大阪・梅田のピンチ!
その頃大阪では、道頓堀の人混みでウイルス拡散を目論んでいた工作員は、淀川を越えて梅田までは到達したが、その先の各橋が封鎖済みで中之島へ渡ることができないのだった。
浸透していた協力者に匿われ、警戒が緩むタイミングを待つことに作戦を変更し、その時を静かに待っていた。
追跡を躱す為のデコイ役を、わざわざ盗んだプレジャーボートで大阪湾から海へ脱出したように見せたりもした。
一見、それに気付いた追跡班が、そちらに喰い付いたかのように追い始めた。
梅田周辺の警戒も橋の封鎖だけは引き続き為されていたが、それ以外の警備が手薄になりだすまで2日を要した。
その機会を待って工作員は行動を開始した。
警戒が緩んだ梅田駅は人も増えだしてきている。
工作員の二人はどこから見ても昼休みのサラリーマンであり、コンビニのビニール袋を提げてうめきた公園の水盤の見下ろせる階段状のベンチに座った。
時刻は十二時を少々回り、昼休みを公園で過ごそうと人手が増えて来たタイミングでコンビニ袋からサーモスのボトルを取り出した。
蓋を回そうとした瞬間、手が止まり、そのまま二人とも崩れ落ちた。
「対象の無力化を完了し、商品を確保。繰り返す、商品を確保」
「確保を確認、引き続き捜索を継続せよ」
「引き続き協力者の捜索を継続、了解」
崩れ落ちた二人は、近くに停まったハイエースに乗せられどこかへ消えて行った。
その時、JR大阪駅方向から悲鳴が上がった。
すでに感染していた協力者が大阪駅のコンコースで発症し周囲の人を襲いだしたのだった。
「マズイぞ、同時発生だ!」
「緊急事態発生!ラフレシアが咲いた!」
「場所はJR大阪駅」
「駅構内から通りへ溢れ出して来ています」
『緊急速報!緊急速報!』
大音量でスマホから一斉に速報が流れ出した。
『JR大阪駅で原因不明のウイルス感染者が発症!すぐに建物内へ退避!建物内へ退避!』
『鉄道は全線運行停止!全線運行停止』
『直ちに退避してください!直ちに退避してください』
JR大阪駅、阪急梅田駅周辺は大混乱に陥っていた。
包囲の輪を縮めていた陸自の部隊や警察は、橋での検査処理に追われて駅方面へ救援に向かうことが出来ない状態だった。
現場での対応は、殲滅班二チーム十二名に任されたのだった。
「橋は封鎖済みだ、出来る限り数を減らすぞ!」
「弾が切れるまで撤退は無しだ!」
「全員サプレッサーを外せ!派手に音を立てて、十三大橋へ削りながら引き付けて下がるぞ!敵を近づけるな!」
「了解!」
うめきた公園外周の九条梅田線で派手な銃声が響く。
ゆっくりと引き付けながら西へ移動していく。
殲滅班の撤退戦が始まった。
後方では避難民が警察に誘導されて逃げて行く。
立て籠もれる者はドアを固く閉じて耐えるしかない。
銃声に吸い寄せられようにじわじわと道路上にゾンビが溢れて来る。
路線の反対側もこっちへ来ているのだろうか......。
解らないものは考えても仕方ないと割り切って、こちら側の対応に集中するしか無かった。
福島六の交差点で北進。
情報通り走るやつは居なかった。
今はその情報だけが生き残るすべてだった。
ゆっくり、ゆっくり......。
広いなにわ筋にひしめき合うゾンビ達を誘いながら後退していく。
パトカーが一台避難誘導の為に後方100m付近で建物内に退避するようにスピーカーで怒鳴っている。
殲滅班の十二人は戦闘服ではなく、スーツ姿だったり、買い物中の主婦やホストみたいな若者、工事関係者など、どこに居ても違和感のない姿でMP7でヘッドショットをかましていた。
その異様な集団が、ゾンビ達を倒しながら引き連れて行く状況を、オフィスビルや高層ホテルの窓から何人もが撮影し、SNSにライブ配信していた。
「部長、あっちこっちの窓から撮られてますよ」
「ああ、解ってる」
「まあ、顔の印象も変えてるから、ばれることはないと思うがな」
「ひょっとして俺たちヒーローですかね?」
「そうかもな、ヒーローは正体を隠しながら人助けするってのが定番だ」
「そうっすね!でもアイアンマンは白状しちゃいましたけどね。あはは」
軽口が叩けるようになったのは、この状況にも多少の落ち着きが出てきたのかもしれないと隊長は全員の状態を確認しながら見回した。
この状況は第一報が入った直後から、隊長のボディカメラを通して護衛艦いずもの司令室でもモニターされていた。
「あ、ボディカメラ装備してたんですね!カッコいいなあ、俺も欲しくなっちゃいました」
「第一報が発せられた時点で装着させたんですよ」
「市ヶ谷でも同じものを観てるはずです」
「そうなのね。十三大橋に辿り着く前に、避難民は橋に残って無いわよね?」
「避難状況を確認します」
「避難に時間が掛かりそうなら、もう暫く寄り道しながら時間稼ぎしてもらう事になりそうね」
「そ、それは......」
それはあまりにも酷い!と言いかけて、自分はこの状況よりも酷い事をSEALsのブラボーチームに提案した事を思いだした佐藤俊夫だったが、あの時と違って十二人も居るしまあ大丈夫かな。
「それはなかなか良い作戦ですね、あはは」
「それと、橋へ誘導するより河川敷とかに誘導できればそのまま池ポチャ作戦が行けそうではあるんですが......」
「あの動画で見た岸壁から海へ流し込む作戦か?」
「あ、観てくれてたんですね!いやぁあの時は大変でし......」
「どこか河川敷へ降りられる場所を探せ!大至急だ」
「やっぱり頼りになるわね!うふふ」
切羽詰まった状況でしか役に立たない佐藤俊夫だった。
一気に慌ただしくなった司令室で観戦武官のマット中佐のスマホがマナーモードで震えた。
「ちょっと失礼」
部屋から出たマット中佐はスマホに答えた。
「どうした?今ちょっと緊急事態対処中なんだが......」
「まさか!本当か?」
スマホを切ったマット中佐は慌てて部屋に戻って佐藤俊夫を捕まえた。
「佐藤さん、落ち着いて聞いてくれ」
「はい、なんでしょう?」
「これからすぐに私と一緒に来て欲しいのだが......」
「え、また逮捕ですか?無理です!今は内閣参与?の一員になってますです!」
「そうじゃないんだ、実は......」
さすがの佐藤俊夫(内閣参与にして自称ミリオタ六十歳)も言葉が出なかった。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう




