ゾーイの頭からは湯気が出そうだった
コーラとファンタが並べられたブリーフィングルームで状況確認という懇談会が始まった。
「まずは冷たい飲み物で一息ついて下さい」
「冷たい飲み物なんて嬉しいわ!ありがとう」
ゾーイはファンタメロンのペットボトルをマジマジと見て嬉しそうに選び、他の面々もそれぞれ適当に飲み物を手に取った。
「さっきの続きなんだけど、日付変更線を越えたあたりで何かおかしなことは無かった?」
「いえ、別に無かったわね」
「自分自身に変化とか無かった?」
「じれったいわね!何が聞きたいわけ?」
「いやあ、ヨットに鏡とか無かったのかなぁって思って」
「鏡?積んで無いわ。っていうか持ってくるの忘れたのよね、あはは」
「え、なに?日焼けし過ぎて真っ赤って事?」
ソルは分遣隊の女性隊員から借りた手鏡をゾーイに渡した。
不審そうにそれを覗き込んだゾーイの表情が一瞬で固まった。
「なんか大人になってる?まさにレディーって感じ......え?」
「今からかなり突飛な話をするけど、最後まで聞いて欲しい」
周囲の関係者も黙って話を聞いていた。
「え~っと。私、佐藤俊夫は2026年の七月、日本からアメリカ西海岸を目指してヨットで太平洋横断の旅に出ました。
そして日付変更線を越えた翌朝、六十歳から三十歳に若返り、ラジオからは1996年のニュースが流れてきた」
「これがどういう事かわかる?」
「はぁ?そんなことあるわけないじゃな......」
ゾーイは周りに座ってる面々をゆっくり見回して、みな真剣な表情で頷いてるのを見て固くなった。
「そんなあるわけない事が起こったんだよ、そして俺は確認の為にワイキキに向かい、昼食を食べてる時にゾンビ騒動に巻き込まれ、何とか逃げ出してハワイ島のコナのマリーナのショップのカウンターの奥で、トイレを探して飛び込んで来たゾーイと出会った」
「トイレのくだりは省いて欲しかったけど、その通りね」
「だからゾーイが知ってる俺は三十歳だったんだ。今は元の六十歳に戻っちゃったけどね」
「ん~......、もう一本貰っても良い?」
「どうぞ、気の済むまで飲んで!それと、良かったらこれも」
ソルは”きのこの山”と”たけのこの里”を差し出した。
「大好きだったろ」
「おじいちゃんになってるけど本物のソルだぁ!うぅっ......」
「無線でちょっと話しただけなのに、ここでソルに似たおじいちゃんが現れるなんておかしいと思ってたんだぁ......」
「ハワイでも余程でないと飛ばさないヘリが、太平洋の真ん中で話しかけてくるのもおかしいし、駆逐艦もちゃんとしてるならオアフまで来ててもおかしくないのにって思ってた......」
ここでキャスリン中佐がさっき作ってもらった折り紙の鶴をさりげなく取り出し、テーブルに置いた。
「私も佐藤さんに作って貰ったの、本当に魔法使いだったわね」
「私も大事に持ってます!」
ゾーイは手裏剣を取り出した。
「オー、シュリケン、ニンジャ!」
キャスリン中佐よりも付いて来たアメリカ側の男たちが嬉しそうに叫んだ。
「ミスターサトウは忍者の子孫でしたかあ?」
「貴方たち!」
「し、失礼しました」
「「「「あはは」」」」
一気にその場が和んだ。
「それで、どうして私がオトナの女になっちゃったの?」
「これは想像なんだけど、日付変更線を越えるとゾーイの世界と俺の世界が何故か繋がっちゃうんだよね」
「しかも、年齢は行き着いた先の時間に同期してる。その現象は俺の周りでしか起きてない」
「そうなのよね、私たちも任務で180度線は何度も行き来してるんだけど、そんな事は一度も起きて無いし、聞いたことも無かったわ」
「それで、こちらの世界には、三十五歳のゾーイが居る」
「もちろん、ジョンもキャサリンさんもごく普通にハワイで生活してる」
「そ、それって......、変な話だけど、時間の壁を越えたわけじゃ無いって事?」
「まぁ、そうだね。判りやすく言うと枝分かれした別々の世界が何故か知らないけど繋がったとしか思えないんだよね」
「ちょっと待って......、こんがらがって、頭から湯気が出そうになってるんですけど!」
「こっちの世界のゾーイも同じ事言ってた」
「え、会ったことあるの?」
「ああ、ジョンやキャサリンさんにも会った事あるよ」
「ますます湯気が出そう」
「って事は、今ここは2026年の世界で、私は三十五歳で、ゾンビ騒動も無い平和な世界って事で合ってる?」
「まぁ概ね合ってる。けど、つい何日か前にこっちの世界でもゾンビ騒動が始まったところだ」
「げっ!マジデスカ......」
「だから、私たちアメリカ海軍も海上で警備行動をしてるってわけね」
「わが軍の偵察衛星が、180度線を越えたあたりに突然ヨットが出現したのを発見して......あなたのヨットね、それが航路的にウェークで転進して日本に向かってると思われたから監視・追跡してたのよ」
「そして、無線の届く距離まで近づいた事で呼び掛けたら、2011年のパールハーバーから出航してきたって言うから、即座に佐藤さんに連絡が入って、”今ここ”って感じなのよ」
「あ、佐藤さんは今、日本政府のアドバイザー、内閣参与としてゾンビ危機に対応して頂いてるところなの」
「ちょ、ちょっと待って!もう頭に入らないって!」
「そうね、時間が必要よね。続きは明日にしましょうか」
「そうしてください、お願いします!」
今日の懇談会はいったん終了として、ソルはゾーイを夕食に誘った。
「続きはまた明日って事で、そろそろ晩御飯にしようか、何が食べたい?」
「前にソルが作ってくれたチャハーンが食べたい!お母さんもよく作ってくれるんだけど、あの時食べたチャハーンの味が再現できなくて悔しいっていつも言ってるわ!帝国ホテルのスーシェフには敵わないって」
「あはは、それは光栄だけど、もう引退してるから今日はこの島のレストランで食べよう」
(口から出まかせのスーシェフ設定はそっとしておく事にした)
「基地の隊員さん達も良く食べに来るお店らしいから美味しいと思うよ」
「ずいぶんこじんまりとしたレストランね」
「小さな島だからね」
ゾーイは炒飯と餃子、それとファンタメロン!ソルはあさり炒めとビールを注文し、お互いの無事の再会を喜んだ。
「なにこれ!ソルが作ってくれたチャハーンよりも美味しいんですけどっ!」
「あはは」
夜は更けて行った。
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