フラグは立った!
大いに盛り上がった(ソルを除く)夜が明けた翌日、佐藤俊夫は自分のヨットで目を覚ますと、目の前にゾーイの顔があった。
「このヨット、あの頃と全然変わってないわね」
「そうだな、俺がハワイを出てから、まだ三か月くらいしか経ってないからな」
「よく判らないけど、そんなんだぁ」
「初めてこの船に乗った時は驚いたもん!とても明るくて、冷蔵庫にはジュースが冷えてて、いろんなところにお菓子が入ってた……」
「よく無くなってたなあ、あはは」
「そりゃあ気付くわよね、えへへ」
「いろいろ勝手に食べちゃってごめんなさい」
「まあ可愛い孫のする事だから、気にならなかったよ」
「あの当時、日本って凄く進んだ国なんだなあって思ってた。だけど三十年先から来てたのね」
「そうだな、未来人だったわけだ」
「イメージの未来人とは違って、普通だったから気付かなかったわ」
「そりゃどうも」
「「あははは」」
「こっちに居たの?もうすぐ朝ご飯だって!」
雪乃が呼びに来た。
「本当のお父さんの事をバラしておいたからね!ニンジャとか……ウケルッ」
「あ、あれは……」
「いいのよ、今なら分かるわ、五歳の女の子相手なんだから、そういうものよね!」
「昨日まで信じてたのに?」
「それはそうよ!日本はニンジャの国だって、今の大人も思ってるわ」
三人がレクサスのクルーザーに乗り込むと、テーブルには朝食が並んでいた。
「せっかくだから護衛の方たちも呼びに行かせたわ」
拓哉が三人を連れて桟橋を戻ってきた。
「いやあ、お誘いありがとうございます」
「どうぞどうぞ」
全員で朝食が始まった。
「で、昨夜はどんな話で盛り上がったんだ?」
「私からは、子供の時の思い出ね、ヨットに隠してあった日本のお菓子とかを探して内緒で食べたりとか、勝手に触ってテレビを壊して泣いて謝ったら許してくれたとか……」
「私たちはお父さんの動画全部見せてあげたわ!」
「全部か……」
「そうよ、ワイキキでゾンビに囲まれそうになって運河に飛び込んで逃げ切った第一弾から、新橋のビルからこのマリーナまでゾンビの彷徨う中を突破した第何弾だっけ?最新のヤツまで全部!」
「結構お父さん楽しんでたわよね!ジュラシックパークのロケ地巡りとか、トローリングで小さなサバしか釣れなかったのとかね」
「まあそこそこな」
「いやぁ、今の日本と違って、すでにゾンビで溢れていたハワイでのサバイバルですよ!俺達でも単独では無理ですって!」
「最初に拾った銃で乱射して弾切れで仲間入りって事しか思い浮かばん!」
「あの、ワイキキからの動画で、跳弾がウインドウガラスを割ったじゃないですか!あの時は『あ、終わった!』としか思わなかったですよ」
「最初はAIで生成した動画って事だったんで、凄い!としか思わなかったんですよね、それが実際の現場の映像を編集した映像だと聞かされて、改めて観るとゾッとしました」
「買い物ツアーのショート動画も凄かったですね、SEALsのメンバーだとか?」
「そうですね、彼らには大変お世話になったと言うか、巻き込んだと言うか、私がやりたいことに無理やり付き合わせたりしましたね」
「それで、あの戦闘服を頂いたとか?」
「彼らに仲間と認められたのなら嬉しいですし、誇らしいです!それだけのチームでしたね」
「本職の皆さんから見ても、あのチームは凄いの?」
「あれは、NAVY SEALsのブラボーチームな」
「まず、感染初期の大混乱を生き残ったこと自体が精鋭中の精鋭って事ではないでしょうか?」
「しかも、孤立していたパールハーバーから、山越えで海兵隊基地まで少数で偵察に出されている事からも優秀さがうかがえますね」
「へえ、そんなんですね」
拓哉は感心したようにつぶやいた。
「あのチームのみんなにも可愛がってもらいましたよ、お菓子とかよく内緒で持ってきてくれたりして」
「それは、ジョンの一人娘って事が大きかったのかもね」
「あんな凄腕のSEALsでもジョンには頭が上がらなかったからね」
「今のソルよりずっとおじいちゃんになっちゃってるけどね、あはは」
「ゾーイが2026年の日本に慣れる為に休暇って事になってるから、しばらくはのんびりしようかな」
「父さんそれ、フラグじゃない?」
「あ、俺としたことが……、まあ大丈夫じゃないかな、あはは」
「ゾーイの話によると、重要なデータはヨットに積んだままになってるから、回航して横須賀に届くまでは大丈夫だと思いたい!」
「ヨットはいつこっちに来るの?」
「小笠原から回航してくるなら、五~六日くらいかな」
「それなら視察にいけるか......、千葉方面は比較的平穏ですかね?」
「避難民の受け入れでごたごたしてますが、今のところインフラや物流も通常を維持できているようです」
「東京からの指示がないと動けない企業は厳しそうですけど」
「この世界はまだ間に合いそうね……、私たちの世界は世界中にゾンビが広がってしまった後だったから……」
「間に合わせるために高橋総理と在日米軍が頑張ってくれています!」
「ヤマモト食品の全社員もですよね?」
「我々は高橋さなえ総理の道具ですので当然です」
「道具?」
「我々は一般市民が持つことを禁じられている武力を持っていますので、個人的な思想で動くわけにはいきません、なので道具なのです」
「それ、言っちゃダメな話では?」
「あはは、聞かなかったことにして頂けるとありがたいです。昇給にも関わってきますので。あはは」
「昇給が気になる世界にしましょう!」
「そうですね!ここで食い止めないと給料の話なんて吹き飛びますから!あはは」
「それでは、アルファードでも取り寄せて千葉か茨城方面で2026年の日本観光……いえ、状況視察といきますか?」
「そんな高級車があったんですか?私が乗せられたのは社名の入ったプロボックスだったけど……」
「それはそれ、これはこれです(笑)」
「我々からは一人ここに残してマリーナの警戒に備えます」
「それでは車両その他の手配がありますので、このへんで失礼いたします」
「「「ごちそうさまでした」」」
護衛の三人は自分たちのクルーザーへと戻っていった。
「ヤマモト食品の課長や主任、平社員の三人も結構打ち解けてきたよね」
「どんな食品を扱っているのかは謎のままなんですけど!」
「俺も知らん!あはは」
その頃小笠原では、昨夜のうちに重要なデータがヨットに積まれたままだとの報告を受けたUSSボイジャーでは、急遽、回航を取りやめることになった。
ヨット自体をボイジャーのヘリパッドに積載して横須賀へ運ぶ方針が決まり、マストを立てたまま船台ごとラッシング。
マストも揺れないよう、周囲からワイヤーで固定した。
こうして、ボイジャーは夜明けと同時に横須賀に向けて出港した。
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