佐藤俊夫が去ったその後のハワイが語られたが......
静かに、そして深く息を吸った後、ゾーイは語りだした。
「ソルがハワイを去ったとき、私たちが確保できていたのは、オアフ島のカネオヘの約半分とパールハーバーを中心とした米軍施設とホノルル空港、中央部はスコフィールド陸軍基地辺りまでです。
ハワイ島はパホアから南側、そして西側に向かってボルケーノの街までの地域では地熱発電所が生きていて、数千人が暮らせていたようです。そしてワイメアの周辺地域もポハクロア演習場から拠点を移し、解放されていったようです。
コナ地域はまだ開放前でしたね。
カウアイ島ではリフエの港は確保できていましたが監視のみの状況だったそうです。
そんな状況で軍は戦いを続けていましたが、兵士も装備も十分ではありません。
すべての島を同時に取り戻すなんて、とても無理でした。
だから、どこを優先するのか、限られた人員と物資をどう使うのか。
それが大きな問題だったと聞いています。
そして、もうひとつ。私たちには食べていく必要がありました。
ゾンビを倒して土地を取り戻しても、そこに住む人たちが食べられなければ意味がありません。
燃料が残っているうちに重機や農業機械を使い、農地を整備する。種や農具を確保して、食料を生産できる仕組みを作る。
軍が戦っている間にも、確保された地域では、そうした仕事が進められていました。
ソルが残してくれた資料も、専門家たちに配られました。
医療や農業、機械、建設、電力……いろいろな分野の資料があったそうです。
もちろん、資料があるだけで何もかもうまくいくわけではありません。
実際に使えるかどうかを調べ、ハワイの状況に合わせて工夫する必要がありました。
それでも、専門家が不足している私たちにとっては、大きな助けになりました。
研究に使われただけではありません。
若い世代に知識を教えるための教材にもなったんです。
ソルが去ったあとも、彼が持ち込んだ知識は、私たちの暮らしを支えていました。
ハワイ島では、増援部隊がボルケーノ方面から進み、半年ほどかけてヒロの郊外まで進出すると、揚陸艦を投入して、港側と内陸側の両方から街を攻略したそうです。
ヒロの解放まで、ソルが去ってからおよそ一年。
ヒロ港を取り戻せたことは、とても重要でした。
大型の機械や研究設備、建設資材などを船で運び込めるようになったからです。
陸路で内陸へ運ぶこともできます。
復興を進めるうえで、大きな前進だったと思います。
その頃には、ワイメアへ移り住む人たちも増え、農業生産も少しずつ軌道に乗り始めていました。
でも、ハワイ全体が安全になったわけではありません。
カウアイ島では、リフエ周辺を確保していたものの、島全体を取り戻すには至っていませんでした。
軍は島の状況を監視しながら、次の作戦に備えていたんです。
まずハワイ島の復興を進め、それからカウアイ島へ。
そして、カウアイ島を解放したあとは、人口の多いオアフ島に戦力を集中する。
マウイ島やモロカイ島もありましたが、すべてを同時に解決できるほど、私たちには余裕がありませんでした。
オアフ島の、おもに高層ホテル群の密集したホノルル市街と、山間部や放棄された小さな集落などを含めた完全開放には、さらに五年ほどかかったと聞いています。
五年です。
それだけ長い時間をかけて、ようやく島を取り戻したんです。
その間も、確保された土地では人々が暮らしを立て直し、食料を生産し、次の世代を育てていました。
ゾンビとの戦いは、ただ敵を倒せば終わるものではありません。
取り戻した土地で、もう一度生活できるようにしなければならなかったんです。
オアフ島が解放されたあとは、研究開発も本格的に進められるようになりました。
電力を確保できる地域に工場を建て、設備を整え、化石燃料に頼らない生活必需品を生産し、造船所では帆船を造り、新規に生産できない電子部品はリサイクルして使い回したり。
ソルが去ってから、私たちは燃料の枯渇しかけた世界で十五年をかけて、ここまで来たんです。
私はそのすべてを見ていたわけではありません。
軍の作戦についても、あとから聞いたことがたくさんあります。
でも、ハワイの人たちが少しずつ生活を取り戻していく姿は、私も見てきました。
小さかった頃、ソルは私たち家族と一緒にいてくれました。
日本人の彼が、私たちにとってどんな存在だったのか。
大きくなってから、彼がハワイの復興にどれほど貢献したのかも聞かされました。
あの人が去ったあとも、私たちは彼が残してくれたものを使いながら、自分たちの力で前へ進んできたんです。
そして私も十六歳から軍の仕事をするようになり、十八歳で正式に海軍へ入隊してジェニファー大佐の元で働いていました。
私が知っているハワイの十五年間は、だいたいこんなところです。
そして、今回私が除隊してまで小さなヨットに乗り、ここまで来たのは......」
そのとき、総理に付いてきていた秘書官のスマホが震えた。
チラっと画面を見た秘書官は、そのまま高橋総理によく見えるようにスマホを差し出した。
そこには見たくない報告が表示されていた。
『大阪の防衛線が突破された』
「ごめんなさいね、少し失礼します」
慌てて秘書官と共に作戦室を飛び出していった。
「で、状況は?」
『線路の高架下を使った阻止線が、地元の反社グループとの揉み合いになり破壊されてしまいました。
その際、騒動に引き寄せられたゾンビも紛れ込んだ結果、反社グループも感染、発症して阻止線は崩壊し、そこから溢れ出すように範囲外へ広がっています』
総理は作戦室へ取って返し、状況の説明を始めた。
「みなさん、大変申し訳ございませんが、大阪で緊急事態が発生したようですので、私はここで戻らなくてはいけなくなりました」
「佐藤さんも一緒に来てね!」
「総理、簡単に状況を教えて頂けませんか?我々米軍もなにか手伝えることがあると思います!」
「本当ですか、それはありがたいです!」
「実は、・・・・・・というわけなんです」
「そうすると河川で区切られた大阪駅周辺に封じ込めていたが、その阻止線が崩壊して、避難が済んでいないUSJもゾンビに呑み込まれかねない状況だと?」
「それではその最終防衛線の構築に海兵隊も出しましょう!」
「ありがとうございます。それでは私と佐藤さんはいずもへ戻って指揮を執ります」
「あの、私も連れてってください!お願いします」
「それでは私が米軍側の連絡役として同行します」
マット中佐が一言添えてくれた。
一行はブラックホークに乗り込んで護衛艦いずもへ飛んだ。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう




