佐藤家はどんな状況でも佐藤家だった
誰もが今日が金曜だとは忘れていた。
「お、今日は金曜だったか!」
テーブルにはカレーが並べられた。
「護衛艦いずものカレーですよ!おかわりも有ります」
「カレー?」
「大日本帝国海軍では毎週金曜日にカレーを出すのが決まりだったので、伝統を引き継いだ海自でも金曜にカレーを出し・・・・・・」
「美味し~い!」
ゾーイはすでに食べ始めていた。
「うんうん、これは美味いなあ」
「私は2回目だけど、何度食べても美味しいわね」
ゾーイはおかわりも食べ切って満足したようだ。
「ふぅ、ご馳走様でした」
全員食べ終えたのを見て食後のコーヒーが配られた。
「それで?」
「はい、私が日本を訪れたのは、ソルが帰った日本がゾンビ禍を克服できているか、どうかを確認するためでした。
ソルは日本に残してきた家族が心配で帰ったと聞いていましたから」
「まあそうでしょうね」
「ソルが出発して暫くたって、ハワイではゾンビの研究も始まったのです。
生態や感染経路、原因とされるウイルスなど、十五年間分の研究ですね。
ソルが残してくれた膨大な医学書や病原菌に類するデータから基礎知識の底上げが出来て、そのウイルスについても理論上の解明に近いところまで来ています」
「そこまで来たのか!凄いじゃないか」
「私じゃないわ、医療に携わるすべての者たちが力を合わせた研究でね」
「その研究データのコピーを持ってきました」
「......」
その場の全員が言葉を失った。
「それでも、日本がまだ克服できていなかったら多少の力にはなれるかもってジェニファー大佐が」
「そして、すでに克服済みだったら、その知識をハワイへ持ち帰り、役に立てば良いかなと......」
「ソルは知ってると思うけど、電子機器が作れなくて、当時あった機器を大事に使う事しか出来なくて......。あと少しなんだけど」
「それでも、十五年分の積み重ねたデータではあるので、役立てば嬉しいです」
「でもまさか、ここが2026年で、今まさにゾンビ騒動が始まった所だったとは、二度びっくりしました」
「そのデータは今持ってるの?」
「まさかぁ!全部紙にすると大変な量になるから、かき集めた20個のHDDに入れてヨットにシリカゲルと共に密閉して積み込んであります!文明の利器は使わないとね!」
(この時代のHDDなら4TBでも普通に売ってるとは知らないゾーイだった)
「USSボイジャーの艦長、キャスリン中佐の部下がゾーイのヨットを回航してくれるって言ってましたよね?」
「そうそう、そう言ってたわ!」
「そうすると横須賀まで来るのは来週の水曜くらい?」
「順調ならですが、到着次第こちらへお持ちしましょうか?」
「ちょっと!私がヨットに行って渡します!レディの秘密の家探しは遠慮して下さいね!」
「あははは、それもそうですね」
「それは観戦武官のマット中佐にお任せするわね」
「それで今夜は?」
「久しぶりに夢の島へご案内しましょうか?家族も喜びますから」
「え、ソルの家族?行きた~い!」
「総理、どうでしょうか?」
「そうね、ここんとこ忙しすぎたから休暇を与えます!ふふふ」
ソルはスマホを取り出して、家族へ連絡を入れた。
「で、今夜なんだけど、お客さんをお連れすることになったんだけど」
「あ、父さん?良いよ、今はあの超豪華クルーザーで生活してるから!うん」
「はぇ?レクサスのクルーザーか?護衛のヤマモト食品の方達はどうした?」
「なんか落ち着かないって、古いクルーザー探して来てそっちで寝泊まりしてるっぽい」
「マジか......、まさかとは思うが、我が家の女どもが居座ってそれっきりって事じゃないよな?」
「ん~......まぁそうとも言うかも知れない......」
「まったく図々しいにもほどがある!」
「これから向かうから寝られようにと、食事の準備も頼むって言っておいてくれ」
「わかった~」
「あ、お父さん?帰って来るの?それならついでにお肉貰って来てくれる~?」
「分かった分かった、じゃあ任せた」
高橋総理も含めた全員の肩が震えていた。
「......逞しいご家族ね」
午後早く、ブラックホークで夢の島マリーナまで送ってもらい、家族にゾーイ(あっちの世界の)紹介した。
「ハーイ、ハジメマ~シテ!私はゾーイ、ハワイからヨットに乗ってやってきました」
「あら、アラモアナで買い物付き合って頂いたゾーイさんではなくて......?」
「じゃあ。動画で見た5歳だったゾーイちゃん?」
「あれから15年経ちました!でも日本に着いた途端に20歳から35歳になってびっくりしてマス」
「あらあら、それは驚くわよねぇ」
「ヤマモト食品の......」
「あそこのクルーザーね」
「ちょっと挨拶してくる」
ゾーイはレクサスの豪華クルーザーへ拉致されていった。
「どうも。護衛お疲れ様です。大変な家族で申し訳ない」
「あはは、我々には豪華すぎて落ち着きませんでしたから」
「図々しくて申し訳ないです」
「まあまあ、佐藤さん気にしないで下さい」
「こっちのクルーザーも結構イケてますから。アメリカ製でこっちの方が広いんですよ」
「レクサス製は新しすぎて気を使いがちなんですが、こちらは気軽に扱えて気楽なもんです」
「そう言って頂くとなんとも......、これは手土産代わりの牛肉です、どうぞ」
「あいつらに見つからない様に食べてくださいね!」
「あ、ありがとうございます」
「で、どんな感じでしたか?」
「そうですね、佐藤さんがいずもへ移ってしばらくの間は我々だけで島内のゾンビを片付けてましたが、この夢の島へ繋がる橋も封鎖が完了し、現在は島内の安全が確保できていますよ」
「隔離地域以外の安全が確認できている地区同士の橋は封鎖が解除され始めています」
「この近くの人工島続きなら千葉方面まで行けますから、物流も数は少ないですが、戻り始めています」
「もっとも自由に行き来はまだ無理ですが」
「まあそれは仕方ないですね」
「それと、移動手段としてヤマモト食品印のプロボックスも持ってきていただきまして、食料などの調達に利用しています」
「たまにここからボートで出て釣りもしてますよ、シーバスや、この前は太刀魚が釣れました」
「それは良いですね!」
「何から何まで面倒をお掛けしますが、どうぞよろしくお願いします」
「もちろん最善を尽くしてご家族の安全をお守りします!」
メンバーが代わってない所を見ると、騒動が始まり、交代要員が他の任務に就いたのかもしれないなあと、佐藤俊夫は心の中で頭を下げた。
家族の待つクルーザーに戻るとゾーイが囲まれてリンゴでウサギを造ったり、折り紙の話で我が家族が盛り上がっていた。
「え、ソルってニンジャの末裔じゃなかったの!?」
話は盛大に横道へ逸れて行った。
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