先月まで五歳だったゾーイが二十歳になって現れた
ゾーイの乗ったヨットは順調に小笠原諸島の父島を目指していた。
そろそろ水と保存食が心もとなくなっているのだ。
「程度の良い豪華クルーザーから移設したGPSを使った計算だと、そろそろ南鳥島が右手に見えてくると思うんだけど……」
「あれかな……、あと一週間くらいで着けたら良いんだけど」
海図で確認して、ウインドベーンは微調整で済んだ。
残り四日の距離まで近づいた頃、国際VHF無線に呼びかけが入った。
『N 25°05′ / E 150°05′ 付近を航行中のセイルボート、応答を願います。こちらアメリカ海軍駆逐艦USSボイジャー所属、MHー60Rです』
「なになに?こんなところでヘリ?駆逐艦?ハワイの海軍はまだ完全に立ち直ってるわけじゃないのに……」
『は、はい、感度は良好、明瞭に聞こえています。でも、どうしてこの距離でVHFが届くの?近くに船は見えないのに……』
『あはは、こちらは航空機で上空から話してます。あなたの所属を教えていただけますか?』
『所属は……アメリカ海軍を除隊して自分のヨットで日本を目指して航行中です』
『了解しました。現在、航行に問題はありませんか?』
『順調です』
『失礼ですが、出港地を教えていただけますか?』
『ハワイです、パールハーバーから出港しました』
『それはいつの事ですか?出港した日付を教えていただけますか?』
『はい、2011年11月10日です』
『……もう一度お願いします』
『はい、2011年11月10日、ハワイのパールハーバーを出港しました』
『少々お待ち頂けますか?本船と繋げます』
「何がどうなってるの?まさか海軍を装った海賊とかじゃないよね……」
『代わりました。私はUSSボイジャー艦長のキャスリン・ホーニマン中佐です』
『はい!私は、ゾーイ・ファウンダース、元アメリカ海軍太平洋艦隊総司令部所属で、少尉で除隊しました』
『直属の上官の名前は?』
『はい、ジェニファー・コバヤシ大佐でした』
『もう一度聞かせて?』
『ジェニファー・コバヤシ大佐ですけど……子供のころから可愛がってもらってました。それで働くなら海軍にということで入隊しました。主に総司令部でジェニファー大佐直属として勤務していました』
『そ、そう……それであなた年齢は?』
『20歳です、それで、事情がありまして除隊させていただきました』
『ジェニファー大佐はよく存じ上げています。私も仲良くさせて頂きましたから』
『厳しいですけど、とっても優しくて大好きです!今回も身元保証として書類を書いて頂きました』
『そう、お会いした時に拝見させていただきたいわね!懐かしいわ』
『ところで、このまま東京へ?』
『いえ、小笠原の父島で補給ができたらと思って向かっています。無理ですかね?出来ますよね?』
『大丈夫!出来るわよ』
『その後、横須賀まで行って、日本の状況を見てから、ある人物に会えたら嬉しく思っています』
『日本にお知り合いでも?』
『まあ、そうですね、ハワイで大変お世話になった日本人で、ソルって呼んでました』
『肩書がたくさんあって、魔法使いだったりシェフだったり勇者だったり……とも忍者の末裔とも言ってたわ!まぁ今は本気にしてませんよ、当時大変な状況だったので、子供に優しいおじいちゃんみたいな感じで接してくれました。勝手にお菓子を食べちゃっても笑って許してくれたりしてね』
『我々も父島へ向かいますので、合流後食事でもご一緒して、詳しくその魔法のお話が聴きたいわね』
『はい、喜んで!』
あと四日もあれば父島へ到着できそうと話して交信を終えた。
「無線で話したアメリカ軍の駆逐艦、名前がボイジャーで艦長が女性でキャスリンだなんて出来過ぎよね、軍の上層部にもトレッキーがいたのかな。
残ってたビデオもシーズン2で終わったままだから残念だわ」
そんな事を呟きながら流していた仕掛けにヒットした獲物を頑丈なリールを巻いて引き寄せていく。
獲物は二十インチ程度のマヒマヒ(シーラ)だった。
「あはは、赤ちゃんサイズね、でも一人ならこれくらいがちょうど良いサイズよ!って事にしておいて、晩ごはんの調達は完了っと」
「シングルハンドで長期航海は独り言が多くなって笑っちゃうわね」
その頃USSボイジャーでは。
「困った事になってきたわね、まさか2011年からヨットに乗って来たなんて」
「1996年からヨットで来た話は聞いてたけど、次は2011年からですものね」
「艦長、横須賀への連絡は?」
「そのまま報告するしかないわね、そう、あの例の佐藤さん?来てもらうしかないようね」
「司令部からの報告書によると佐藤さんと知り合いっぽいのよね。この世界のゾーイさんも、家族と共に横田で証言したみたいだし……」
「あっちの世界に私もいるのかな?いるなら遠くから見てみたいわね」
「お会いにはならないので?」
「若さが羨ましいし、悔しいから会わないわ!」
「ん~、頭がおかしくなりそう!あはは」
「報告書によると相当厳しい世界だったそうですね」
「そのようね、私の名前がどこかの慰霊碑に刻んであったら嫌よね!」
「それは私も同感です!」
その報告は即座に横須賀へ届き、お台場に接岸している護衛艦いずもに派遣されているマット中佐へ転送されていった。
護衛艦いずもでは、大阪で発生したゾンビの対応で防衛省が市ヶ谷といずもで慌ただしく動いていたが、高橋総理の了解を得て佐藤俊夫を連れ出すことに成功していた。
ヘリで移動した横須賀では佐藤さんの事情聴取がすぐに始まった。
「この度は忙しい最中にご足労頂き申し訳ございません」
「いえいえ、総理にも協力してくるよう仰せつかっていますのでなんなりと」
「ありがとうございます。それでですね、無線での内容なんですが、相手はゾーイ・ファウンダース20歳。少尉で除隊し、2011年11月10日にハワイ・パールハーバーを出港。現在小笠原まで4日の位置で平均5ノットで父島を目指して航行中とのことです」
「2011年出港で20歳ですか……、私が知ってるゾーイは1996年では5歳でしたから、たぶん知っているゾーイに間違いはなさそうですね」
「ジェニファー・コバヤシ大佐に大変可愛がられて海軍に入隊、その後少尉まで昇進し、20歳で除隊して今回あなたに会うため、日本に向かってきたようです」
「ジェニファー中佐ならよく知ってますよ、大佐になってたんですね」
「紹介状を書いてもらったと言ってました」
「そうなんですね、私も書いてもらったんですが、面倒見の良い優しくて厳しい海軍中佐でした」
事情を話し終え、いずもへ戻るとすぐに小笠原へ飛ぶことになり、なんとオスプレイではなく、USー2で向かう事となった。
US-2は、湾内に係留されているアーレイバーク級駆逐艦を見下ろしながら高度を下げ、失速しそうな速度でゆっくりと着水し、海自の父島発着場に上陸した。
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