駐機場、および全周警戒」
「二班は手前の建物から潰すぞ」
「全員サプレッサー確認。撃ち漏らすな」
「了解」
「了解」
駐機場の奥、巨大なハンガー方向から十数匹が気付いて近づいてくるが、
サプレッサー付きのM16A2で次々と撃ち倒され、近づくことができなかった。
突入班は慎重に確認しながらじわじわと建物を開放していった。
暗くなる前には、西側はヘリ駐機場とその奥のハンガーまで。
東側は下水処理場まで。
北は自動車修理工場あたりまで掃討して百匹以上減らした。
「今日はこれくらいでいいだろう」
「ショップ裏の桟橋はゲートでロックすればヤツらは入って来れない」
「あそこに留められてるあの高そうなクルーザーで全員朝まで休めるぞ」
「ま、俺たちはどこでもぐっすり寝られますけどね」
「俺の出番はなかったです……」
「明日はハンガーにあったRHIBで、先に司令部に戻った一班が空いてるチームを引き連れてくる」
「俺たちと二班はここで警戒だ。これだけ見通しを広げたんだ、近づけなければ問題ないだろう」
誰も異論はなかった。
初日の目標は十分すぎるほど達成された。
その夜、俺たち二人と残った五名で食事を取りながら、ジョンは話し出した。
「先に帰らせた一班は、距離を取って撃っていた」
「だがお前たちは違う」
「顔の見える距離で撃った」
「知り合いや、仲の良かった仲間だったヤツもいただろう」
「そんな相手を撃つのは、何とも言えない気持ちになる」
「……だが、考えてみろ」
「あいつらを、このままあんな姿のまま歩かせておいていいのか」
「仲間だったなら、天国へ送ってやれ」
「神様のもとへ」
『良いこと言うなぁ……』
俺はジョンを少し見直した。
食事が済んだ俺たちは、彼らが休んでいるクルーザーの隣に係留し直したジョンのクルーザーでコーヒーを飲んでいた。
「今日はお疲れ様でした」
「俺は留守番だけで役に立てませんでしたね」
「そんなことは無い、いつでも想定外の事は起きる。退路の確保は重要だ」
「ソルの仕事は重要なことだったんだぞ!」
「それはそうなんだろうけど……」
「みなさん、複雑な思いで戦っていたんだと思うと……」
「俺は……この世界で俺の知り合いは……ジョン達しかいません……」
「ジョンと、キャサリンさんと、ゾーイしか……いないんです」
「そんなことはない」
「昨日はニックと知り合った」
「今日、一緒に戦った連中だってもう仲間だ」
「そうやって知り合いを増やしていけば良いじゃないか!」
「まだ、日本の家族や知り合いは生きてると信じろ!」
「きっと、また会えるさ」
「そうですよね……また会えますよね!」
『俺の生きてきた2026年では、1996年にこんな事件は起きてない。
この世界は、俺が過去へ戻ったわけではなく、枝分かれした1996年なのだろう。
ジョンには”過去へ戻ったら身体も戻ってました”とはとても言えない。
日本には、この世界の佐藤俊夫はいるのだろうか?
この俺の、……1996年当時の知り合いは誰も居ないかもしれない……』
それでも。
ジョンの気遣いと優しさが六十年生きて来た"佐藤俊夫"には嬉しかった。
翌朝、ソルはスッキリと目が覚めた。
それは心がほんの少し軽くなったからかもしれない。
「今朝は俺がとびきりうまいコーヒー淹れますよ!」
「日本じゃスターバックスでバリスタしてましたし!」
「へぇ~そうかい、そいつぁあ旨そうだ」
(ジョンは"軽く流す"を覚えた)
「しかし、日本にもスターバックスがあったんだな」
「はい、全国展開してますよ!」
(まだ最初の店舗ができたばかりだ)
エスプレッソマシンが無かったのでドリップだったが気にしなかった。
ソルはコーヒーを淹れる人がバリスタだと思っている。
隣で休んでいた五人も、装備を整えて集まってきた。
俺が淹れた、たぶん美味しいコーヒーを飲みながら、今日の予定を軽く話し合い、全員揃ったブリーフィングに備えた。
「今日は、海側のハンガーすべてを掃討して、滑走路手前まで確保する」
「ハンガーの北側道路は放置車両をバリケードにしてヤツらが入り難くする」
「滑走路まで達したら、そのまま西側の施設を掃討」
「今日やれるところまでやるぞ!」
「了解!」
コーヒーを飲み終える頃、
三艇のRHIBが、総勢二十四名を乗せて到着した。
俺たち七名を含めた三十一名、全員揃ってのブリーフィングは三十分ほどで終わった。
ハンガーは広い。一班十名で一棟ずつ掃討していく。
残りの二十名は、放置車両でバリケードを築きながら、制圧範囲を固定していく。
夕方には滑走路に達した。
避難所周辺は住宅地だ。建物の間隔が狭い。
確認しながら進むと、どうしても時間を食う。
その点、滑走路周辺は見通せる範囲が広い。
遠くから寄せ付けない戦い方ができていた。
この日は二百以上の魂を天国へ送り届けた。
「基地のゲートは封鎖されている。これ以上増えることはないだろう」
「順調にいけば、三週間くらいで解放できそうだ」
「痛みも感じない。頭以外を撃っても止まらないが……結局は数の脅威だけだ」
「ヤツらはソマリア民兵とは違う。AKで撃ち返してこないし、RPGも飛んでこない」
「モガディシュの戦闘ですよね! ブラックホークダウンにならないと良いですね」
ジョンは少しだけ視線を落とした。
「……デルタの知り合いが参加してた」
ジョンは少し驚いた顔をした。
「お前、よく知ってるな。CNNで観たのか?」
「……そ、そうだったと思います」
(まだ原作も出版されていなかった)
ここまでは、すべて順調に進んでいた。
そして順調すぎた。




