第一回 緊急ライブ無事終了!……したよね?
俺だって未然に防げるものならそうしたいが、そんな危険が迫ってるなんて話したって誰にも信じてもらえない事は容易に想像がついてしまう。
どうしたもんかなあ......
「まず私の話を先に聞いて頂けますか?」
「私がハワイを離れて日本に向かい、西向きに日付変更線を越えた翌朝、私は自分の萎びた腕を見て2026年に戻り、自分自身も元の六十歳に戻ったと確信した次第なんです」
「そうすると、ひとつの問題が発生している事に気が付きました」
「ハワイでは、なぜか2026年のパスポートに入国スタンプが押され、すんなりワイキキに降り立てたんです」
「しかし、2026年に戻った際、押されたスタンプは1996年ですね」
「それに出国スタンプも無い状況でした」
「みなさんがこの状況だったらどうしますか?」
「パスポートもスタンプもすべて本物なのに、時代だけが違っていたら?」
「過去へ行って戻ってきました!って説明するんですか?」
『......』
「事前に公表するって事はこれと何ら変わらないって事です」
「まあそれはみなさん自身がよく考えてください」
「結局、私は米軍を頼る事にしたんです」
「ハワイを出る時に、その当時の海軍、陸軍、空軍、海兵隊などの指揮官や総司令部の司令官とも親しくしていてました」
「それで、餞別代りの在日米軍の陸海空、海兵隊の基地司令宛の紹介状やら何やら沢山書類を作って頂いていたので、それを見せれば何とかなるかもと言う気持ちでしたね」
「それで、横須賀の米海軍基地に入港しようとして拘束されました」
「ヨットに銃器各種、それに大量の弾薬も搭載していましたから当然です」
「名目はテロリストとしてでしたね」
「そこで一ヵ月の間、事情聴取の日々でした」
「相手側も対応に困っていたようでしたね、なんせ持ってる書類はすべて本物なんです。ただし、日付だけは1996年なところが困っていた原因でした」
「しかも、私が解放されたのは騒動が起こったその日でした。そう、昨日です。釈放手続きの最中に窓の外を歩いていたゾンビを見て、またかよと正直思いました」
「ここで、皆さんよく考えてください、この米軍に確保されてる状況で、私の話を公表したとして、こんな話を信じますか?」
「自分で言うのもアレですが、私でも信じる事は無いと思います」
「この話を信じた高橋総理が、信じたままの話をテレビの記者会見で話したとして、どうなると思いますか?」
『政府関係者の誰もが入院を勧めるよね』
『俺には野党が"総理は働き過ぎで現実と空想の区別も出来ないのか!"と叫ぶ様が目に浮かびます』
『チャンネル開設初期から、ソルティさんの動画のファンだった俺でもそんな話は信じないと思う!』
『俺も』
『俺でも』
リアルタイムで共感の書き込みが流れて行った。
確かにどうしようもなかったのは事実だが、それでも高橋さなえの心が晴れる事はなかった。
佐藤俊夫には、高橋総理の葛藤が痛いほど良く解った。
「それでは今日の緊急ライブはここで終了とさせて頂きます」
「沢山の視聴者のみなさん、ありがとうございました。近日中に高橋総理と共に第二弾のライブ放送をお届けさせて頂きます」
「国民の皆様、次回また最新の状況をお知らせさせて頂きたく存じます。ありがとうございました」
緊急ライブはこうして第一回を終了した。
「総理、お疲れ様でした」
「佐藤さんもお疲れ様でした、そしてありがとうございました」
「いえいえ、私なんかにもったいないお言葉です」
「なんせ、私は高橋さなえ総理の大ファンですから!でへへ」
このちょっとした"おちゃらけ"は、佐藤俊夫の気遣いなのだと総理は気付いていたが、あえて気付かない振りをしておいた。
「あと、総理、すでにゾンビになってしまった者はちゃんと天国へ送ってやるのが生き残った俺たちの任務だ!って、海兵隊の指揮官が教えてくれました」
「俺もそう思って戦ってきました」
「大変立派な指揮官だったんですね」
「そして、ハワイでの未来を少しづつ切り開き、明日が見えてきたので日本に帰る事に決めたんですよ。カッコイイでしょ?あはは」
本当の地獄でいろいろ経験して来たんだろうなあと佐藤俊夫を見ながら頭の下がる思いだった。
その"スタジオ"を手早く片付けて総理と並んで指揮所に戻りながら鈴木たかえが囁いた。
「さなえ姉さん、あの佐藤さんって凄い人ですね」
「そうなのよ~それに、若返りを経験してるところも羨ましいわね」
「え、三十歳若返ったってマジだったんですか?」
「たかちゃん信じて無かったの?」
「あははは。でもそれなら私も!うらやまけしからんです!」
「でねでね......」
「え、そうなんですかぁ......」
(いくつになっても女性同士はキャッキャウフフなんです)
指揮所に戻って来た総理達はその雰囲気に違和感を覚えた。
「観てましたよ、緊急ライブ」
「観てたのかあ......」
「はい、全員で」
「顔、疲れて無かった?」
「いつも通り凛々しかったです!はい」
「うふふ、それなら良かったわ」
「さて、その後の進展は?」
「羽田までの人工島は、連絡路の遮断は完了しました」
「島内の掃討に時間が掛かっております」
「それと、博多方面は関門橋の封鎖が間に合いましたので、敵は広島に目標を変更した模様です」
「大阪方面は橋の封鎖が間に合わず、梅田周辺までは辿れています」
「そう、引き続き状況報告はリアルタイムで共有をお願いね」
「広島方面で工作員を捕捉、処理が完了。保存容器は無事確保できたと報告が入りました」
「うぉー」
指揮所に歓声が上がった。
「残るは大阪ね」
「艦長、在日米海軍から連絡員を乗せたヘリから着艦申請が来ております」
「着艦したらこちらへ案内してくれ」
「観戦武官ってとこかしらね」
「アメリカ海軍中佐Matthew Taylorです。乗艦許可を」
「乗艦を許可する」
「ようこそいずもへ」
「高橋さなえです、よろしくね」
「え、マットじゃないか!」
「オー、ミスターサトウ」
「知り合いなのですか?」
「え、まあ知り合いと言えば知り合いですね」
「横須賀とか横田とかで......」
「ハハハ、そうなんですよプライムミニスター」
「で、観戦武官ッて感じですか?」
「まあまあ、そんな感じですかねえ」
「それと、お耳に入れたい情報が少しばかり......」
「ほうほう、それでは別の部屋を用意させましょう」
「丁度良かったです、ミスターサトウも同席してくださいね」
「探して連れて来る手間が省けました」
なにやら不穏な空気が漂い出した。
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次回も、生き残れたらまたお会いしましょう




