Semper Fi~生き残った海兵隊~
『ジョンは元海兵隊だった?
あのイラクで狂犬の集団みたいな海兵隊?
そして、フォース・リーコン出身?武装偵察部隊だったっけ?
海兵隊の特殊部隊だったよなぁ。
それならエリートじゃないか?
え、ジョンが、エリート特殊部隊出身だった?いやいや……
だって、奥さんに頭の上がらないスーパーエリートな特殊部隊出身者だって?
いやいや……どう見ても田舎出身の口は悪いが気のいい典型的アメリカ人だぞ……
……そうか、それは世を忍ぶ仮の姿、
普段はまわりに溶け込んで『その時』を密かに何年も待ち……
って、それは違う映画だったな……え~っと』
(ソルは思考の海に沈み……完全に溺れていた)
「こいつはソルト。日本人だが、なかなかユニークなヤツだろう」
「あははは」
「こいつぁヤバそうだ!」
「何か考え込んでるが、大丈夫なのか?」
「おい、いつまで手ぇ挙げてんだ、もう降ろしても良いんだとよ」
「え、あっ、ハイ……、自分が手挙げてたの忘れてました!はは……」
「それで、お前達以外に生存者はいるのか?」
「はい、隊員の家族らは早めに地下施設、弾薬庫に避難させました」
「全員とはいきませんでしたが……」
「家族や軍属、民間人が四百二十人ほど」
「戦える海兵隊と海軍が九十人」
「それと負傷療養中の隊員が十二人です」
「司令部、警護、偵察、掃討、物資回収、それに炊事や医療まで……少人数ですが、ローテーション組んで何とか回しています」
「外部との連絡はついてるのか?」
「海兵隊に限ってですが、六十名ほどと連絡がとれてます」
「そいつらの補給はどうなってる?弾も怪しくなってくる頃だろ」
「桟橋辺りが解放できれば、RHIBかCRRCで送れるんですが……」
「そうか、あれならサンゴ礁で浅瀬だらけのこの湾内でも大丈夫だな」
「へぇ~、ここってそんなに浅瀬だらけなんですかぁ……俺のは無理ですね」
「まぁそうだな、正直俺のでも狭い水路しか通りたくないな」
「よし。俺の船で桟橋までチームを運ぶ。その後周辺を掃除して補給路を開ける」
「負傷者の引き受けは……噛まれて無いか確認だけは確実にな」
「負傷者を受け入れました。ゾンビになりました。全滅しました。じゃあ笑えん」
「桟橋奪還作戦には俺たちも参加だ」
「俺も……ですよね?」
「嫌なのか?」
「いや、仲間外れにされたら嫌だなと」
「今度こそ聖剣の力を開放するぞ。お~!」
ぐぅっと力の入ったその手には聖剣ボートフックが握られていた。
(桟橋なら無敵だと信じ込んでいる)
その後、偵察チームは避難先へ向かった。
ジョン達はビーチに戻ってテンダーに乗り、シューティングレンジ付近から上陸した。
連絡されていたのだろう、上陸地点には既に案内役ふたりがハンビーで待っていた。
「話は聞いてます、こちらへどうぞ」
「この周辺はグリーンゾーンになってます」
「今、司令官はだれが務めている?」
「ニコラス・マクナルド少佐であります」
「ほう、少佐になったか……」
「ふ~ん、知り合いなんですか?」
「良ぉ~く知ってるさ」
しばらく広大な敷地を走り、到着した。
「ここが臨時司令部となります」
シューティングレンジ入口に建つ管理棟の一室に案内された。
ふたりとも席について待っていると、ドアの外から声が掛かった。
「司令官入られます!」
入ってきた男を見た瞬間だった。
ジョンは椅子を弾くように立ち上がり、今まで見た誰よりも鋭く、誰よりも美しい敬礼を叩き込んだ。
「Semper Fi, sir!」
男も一瞬目を見開き、すぐに同じ角度で答礼する。
「Semper Fi, John.」
すぐにこちらを向いて、
「ここで指揮を執っているニコラス・マクナルドだ。ニックと呼んでくれて構わんぞ」
ソルの方だけ見てほほ笑んだ。
ジョンは直立不動を崩さない。
『いまセンパーイって言った?ジョンの先輩なのか』
(Semper Fiで、先輩ではない)
「久しぶりじゃないか、ジョン」
「お前は生きてると信じていたよ」
「お久しぶりであります、"少佐殿"!」
「先月、昇進したばかりだ、まだ慣れないがな」
「特にお前に少佐と呼ばれるとムズムズする」
「まあ座ってくれ」
固まってたジョンがようやく溶けた
「案外イケてますよ、"少...佐...殿..."」
「で、少佐に昇進したら司令官様も付いてきたってわけだ」
「俺より上は全員な……」
「少佐なら心配いりませんよ」
「俺が鍛えましたからね、保証します」
「そうだな、何よりの言葉だ」
「それで、聞いたんだが、手伝ってくれるんだって?」
「ここが落ち着くまでの、ほんの少しお手伝い程度なら……」
「今は家庭を最優先で考えてる」
「そうだな、それだけでも感謝する」
『司令官なのに戦闘服なんだなぁ……。
指揮官垂範ってヤツかな。
そういえばメル・ギブソンがそんな映画やってたな。
ヘリから最初に降りて、乗るのは最後だ……みたいな。
まあ、ヘリで突撃して帰って来る話だったし、
絶対海兵隊の映画だな。うん。』
(それは陸軍の新しいヘリ部隊の話だ)
ソルをチラっと横目で見たジョンは、今、紹介するべきか否かを迷った。
「ところでジョン、そっちの難しい顔してる相棒は?」
「うっ……、こいつは……」
「コナの街で知り合った一風変わった"高尚な趣味"を持った日本人で、ヨットでたまたまハワイに来てて、ワイキキから無傷で脱出してきた猛者で、料理人もしているマジシャンだ!……こう見えて」
(ジョンは、自分で言っていても何がおかしいのか分からなくなっていた)
「……ジョン」
「はい?」
「紹介になってないぞ」
「なってなかったですか……」
「俺のこと?あ、佐藤俊夫です。ソルト&シュ……ソルって呼ばれてます。ジョン一家には。はい!」
「それと、桟橋では無敵の聖剣使いしてますです!はい」
ソルがボートフックを持ち上げようとした瞬間、ジョンはそれを制止した。
「……まあ、わかった。よろしくなソル……」
(変な日本人なのは伝わったようだ)
「それで、まずは燃料桟橋付近を片付けたいんだろう?」
「俺の船で掃討チームを桟橋まで運ぶ。桟橋を確保できればRHIBやCRRCが使える」
「そうすれば基地の外にいる連中へ補給線が通る」
「助かるよ、ジョン」
「これで外の連中も生き延びられる」
その後、ジョンを船に送ってから自分の船に戻った。
海兵隊との遭遇、協力することになった経緯などを話していることだろう。
もちろん家族が最優先である事は当然だが。
俺はヨットの窓すべてを開けて空気を入れ替えた。
コーラを手に一息つくと、いよいよお楽しみの時間だ!
『コルト・シングルアクション・アーミー。西部劇の主役だ。
しかも二丁拳銃ができる!
あ、ホルスターはシングルだった……。
う~ん、ならば……このニッケルシルバーのをホルスターに収めて観賞用兼撮影用に。
こっちの普通の黒い方は……エクスペンダブルズのスタローンみたいにするか……。
こんなに銃身は長くなかったから短くカットだな。
フロントサイトは無くなるからそこに三本のスリットを入れて……
で、あれは腰の後ろに早打ち用のホルスター……は無いから誰か作ってくれないかなぁ~』
(平和な時間だった)
夕日が沈むころ、ジョンから食事に呼ばれ、いそいそと向かった。
キャサリンさんの手料理を楽しんだ後、ゾーイにせがまれて、いろんな折り紙をせっせと作った。
女の子にはどうかなと思ったが、出来上がった手裏剣を手に大興奮だった。
「ソルはホントはニンジャなんでしょ?」
「しぃ~っ、実は正体を隠していたが、家は代々続くニンジャなのだ!」
「誰にも言っちゃダメだよ。あ、パパとママにも内緒だよ。はは」
「ママ~、内緒だけどソルはニンジャなんだって~」
ジョンではなくキャサリンさんに大急ぎで報告しに行った。
『どこの国も同じだなぁ……』
ゾーイにニンジャ設定が大ウケしたことが、ソルはすっかり気に入ったようで、
無敵の勇者改め、ニンジャにジョブチェンジを決心した。
(本人が幸せなら……)
「それで、明日はどうするんです?」
「そうだな、司令部に行って、チームの編成と手順の擦り合わせだな」
「了解です隊長!」
自分のヨットへ戻ったソルは、ボートフックに滑り止めのサージカルテープを丁寧に巻き付けた。
握り心地を確かめるように、二、三度軽く振ってみる。
「よし……これで準備万端だ」
桟橋攻略を何度も頭の中でシミュレーションしながら、静かに眠りについた。




